第34話 勉強会①
ここは二年生の教室。
「聞いてくれよ、ステファン!」
「ん? どうした?」
「フィオナと仲直り出来たんだよ! これで俺の生活にも華が戻った」
「良かったではないか」
フィオナと仲直り出来た事をステファンに伝えると、笑顔でうんうんと頷いてくれる。
ステファンの一緒になって喜んだり悲しんだり、何にでも親身になってくれるところが、俺は好きだ。
「何やら楽しそうだな」
話しかけてきたのはクリステル。クリステル、俺、ステファンの順に席が並んでいる為、普段から三人で話す事が多い。
クリステルにもフィオナとの仲直りの経緯を説明すると、タイミングよく相槌を打ちながら聞いてくれた。クリステルも聞き上手だ。女子にモテるわけだ。
「話は変わるが、アークライト、アリスとは仲が良いのか?」
「アリス?」
「ウェルトン嬢のことですか?」
クリステルからアリスの名前が出たことに驚いた。
「ああ、そのアリスだ。何やら友人ができないとぼやいて、深刻そうな顔をしていたんだ」
「アルノルドがいるじゃん」
俺は即答したが、それに対してステファンが言った。
「あれは……ちょっと違うんじゃないか」
「違う?」
「アルノルドは良い奴だが、ウェルトン嬢を囲っているようにしか見えない。それをウェルトン嬢は好ましく思っていないようだ」
ステファンは自分のことになるとポンコツだが、他人のことになるとやけに鋭いところがある。クリステルもそれに付け加えるように言った。
「そうなんだ。少し二人を離して息抜きも必要かと思ってな。私達が出る幕ではないのかもしれないが、フィオナやスフィアも呼んで、皆で勉強会を開くのはどうかと思ったんだ」
確かに、アリスはフィオナと友達になりたがっていた。フィオナとの仲を取り持って欲しいと屋敷に招待する約束までしている。
今のところフィオナに危害はなさそうだし、問題ないだろう。むしろ、屋敷で一対一になるより安全パイかもしれない。
「そうだな。架け橋になってやるのも良いかもしれない」
「では決まりだな。次の休みはどうだ?」
「了解。フィオナ達にも聞いてみる」
◇◇◇◇
と言うわけで、俺たちは今、王立図書館に来ている。
メンバーは俺とクリステルとステファン、フィオナとスフィアとアリスの六名だ。学生同士の勉強会。青春って感じで良い。
「おい、俺のことを忘れているぞ」
あ、ついでに何故かアレンまでついて来ていたのを忘れていた。七名だな。
アルノルドとアリスの距離を離して友人を作ろうの会なのでアルノルドはいないが、その他の主要メンバーが揃っている。
顔が良すぎて眩しい。俺だけ邪魔な気がしてならない。
「帰ろうかな」
「え、お義兄様? 帰っちゃうんですか? それならわたくしも帰りますわ」
「いや、何でもない。フィオナ、アリスがお前と仲良くなりたいらしい」
「そうなんですの?」
フィオナはアリスの方に向き直り、淑女の笑みを浮かべた。
「ウェルトンさん、ご機嫌よう。わたくしの事はフィオナとお呼び下さい」
「あ、ありがとうございます! 私のこともアリスとお呼び下さい。是非お友達になって下さい!」
「是非」
余裕なフィオナと反対に、アリスは緊張して体に力が入っているのが見ただけで分かる。初々しい。
「私もアリスさんとお呼びしても宜しいかしら。私のこともスフィアで宜しくてよ」
「ありがとうございます!」
出だしは好調だ。男連中はいらないのでは、とふと思ったが今更遅い。まぁ、勉強会だし、真面目に勉強しよう。
早速女子と男子で分かれて座り、各自好きな分野を勉強している。分からない箇所があれば質問し合ったり調べに行くといったスタンスだ。
平和な日常って良いなと穏やかな気分に浸りながら、資料を探しに席を立った。本棚から目当ての本を見つけ、手に取ると……。
『——です』
アリスの声?
本棚の向こう側で、小声で誰かと話をしている声がする。本棚の隙間から向こう側が覗けたので、そーっと覗いてみた。
真っ赤な髪が見えたので、アリスの話している相手がすぐにクリステルだと分かった。
『私のせいで嫌がらせを受けていると聞いた』
『そんなことありません』
『だが、心配なんだ。これ以上エスカレートしたらと思うと』
『クリステル様……』
ぽい! なんか乙女ゲームっぽい! 本編が始まってから初めて見たかもしれない。こんなにまともなシチュエーション。
だが、今日はスフィアも一緒なのに二人きりで大丈夫なのか。
「スフィアに見られたら大変だな」
「だよな。って、アレ……んぐっ」
アレンが俺の口を塞いできた。シーっと人差し指を口の前に当てて、静かにするよう合図され、大人しくすれば口に当てられた手を解放された。
俺は向こう側に聞こえないように小声で聞いた。
「どうしてアレン様が?」
「あいつ、城でも何かおかしいんだ」
「クリステルが?」
アレンが手招きして耳をかせと言ってくるので、言われるがまま近づく。
俺のピアスを指でなぞりながら、アレンは耳元で色気たっぷりの声で囁いた。
「お前はいつになったらこれを使ってくれるんだ」
「ひゃっ……!?」
くすぐったくて変な声がでてしまった。
ちなみにこのピアスは、アレンを呼びたい時に呼べる魔道具だ。呼びたい時など無いので一度も使っていない。
「静かにしないとバレるぞ」
「だ、誰のせいですか」
アレンは放っておいて、クリステルとアリスの会話を再度耳を澄ませて聞いてみる。
『私に出来ることは何でもしたい』
『本当に気にしないでください』
『婚約破棄して、大々的にアリスを守ることも可能だ』
『そんな……』
アリスは困惑しているようだが、クリステルに引く気配はみえない。
『そんなことをすれば、スフィア様が悲しみます』
『政略結婚だから問題はない。新たな良い条件の男を探してやれば良い』
『……』
『私はアリス、君に一目惚れしたんだ。受け入れて欲しい』
『でも……』
『急がない。半年でも一年でもそれ以上でも私は待つから。考えておいてくれ』
一方的に想いを伝え、クリステルは元の席に戻っていった。
アリスはクリステルルートに入っていたのか。てっきり、ステファンルートが濃厚なのかと予想していた。野外活動でも一緒だったのもあるが、その後も王都へ出かけたり、雰囲気も良かったから。
ステファンではないが、友人の妹は自分の妹も同然。スフィアの気持ちを考慮しつつ、最善の策を練る必要がある。
「なるほど、そういうことか……」
「アレン様?」
「いや、なんでもない。早く戻らないとフィオナに怒られるぞ」
アリスも時間差で戻ったようで、既にいなくなっていた。
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