第48話 体育祭②

 時は遡り数分前。


「くそ、早くフィオナの所に行きたいのに」


 俺はステファンにフィオナを託して騎馬戦に出場している。


 すぐに終わらせてフィオナの元へ行く予定だったのに、思いのほか時間がかかっていた。


 着々と倒してはいるが、騎馬戦に出場している生徒は中々の強者揃いだ。その上、クリステルが何人倒したかを確認しながらの戦いになる。


「よそ見するとは余裕だな!」


 ボンッ!


 出場中の男子生徒が魔法で攻撃してきた。それをすかさずシールドで防ぐ。


 競技中は、訓練用の安全な剣と、魔法は自由に使って良いことになっている。ちなみに、落馬させるか戦闘不能にさせれば勝ちだ。


 普段なら闘志を燃やしてはしゃいでいる所だが、今はそんな余裕すらない。


「俺に構うな」


 風魔法で一気に畳みかけ、男子生徒を落馬させる。


 クリステルを含めて残り五人か。クリステルは負けないだろうから、俺は二人倒して最後にクリステルを倒せば引き分けに持ち込める。


 残り三人を倒して、クリステルに負けるという選択肢もあるが、今回の件は本当に腹が立っている。王子に楯突くなんて普段はできないので良い機会だ。叩きのめしてやろう。


 考えている内に残り四人が競い合って倒されては計算が狂う。急いで、次の標的を絞って斬りかかる。


「うわっ! 卑怯だぞ!」


 男子生徒は不意打ちを食らって落馬した。


 すかさず、もう一人にも同様に不意打ち攻撃を食らわせたが、持ち堪えた。


「ちッ。落ちなかったか」


「さっきから見ていれば生ぬるい戦い方だな」


 相手の生徒は今までと違い、メガネをかけた線が細い体付きの男子だった。到底強そうには見えない。


 恐らく頭脳派だろう。厄介なのを相手に選んでしまった。


「ヒョロメガネのくせに威勢が良いんだな」


「ヒョロ……?」


 頭脳派だろうが今の俺には関係ない。フィオナの元へ一分一秒でも早く行けるように前進あるのみ!


「望み通り、生ぬるくないのをくれてやる!」


 ヒョロメガネ君に氷の弾丸をこれでもかというほど撃ち続ける。最初はシールドで持ち堪えていたが、耐え切れなくなりあっさり勝利した。


「残るはクリステルだ!」


 クリステルも残りの生徒を倒し終え、こちらに向かって来ていた。


「やはりアークライト、お前が残ったな」


「当然だ! お前を叩きのめしてやるから覚悟しろ!」


「アリスは私のものだ。絶対にやらん!」


 ドンッ、ボンッ、ドンッ!


 クリステルが火の球を次々に打ち込んでくる。氷のシールドで防ぎながら俺は前進し、剣を振り下ろす。


「恋愛をこじらせすぎだ!」


 予想通り防がれるが、すぐさま氷球を狙って撃った。


「お前には関係ない!」


 クリステルがそう叫ぶと、一瞬にして俺の周りは炎に包まれた。馬は暴れたが氷で焼却すると馬も落ち着いた。


「関係ないなら俺を巻き込むな!」


 クリステルを睨みつけていると、一瞬校舎の上の方で何かが光った気がした。


 目を凝らして見ると、あれは……フィオナ!?


 フィオナの銀髪が太陽に反射して光っている。


「よそ見をするとは余裕だな!」


 クリステルが向かってくるので、氷塊を降らせると馬が混乱したように走るのをやめた。


 フィオナは何故あんなところにいる? 目を凝らしていると、どんどん縁の方に移動しているように見える。


「まさか……!?」


「おい、どこへ行く!」


 考えるより先に行動に出ていた。勝負なんてもうどうでも良い。フィオナが危ない。フィオナを助けないと!


 案の定、フィオナが落ちた。


「フィオナー!!」


 無我夢中だった。頭が真っ白になった。この世が終わったとさえ思った。


「お義兄様……?」


 俺はフィオナを宙でキャッチしていた。


 グラウンドから校舎の屋上までは少し距離がある。馬で走ったって到底間に合わない。自分がどうやってここまで来たのか分からない。何故宙に浮いているのかも。


 だが、これだけは言える。


「フィオナが無事で良かった」


◇◇◇◇


 地上に降り立ち、フィオナと向かい合った。


 俺は柄にもなく泣いていた。安堵の涙か、はたまた、こんなに追い込んでしまった罪悪感からかは分からない。


「お義兄様? どうして?」


 フィオナも今にも泣きそうな顔で見つめてくる。


「言っただろう。『俺が一生お前を守ってみせる』って」

 

「お義兄様覚えて……」


「当たり前だろう。フィオナの初めてのお茶会の時だったな」


 あの時の守るは多少意味合いは違ったが、小さいことは気にしない。


「それだけじゃない、フィオナと話したこと、やったこと、感じたこと、全部覚えている」


「でもわたくしより、アリスを選んだのでしょう」


「アリスを選んだことなんて一度もない。俺はフィオナしか見ていない。初めて会ったその日からフィオナ一筋だ」


 涙を流しながらフィオナは聞いた。


「でも、お義兄様は純真で可愛くてお淑やかなフィオナが好きですよね」


「ああ、好きだ」


「こんな嫉妬に狂った醜いフィオナじゃ、お義兄様のそばにいられません」


「嫉妬に狂ったってフィオナはフィオナだ。俺はどのフィオナも全部愛している」


 俺はフィオナに口付けた。角度を変えながら、確かめるように何度も何度も口付けを交わした。

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