第33話 攻略対象は自分で選ぶ
※アリス視点です※
学園の中、私アリスは攻略対象達との個別イベントを回避しながら歩いている。歩いていると、中庭のガゼボが空いていたので一人座った。
「はぁー、友達が欲しい、話し相手が欲しい」
学園に入学してから早二ヶ月、友達が一人も出来ない。周りは既にグループが出来ている。
悪役令嬢のフィオナですら、スフィアとその他数名の気品のある御令嬢と良く話をしているのに。
だからと言って、私はぼっちと言うわけでもない。何故ならアルノルドが常に一緒にいるから。
アルノルドは顔も良く、気さくなので周りからも人気だ。だが、そのアルノルドと一緒にいる私は女子生徒からは妬みの対象になる。
男子生徒からはたまに声をかけられることもある。私、見た目は可愛いから。嫌味とかではなく本当に。
だが、アルノルドが私に関わる男性は全て牽制していくので、すぐに声もかけられなくなる。
アルノルドはワンコ系キャラだから彼女に対しては一途で良いのだが、付き合ってもいないのに束縛が激しすぎる。
「アリス? こんな所で何しているんだい?」
「あ、ちょっと一人で考え事を」
話しかけてきたのはクリステルだ。まさか回想中に声かけられるとは思わなかった。『そのままあっち行きなさいよ』という思いとは裏腹にクリステルは言った。
「隣良いかい?」
どうしてそうなるのよ。話し相手は欲しいけれど、あなたではないことは確かよ。
乙女ゲームでは、正統派と言われるクリステル。逆に言えば面白味にかける。ダメンズウォーカーの私には一番良い相手かもしれないが、私にだって常識がある。婚約者のいる異性と二人きりは駄目だ。
既にクリステルのファンから警告も受けている。あれは、野外活動が始まる一月前のこと――。
先生に頼まれたプリントを職員室に運んでいる最中に落としてしまった。それをクリステルが拾うのを手伝ってくれた。そこまではまだ良い。人助けでクリステルの評判が上がるだけだ。
その後が問題だ。あろうことか分かれたはずのクリステルが隣を歩いていたのだ。側から見れば仲良く歩いているように見えるはず。
「恐れながらクリステル様、お断り致します」
「なんと!」
まさか断られると思っていなかったようで、非常に驚いた顔をしている。
「私は、レイヴェルス様が悲しい思いをされるのを見たくありませんので」
「なんと良識のある女性だ」
「ですので、私がこちらの席をお譲り致しますね」
クリステルは、しばし悩んだ末にこう言った。
「クライヴ・アークライトとは仲が良いと聞いた。私の友人でもあるのだ。複数名で一緒に勉強会でもどうかな」
「二人でないのなら……分かりました」
「決まりだな。それではまた」
クリステルは爽やかに去って行った。
何故クリステルがあそこまで私を誘うのかは甚だ疑問だが、ゲームの強制力みたいなのがあるのかもしれない。
それに従うのも癪だが、私が受け入れた理由は言うまでもない。クライヴがいるからだ。何を隠そう私は今、恋をしている。しかも理想のモブ顔よ!
あれは野外活動でのこと――。
友達出来るかも! と期待した私だが、流石乙女ゲーム。見事に攻略対象や主要メンバーとしか一緒にしてくれない。
主に私はステファンと行動する事が多かった。顔は良いが、お色気キャラのはずなのに話している事が残念すぎる。
でも、そのおかげでクライヴと関わりを持つ事ができた。
クライヴは、崖から落ちた私を必死で助けてくれた。一瞬気を失っていたが、抱きしめられた状態で頭をポンポンと撫でられて気がついた。
「ああ、今思い出しただけでキュンキュンするわ!」
恥ずかしくてそのまま気絶したふりをしていたら、お姫様抱っこで洞窟まで運んでくれた。
運んでもらっておいてなんだが、地面だから硬いなと思っていたら上着を枕代わりにしてくれて……なんて気がきくの! と、感心した。
背中を治癒するのに服を脱がせたけど、見た目より筋肉がしっかりついて引き締まっていた。『この体に抱きしめられていたのか』と、思ったら思わず感嘆の声が出てしまった。
その後はアンデッドが出てきて怖かったけど、またまたクライヴが命がけで助けてくれた。そして、お腹の傷を癒したら再びポンポンと頭を撫でられた。
「なんなの、あれ! モブ顔なのに格好良過ぎでしょ! 好きにならない方がおかしいわ」
――という感じに私は恋をしている。クライヴとは学年が違う為、どう接触しようか日々悩んでいるくらいだ。
この間の王都でのお出かけは良かった。ステファンから手紙が来た時は警戒したが、内容を見て喜ばずにはいられなかった。
二人邪魔者はいるけれど、恋する乙女は会えるだけで嬉しいものだ。ついついはしゃいでしまった。タイプを聞かれて、思わず正直にクライヴの事を言ってしまう程に。
『優しくて頼りになる人が良いです。命懸けで守ってくれて、最後に頭ポンポンってされた時にはもう……』
「あれはもう告白したも同然よね。あれで分からなかったら相当鈍感だわ」
私が上目遣いしてお願いする時なんて、顔を真っ赤にしてるし、あれは脈アリね!
あざといと言われようが、好きな男の為ならどんな仕草だって一番可愛く見せる努力を惜しまない。それが私よ! 乙女ゲームの攻略対象なんてどうでも良いわ。
クライヴを攻略してみせるんだから!
ちなみに、フィオナが転生者なのかは確認が取れていない。
フィオナとは野外活動で一緒の班だった。テントは男女別だから、夜はフィオナが転生者なのか探りを入れるつもりだった。ついでに恋バナもしたかった。
だが、フィオナはどこかへ行ってしまい、戻ってきた頃には私も寝てしまっていて、朝になっていた。
「まぁ、フィオナの正体は追々確かめれば良いよね。虐められてないのが何よりの証拠よ」
今度屋敷にも招待してもらえることになったし、私がクライヴと、フィオナはアレンと結ばれる。
「ハッピーエンドじゃない!」
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