第32話 仲直り
王都から帰ってきた俺は、夕食を早々と食べ、フィオナの部屋の前で待っている。フィオナへのプレゼントを早く渡したくてうずうずしているのだ。
「なんですの?」
「良いから良いから」
部屋に通された俺は、フィオナと向き合った。やはりまだ機嫌が直っていないようで、目を合わせてもらえない。
「フィオナ、ちょっと目を瞑ってくれる?」
「……?」
「良いから目を瞑って。良いと言うまで目を開けちゃダメだからな」
プレゼントは貰うのも嬉しいが、渡す方も楽しいものだ。どんな反応をするのかソワソワドキドキする。
喜んでくれたら良いが『こんな物いらない』と言われれば、暫く立ち直れそうにはないが……。
フィオナが恐る恐る目を閉じた。
まつ毛長ッ! 顔ちっちゃいし、肌なんて真っ白だ。
いかんいかん、プレゼントを渡さねば。ちなみにプレゼントは、最初に惹かれた羽をモチーフにしたペンダント。
初めてフィオナに会った時、本気で天使だと思った。フィオナには天使の羽が良く似合う。そう思ってこれを選んだ。
正面からフィオナの首に手を回し、ペンダントのフックをつけようとする。が、思ったようにつけられない。
正面から手を回している為、顔と顔との距離が数センチもない。今更ながら後悔した。普通に手渡せば良かった。心臓まで騒がしくなってきた……。
前世にテレビの特番で見たことがあった。女性にペンダントを渡す時は正面からが一番喜ばれるって。
これはそういう意味だったのか! 義兄妹でするものではないのは確かだ。だが、後戻りはできない。
「お義兄様?」
ぅう……。
フィオナの唇が俺の首筋に触れるか触れないかの際どいところにあるようで、ゾクゾクしてくる。
ああ、吐息はまずい。フィオナ、わざと……ではないよな。
こういう時こそ冷静に、理性を保つんだ。嫌われたくないだろう、俺!
心の中で葛藤を繰り広げていると……。
やった、フックがついた! 後は髪をチェーンから出せば任務は完了だ。
チェーンから銀色のサラサラの髪の毛を掬い出すと、フワッと石鹸の匂いに混じって何やら甘い香りがした。
もう無理だ……。
俺はフィオナから距離を取って蹲った。
「お、お義兄様? 大丈夫ですの?」
「う、うん。目を開けて良いよ」
フィオナがゆっくり目を開けると、胸のペンダントを見て、じっくり触った。
「お義兄様、わたくし、とっても嬉しいですわ」
「フィオナ、ストップ!」
感極まったフィオナは俺の元へ来ようとしたので制止した。このまま近づいたら本気で押し倒しそうだ。
「どう致しましたの?」
「いや、喜んでもらえたらそれで良いんだ」
一度呼吸を整えてから続けた。
「俺はフィオナに嫌われたら生きていけない。アレンの事も俺が軽率だった。悪かった。これからも仲良くして欲しい」
気付かなかったんだ。フィオナがそんなにアレンを思っていたなんて。俺がフィオナの大好きなアレンに手を出したと思って怒っていたのだろう。健気だ。
「わたくしも、お義兄様なしでは生きられませんわ。アレン様の事はもう良いのです。分かって下されば」
良かった。フィオナと仲直りが出来た。
「それから、フィンはあくまでも使い魔だ。義妹はフィオナただ一人だから。フィンの事はこれからも可愛がって欲しい」
「当たり前ですわ。お義兄様はわたくしだけのお義兄様ですもの」
「フィオナ……」
ここで義兄妹、仲直りのハグといきたいところだが、今の俺にそんな余裕はない。
「今日はもう遅い。野獣が入って来ないようにしっかりと鍵を閉めて寝るんだぞ」
「ふふ、なんですのそれ」
フィオナが極上のスマイルを俺に向けてきた。
「このペンダント、お義兄様だと思って肌身離さずつけておきますわね……誰にも渡しませんわ」
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