第29話 隠し事はできない
あの後、ローブの男達は姿を消していた。
俺とアリスはフィンに頼んでステファン達の居場所を探り、無事再会を果たした。
ボロボロになっている俺達を見てステファンとスフィアが何度も謝ってきた。アリスに治してもらったのでボロボロなのは服だけだが。
「私が猪狩りをしようなんて言わなければ……」
「いや、スフィア、お前は悪くない。僕が二人を背負って歩けば良かったんだ」
「いや、それは違う気が……」
ステファンが本気なのか冗談なのか分からない謝罪をしていると、アリスが笑った。
「ははは、あ、すみません。何故だかホッとして」
「良いんだ。怖かっただろう」
「はい。とても」
お、なんか良い雰囲気?
俺はこの雰囲気を作る為に頑張ったのか。そう思うと腹が立ってきた。
「ステファン、今度奢れよ」
「任せておけ。金ならいくらでもある」
「お兄様……」
余計に腹が立ってきた。こいつはなんなんだ、わざとなのか。スフィアは呆れて声も出ていない。
ステファンには事情を後で説明するとして、スフィアもいるので崖から落ちた後のこと、ローブの男たちの話は伏せて置くことにした。
俺のせいで野外活動が中止になるのも嫌だが、フィオナとの約束があるのだ。
『後でこっそり二人になれる時間を作ってやるから』
アレンと二人きりにさせる約束。俺はフィオナとの約束を破った事がない。こんなことで約束は破れない。
怪我は治っているし着替えはあるから、ささっと着替えれば問題ない。
ついでにフィンはウサギの姿に戻ってもらい、勝手にバックに入ってついてきたことにしよう。裏工作は万全だ。
◇◇◇◇
何故だ……何故こんなことになっている。
「おい、聞いているのか」
「はい、アレン様」
今、俺の目の前はアレンでいっぱいだ。軋む簡易ベッドの上で床ドンされながら。薄暗いテントの中で二人きり。
——先にスフィアに着替えを取ってきてもらい、何事もなくアレンとアルノルドの元に戻った。
アルノルドは『お帰りなさい』と笑顔で出迎えてくれた。それなのに、アレンは俺の姿を一瞥して言った。
『クライヴ、ちょっとこっちへ来い。良いと言うまで誰も入ってくるな』
アレンについてテントの中に入ればすぐにこの様である——。
「何があった?」
「いえ、何も」
「俺を騙せるとでも思っているのか」
「ち、近いです……」
アレンの右手がゆっくりと俺の服をなぞり、一つひとつボタンを外された。
「あの、えっと……アレン様?」
手はシャツの中に入り、腹部をゆっくりと指でなぞられた。
「ひゃッ」
「聖魔法の痕跡がある。それも、かなり濃い。刺されたのか?」
「……」
「はぁ……、だから俺のそばにいろと言ったんだ」
何故かアレンは悲しそうな顔で俺の顔を撫でてくる。その顔を見ていると、抵抗なんて出来なかった。
「顔は見たのか?」
「フードを被って分かりませんでしたが、一人はアンデッドを操っており、もう一人は土魔法の所有者でした」
「そうか……もう良い。これ飲んでしっかり休め」
アレンは自身の荷物を漁り、ポーションを投げ渡してきた。受け取るのを確認すると、アレンはテントから出ていった——。
「苦ッ! しかもこれ上級じゃん。さすが王子」
それにしても、さっきのアレン、手つきがエロすぎる……。じゃなくて、まるで俺が狙われているのを知っているかのような口ぶりだった。
本当に俺は何かやらかしたのだろうか。前世の記憶が戻ってからは、悪いことは何一つしていないと思う。だったらそれまでの五年で?
いや、それはないだろう。普通に考えて、五歳未満児が命を狙われるようなことができるはずがない。今度直接アレンに聞くべきか。
でも毎回あんな至近距離で、あの顔面を見ながら話をされたら心臓が持たない。いつかそっちの道に踏み外してしまいそうだ。昼間の明るいところで話をしよう。
そんなことを考えながら俺は舟を漕いだ。
◇◇◇◇
「うわ、寝過ごした。みんな、ごめん!」
目を覚ましたら真っ暗で、俺は慌ててテントの外に出た。
「アークライト先輩、大丈夫ですか? 先輩の分も食事とってありますよ」
「ああ、ごめん。俺何もしてない」
「クライヴ様、アルノルド様はお料理がお上手なんですよ。さぁさ、召し上がって下さい」
アルノルドとスフィアが食事を勧めて来るので有り難く頂いた。
食材はステファンが大量に採っていた山菜とキノコを分けてもらっていたので、それで作ったようだ。
「うまッ! 店が開けそうだ」
「えへへ、ありがとうございます。アリス……幼馴染が料理が好きで、シェフに聞きながら良く一緒に作ってたんです」
アリスの話をするアルノルドは少し照れたような、恋する少年の顔をしている。
俺とは一番関わりがない為アルノルドの情報は少ないが、よくアリスのことを目で追っているし、アリスがアルノルドを選べば一発OKだろう。
「そういえば、アレン様は?」
「ここにいるが」
「い、いたんですか!」
アレンはシートの上に寝転がっていた。いつもの存在感が全くなく、どこか物憂げに星空を見ている。その姿はなんともエモい。
「アレン様、後で少しだけお時間宜しいですか?」
「なんだ?」
「後のお楽しみです」
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