第50話 幸せの裏側
「お義兄様、今日も素敵ですわ」
「ありがとう。フィオナも眩しい程美しいよ」
互いに愛を囁きながらも、すれ違いを続けていた俺とフィオナだったが、体育祭の一件からようやく正式に恋仲になった。アレンとフィオナはまだ婚約中なので、大っぴらにはできないが。
「仲が良いのは良い事だが、それ何回やるのだ。僕が来てから十回はやっているが」
ステファンが呆れた顔で見てくる。
「ごめんごめん、幸せ過ぎて。で、何の話だっけ」
ごめんと言いながらも、俺はフィオナとくっついたまま離れない。
「この間、空を飛んだ件だ」
「ああ、そうだった」
――この世界には魔法がある。だが、空を飛ぶことは今まで誰も出来なかった。いや、その発想がなかったと言った方が正しいのかもしれない。
フィオナが屋上から落ちた時、無我夢中で飛んだのでやり方を聞かれれば困る。おそらく、風魔法を自分にかけることで空を飛べたのだろう。
また空を飛びたいので、感覚を忘れていない内にと思い練習に励んでいる。
そして、今回、空を飛んだことを聞きつけた魔法省のお偉いさん達が表彰したいと言っているらしい。この魔法を応用すれば、馬車も必要なくなり今後の発展に役立てることができると。
しかし、何故直接我が家に便りを寄越さずステファンから聞いているかと言うと……。
『あれは誰だ?』『知らねぇ』『ステファン様の横にいつもいる奴よ』『そうそう、ステファン様の召使いよ、名前は知らないけど』
俺があまりにもモブ過ぎて誰も俺のことを知らなかった。その為、いつも隣にいるステファン経由で話が来たという訳である。なんとも複雑な心境だ。
「俺自身が魔法を使いこなせてないけど良いのかな」
「良いのではないか。実現できるかは未知だが、成功すれば国の繁栄に役立つ。成果を残せば爵位も上がっていくしな」
爵位に興味はないが、初めてこの世界に転生して人の役に立てるかもしれないと思うと嬉しい。
「了承したと返事をしておくが良いか?」
「ああ、頼む」
ステファンはお茶を嗜みながら、思い出したように言った。
「アルノルドが言っていたんだが、アリスの様子が最近おかしいらしい」
「アリスが? 俺のせいかな?」
今まではフィオナの前でアリスの話題は厳禁であった。だが、俺との愛を確かめ合ったフィオナは何も恐れなくなり、アリスの話題も平気になっている。
「お義兄様は何も悪くありませんわ。ご自身で了承していた勝負ですもの。勝っても負けても文句は言えません」
「その通りだ。それはアリスも重々承知しているはずだ」
「ですが、どうおかしいんですの? 教室では普通に見えますが」
今は互いに距離を置いて関わることがなくなったが、一時は心を許した仲だ。フィオナも少し気になるらしい。
「ぼーっとしている事が多いと聞いた」
「何か考え事でもしてるだけじゃないのか?」
「いや、それが決まって王城に招かれた後らしい」
王城か……悪魔の仲間が潜んでいる可能性大だからな。このことは他言出来ないので、ステファンとフィオナには知らせていない。
どうでも良いが、ステファンの話し方が怖い。まるで七不思議を聞かされているようだ。
「アレンにも伝えとく。俺はあまり関わらない方が良いだろ」
そして、俺はふと疑問を口にする。
「アルノルドは大丈夫なのか? 今回の件で告白も出来ないまま失恋した形になるんじゃ……」
「そうなんだ。見ているこっちが辛くなる」
何とも可哀想な話である。告白してフラれたなら諦めも付くが、無理矢理横から奪われたら納得出来ないだろう。俺なら出来ない。
「いっそ、アリスを攫って遠くへ逃げよう等と話しておるのだ。不憫でしょうがない」
「まじか……」
ここは乙女ゲームの世界。大いにありそうな話だ。
フィオナが何とも悲しそうな表情で言った。
「そのお気持ち分かりますわ。わたくしもお義兄様が他の女性のものになるくらいなら、いっそ殺してしまいたい」
えっと……未遂に終わったが既に実行済みなので、なんとコメントをしたら良いのだろうか。
「冗談はさて置き、来月には文化祭ですわよ。楽しみですわね」
フィオナが話題を変えてくれたのは良いが、冗談だったのか? さっきのは冗談で済ませて良いやつなのか?
ステファンを見てもそれについては気にもとめていない様子だ。
「お義兄様、一緒に回りましょうね」
「そ、そうだな」
——それはさて置き、乙女ゲーム自体は今後どうなっていくのだろうか。
本来なら攻略したい相手と文化祭デートからの後夜祭で愛を深め合うイベントがあり、休みを挟んで三学期には魔法大会。年度末に断罪イベントが行われて、晴れてハッピーエンドとなる。
俺が変に介入したせいでアリスは俺を慕っていた。クリステルが片想いをこじらせて無理矢理アリスを自分のものにすると言う例外が発生。
ゲーム自体が終わるには随分早いが、アリスがクリステルと結ばれた為、これでエンディングと考えて良いのだろうか。アリス的にはハッピーではないので、バッドエンド?
どうにかアリスを救ってやりたいが、例の契約書がある以上は難しい。どうしたものか……。
「お義兄様? どうかなさいました?」
「ううん、なんでもない」
フィオナを抱き寄せると嬉しそうに笑っている。ひとまず、この幸せが続いて欲しい。
アリスが実際に側室になるのも学園を卒業してから。それまでに対策を考えよう。
『お前転生者だろ? お前のせいで人類滅亡まっしぐらだ』
なんて言われることは、今の俺は知る由もなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます