第89話 魔法大会

 本日学園は魔法大会が開催されている。


 今は一年生のチーム戦が執り行われている真っ最中。きっとフィオナは大活躍していることだろう。俺はチーム戦だけ参加を許されている為、出番までは監禁部屋で待機だ。


 ちなみに俺は、しっかりと食事もとるようにして体力はまずまず戻っている。外に出られるのと久しぶりに魔法が使えるのとで、そわそわワクワクしているとアレンが言った。


「終わったら即刻連れ帰るからな。逃げたりするなよ」


「分かってますよ」


 それはそうと、魔族が侵略してくるまで残り一ヶ月を切った。地下室の魔法陣は消したとしても、他に何か進展はしているのだろうか。俺は監禁されて何も出来ないので、皆に丸投げ状態になっている。


「今はクリステルが父上の動向を探っている」


 俺は何も言っていないのに、アレンが応えた。闇魔法は心の声をよむことも出来るのだろうか。


「そんなことは出来ん」


「どうして分かるんですか? 俺何も言ってないのに」


「鏡を見てみろ。顔に全部書いてある」


 素直に鏡を覗いて見るが、いつもの平凡な顔が映っているだけだ。何も書いてない。文句を言おうとアレンの方を見ると、肩をプルプル震わせていた。そして、アレンが吹き出した。


「本当に鏡を見る馬鹿がどこにいる」


「だって……」


 久しぶりに見るアレンの笑い顔。怒る気さえなくなってしまった。


 最近のアレンは気を張り詰めていた。この部屋の魔力感知させないシステムはどうやらアレンが二十四時間結界を張っているからなんだそう。常に魔力消費しながらアビスを警戒して夜もあまり寝ていないのだと思う。


 それにしてもアレンの魔力量はフィオナと同じくらい底が知れない。どうなっているのだろうか。そんな事を考えていると、再びアレンに心の声を読まれたようだ。


「『魔力量=愛の力』だそうだ」


 顔が真っ赤になってしまった。だって、アレンが好きなのって……。


「そろそろ出番のようだ。行くぞ」


 アレンは何事も無かったかのように真剣な面持ちで俺を連れて転移した。


◇◇◇◇


「来たな。クライヴ、サクッと終わらせるぞ」


「待ってたのよ! ずっと体調不良で休みなんだもの」


「大丈夫なの? 負けたりしないでしょうね」


 エリクとクラスメイト女子二人は、俺が来るのを待ち侘びていたようだ。そんな三人に俺は言った。


「今日は手加減なしだ。このストレス、全部発散させてやる」


「はは、相当溜まってるもんな。程々にな」


 そして、開始の合図がなった。


 四人で集まることが無かったので何の策略もないが、エリク曰く女子二人は本当に役に立ちそうにないらしい。後ろで隠れてもらうことにした。


 ちなみにチーム戦は八組が一斉に戦い、チームの四人全員が場外もしくは戦闘不能になった時点でそのチームは敗退。残った二組が個人戦に上がれるシステムだ。


 俺はこれでもかというほどに、そこら中を氷漬けにして足場を悪くした。そして台風のような大きな竜巻を作って、それに巻き込まれた人は次々と場外へ飛ばされて行った。


「あんなの反則だろー」


「あんなでかいの逃げられるわけねーだろ」


 周囲からブーイングを食らったが、これは魔法大会。魔法で作り上げたものなら反則も何もない。


 エリクはこちらに向かってくる相手に雷を落としていた。エリクはまさかの稀少な雷属性だった。感電した生徒はそのまま瀕死状態になり、場外へ運ばれた。


「エリクすごいんだな」


「死なない程度の電力にするのが難しいんだ。あんまり人には使いたくない」


 エリクはそう言いながらも襲ってくる相手には容赦せず雷を落としていた。


 それからも俺とエリクは次々と瀕死状態に追いやり、あっという間に方がついてしまった。皆、分かっているとは思うがもう一つ残ったチームはもちろんクリステルとステファンのいるチーム。


 俺のチームはブーイングの嵐だが、あちらのチームは拍手喝采が鳴り響いている。この差はなんだ。しかし、勝ちは勝ちだ。そして、俺はエリクに手を振ってから、約束通りアレンの元へ走った。


◇◇◇◇


 走っていると、すれ違いざまに声をかけられた。


「さすがだね、オレが見込んだだけはある」


 この声は——。


「アビス……」


 俺は咄嗟にアレンを呼び出した。


「クライヴ、やっと学習したようだな。偉いぞ」


 俺は突如現れたアレンに褒められた。初めてかもしれない。感極まっているとアビスがアレンに言った。


「あー、君が隠してたんだね。どうりで見つからないわけだ」


「クライヴは渡さん」


「あんたクライヴって言うのか。前は可愛い女の子だったのに、変わった趣味してるんだな」


 俺の趣味ではないが、改めて言われると恥ずかしい。


 それにしても、こんな時に考える事ではないのは重々承知なのだが……顔はさて置き、黒髪同士が睨み合っているとなんだか日本に戻ったような懐かしい気分にさせられる。俺も黒髪になりたい。


 そんな俺にアビスは手招きして言った。


「早速だがクライヴ、仲間になったお祝いに余興を準備した。こっちへ来い」


「余興?」


「行くなよ」


 こっちへ来いと言われたので、ついつい歩き出しそうになったところをアレンに止められた。危ない危ない。


「あれー、オレたち仲間になったんだよね?」


「いや、ちが……」


「キャー!」


 誤解を解こうと口を開いたが、グラウンドの方から悲鳴が聞こえたので振り返った。


 先程までの晴れ渡った空はどこにもなく、上空は闇に覆われ、翼の生えた何かが飛び交っている。地上では爆発音のようなものが轟き、悲鳴が鳴り止まない。


「何をした?」


 アレンがアビスに問いただすと、アビスはのんびりとした口調で話し出した。


「余興だよ。クライヴが仲間になったお祝いに少しばかり魔物を連れてきただけだ。魔法陣が消されたから百体くらいしか連れてこれなかったがな」


 え、百? 余興に魔物が百体も?


「ほらクライヴ、人間どもが恐れ慄く姿でも見に行こう」


 アビスが近づいてきて手を差し出してきたが、俺はその手を思い切り振り払った。


「余興なんていらない。俺はお前の仲間になんてならない」


「気に入らなかったのか? 何だったら喜ぶ?」


 アビスが眉を下げて言うので一瞬申し訳ない気持ちにさせられるが、やっていることは許せない。


「俺は何もいらない。アレン様、あれ全部倒しに行きましょう」


「良く言えたな。ささっと片付けて戻ろう」


 アレンに髪をクシャッと撫でなれ、転移で移動しようとしたアレンをアビスが阻止した。


「行かせない。オレは嘘つきは嫌いなんだ。こいつがいるからそんなこと言うんだろ? こいつ殺したらオレと一緒に来てくれるんだろ?」


 アビスはアレンの首筋に鋭い爪を突き立てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る