第四章 乙女ゲーム裏設定

第51話 もう一人の転生者

 二年生の教室。教団には文化祭実行委員のステファンとヒョロメガネ君が立っている。


 体育祭で戦ったヒョロメガネ君は同じクラスだったのかと、失礼ながら今知った。ステファンの後ろ、四位の席にいたらしい。ステファンが眩しすぎて気が付かなかった。今度謝っておこう。


「さて、今年の文化祭は何をするか案を出し合ってもらいたい」

 

 ステファンが仕切り、板書をヒョロメガネ君が務める。


 クラスの中はザワつき始めた。催し物について話し合っているのだろうと耳を澄ました……。


『何を使ったらあんなにサラサラな髪になるのかしら』『緑が本当に綺麗ですわね』『い、今、私目があいましたわ』『あなたなんかを見るわけありませんわ』


 ズコッ!


 昭和の漫画のようにずっこけそうになってしまった。まさか、ステファンの話題で持ちきりとは。まるでステージに立つアイドルだな。立っているのは教壇だが。


 そんな中、まともに提案する生徒が挙手をする。


「お化け屋敷やりたいです」


 よりによってお化け屋敷とは。俺がそっち系嫌いなの知ってて嫌がらせをしているのか。


「お、良いね!」


「やりたいやりたい」


 ヤバい、この流れはお化け屋敷になってしまう。俺は挙手をした。


「劇が良いです」


 すると、クラスメイト達の反応は思った以上に悪く、口を揃えて反論してきた。


「えー、やだー、お化け屋敷が良い」


「劇とかセリフ覚えるのめんどいじゃん」


 あー、これはお化け屋敷に決定だな。


 項垂れていると前からクリステルが声をかけてきた。


「しょうがない、こういうのは多数決だから」


「そうだな」


 自分がお化け役ならきっと怖くないはず。そう、自分が歩くわけではないのだから!


 ちなみに、クリステルとは体育祭が終わった後からは以前のような友人関係に戻っている。

 

 あの時は腹こそ立ったが、そんなことよりも、どうにかしてあの契約書を無効にしなければならない。敵対視しすぎて更にアリスを囲われても困る。


「はい、静かにして下さい」


 ざわざわした教室が、ステファンの一声で静かになった。さすがだ。


「ではお化け屋敷の声が多いのでお化け屋敷に決定しても宜しいですか」


「「はーい」」


 こうして、俺のクラスの催し物はお化け屋敷に決定したのだった。


◇◇◇◇

 

 早速放課後から、各担当に分かれて文化祭の準備にとりかかる。


 俺はヒョロメガネ君と一緒に資材調達をすることに。


「とりあえず学園の資材室で、使える物がないか見てみよう」


 ヒョロメガネ君に提案され、俺達は資材室に向かった。


 道中、俺は体育祭の時のことを謝罪した。


「騎馬戦の時は思い切り攻撃しちゃってごめんな、ヒョ……」


「ヒョ……? ああ、あれは競技だから仕方ないだろ」


 ヒョロメガネ君が眼鏡をクイッと押し上げ、それより……と、続ける。


「僕の名前を知らないのだろ」


 ギクッ!


「いや、見たことはあった……ような、無かったような。でも、後ろだったから、あんまり見てなくて……」


 その冷ややかな目、もう二学期にもなるというのにクラスメイトの名前と顔も知らない愚か者だと思われている。


「ごめんなさい、名前を教えて下さい」


 俺は潔く謝ることにした。


「エリクだ。エリク・オーティス」


「ありがとう、オーティス君」


「エリクで良い」


「ありがとう、エリク」


 ヒョロメガネ君ことエリクは、呆れた顔をしつつも怒ったりはしなかった。


「俺の名前は……」


「クライヴ・アークライトだろ。知っている」


 俺も中々に認知されていないので、一応自己紹介をしてみようと思ったが、エリクに先に言われてしまった。


「うん、覚えててくれてありがとう」


 自分だけ相手の名前を知らなかった負目はあるが、それよりも乙女ゲームの主要メンバー以外に名前を覚えられていると思うと素直に嬉しかった。


 資材室に到着した俺とエリクは早速使えそうな物を物色し始めた。


「エリク、これなんて使えそうだと思わないか?」


「ああ、良いんじゃないか? こういうのもあったぞ」


 一通り物色したら使えそうな物は結構集まった。荷物を大きい箱に詰めていくと、扉の向こうで声がした。


「あれ? おかしいな。ここ閉め忘れてたみたいだ」


 ガチャッ。


「「え?」」


 俺とエリクはハモった後、扉を開けようとしたがびくともしない。資材室は内鍵がなく、外からしか開け閉めが出来ない仕様になっている。おまけに電気まで切られて視界が暗い。


「閉じ込められた?」


「閉じ込められたな。僕としたことが……」


 扉を壊すわけにもいかない。他に出られそうな窓がないか探したが、子供なら通れるくらいの小さい窓が一つあるくらいだった。


「まずいな。明日までこのままかも知れない」


「でも流石にクラスのやつらが俺達がいないことに気付いて探してくれるんじゃ……?」


「甘いな」


 エリクがクイッと眼鏡を顔に押し付ける。


「クライヴは僕のことを知らなかっただろ? お前も周りからは、あれそんな奴いたっけ? くらいにしか認知されていない」


「つまり……」


「僕たちモブは、このまま気付かれない可能性が極めて高い」


「まじか……」


「幸い、この部屋にはトイレが付いている。一日くらいならなんとかなるだろ」


 こういうのはヒロインに起こるイベントなのでは? 何故、野郎二人でこんなところに。


 それより、今エリクは何と言った……?


 “モブ”この世界にそんな言葉は存在しない。


「エリク、まさか……」


「やはりな。お前転生者だろ? お前のせいで人類滅亡まっしぐらだ」

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