第98話 転移門
アリスが部屋を出て行って十分くらい経過した。
「アリス、何を話してるんだろ?」
俺の問いに平然とアレンが応えた。
「さぁ、さっきの魔王城壊した謝罪か何かじゃないか」
あの惨劇はやはりフィオナ達によるものだったのか。後で謝罪しなければ。溜め息を吐いていると、フィオナが自身の顔に手をあてながらベッドの端に座って言った。
「先程の魔王様は本当に恐ろしかったですわ。思い出したら目眩がし始めました。お義兄様、ベッドを一緒に使ってもよろしくて?」
「ああ、大丈夫か? ほら」
布団をめくるとフィオナが入ってきた。それを見たアレンは呆れた顔をして言った。
「恐ろしいのは魔王様じゃなくてお前自身だろう。壁に穴を開けまくりやがって。国際問題に発展したらどうする」
「それは申し訳ありませんでしたわ」
フィオナがムスッとしながら謝ると、フィオナとは反対側の俺の横にアレンが腰掛けて脚を組んだ。そして、憂いを帯びた表情で言った。
「クライヴ、俺はここに来る為に魔法が使えなくなったんだ」
「え……」
驚いていると、いつものように俺の頬を撫でてきた。
「分かるか? それほどまでにお前と一緒にいたいんだ」
「アレン様……」
「俺はもう非力だ。お前に守ってもらいたい。駄目か?」
そこまでして俺のことを……。はい、と返事をしようとしたらフィオナに遮られた。
「アレン様、同情を引こうなんて卑怯ですわ。魔法が使えなくなったのは残念ですが、非力とはどの口が仰っているのかしら」
「この口だが、何か問題でも?」
「ここに来る道中の魔物をばったばったと一人で倒しておきながら、アリスも呆れていましたわよ」
また始まった。俺を挟んで喧嘩するのはやめて欲しい。仲が良いのか悪いのか。喧嘩するほど仲が良いって言うから、仲が良いのだろう。いっそ……。
「フィオナとアレンが結婚すれば良いのに」
「「は?」」
まずい、心の声が漏れてしまった……。
フィオナとアレンに般若の如く怖い顔で睨まれた。そしていつものように二人による説教が始まった。
◇◇◇◇
説教が終わったのが分かったかのようにアリスがアビスを連れて戻ってきた。
「どうしたの? なんかやつれてる気が……」
「はは、何でもない。ところで何話してたんだ?」
俺が聞くと、アビス父が現れて代わりに応えた。
「魔界と人間界に転移門を作らないかと提案されたんだ」
「転移門?」
「今、魔界と人間界を行き来出来るのは我々魔王家と一部の種族しかいないんだ。それも、自由に何回もというわけにはいかない。そこで、アリスちゃんが提案してくれたのが誰もがいつでも行き来出来る転移門だ」
魔界はとても良いところだ。そんなことが出来たら理想的だが、そんな大それたことが出来るのだろうか。それについてアリスが応えた。
「私の聖属性って特別らしいのよ。教会で魔法の使い方を調べていると分かったの。魔族の闇の力と聖女の光の力、交わることのないこの力を合わせることで異次元空間を経て二つの場所を繋げることが出来るんですって」
「つまり?」
「つまり、魔王様と私の力を合わせて魔界と人間界を繋げれば魔法の効力が無くなるまでは行き来し放題ってことよ」
アリスの発言に疑問が生じたので聞いてみる。
「でも、効力が無くなるまでってことはそんなに長い間は持たないんじゃないか?」
「魔王様の力は絶大よ。そして、私を誰だと思っているの?」
アリスは察しなさいといった様子で俺を見て、補足して言った。
「『愛の力で聖女の力は無限大に』よ」
これはヒロインが攻略対象とハッピーエンドを迎えた時に起こること。てことは、アリスはアルノルドと……。
「そうよ。晴れてハッピーエンドよ」
どや顔でアリスはそう言った後、真剣な面持ちでアレンに向き直った。
「ただし、これは魔界と人間界のいわゆる国同士の問題です。転移門を作るお手伝いは出来ますが、それをするかどうかは国を治める国王陛下や殿下方にお任せします」
「承知した」
◇◇◇◇
転移門や国交を結ぶのはスケールが大きい為、即決は出来なかった。アビス父とアレンとで話し合い、一旦持ち帰ることとなった。
そして、俺も人間界に帰ることにした。しかし、転移で人間界を行き来するのも制限があるらしく、アビスが次に転移できるまでの数週間は魔王城でお世話になることになっている。
フィオナとアレン、アリスは魔王城の修復作業の手伝いをしている為、今はアビスの部屋でフィンをモフモフしながらくつろいでいる。
「クライヴ」
「ん? なに、アビス」
アビスは俺に声をかけたのは良いが、もじもじしながら俺の顔をじっと見て次の言葉が出ないでいる。そんなアビスにフィンが擬人化して言った。
「煮え切らないですね。ご主人様が寛容だから良いですが、はっきり物を言えないのですか」
「フィン、言い過ぎ」
「申し訳ありません」
「人にはその人のペースがあるんだから。ほら、フィンのせいで余計言いにくくなったじゃないか」
フィンが元の姿に戻ってそっぽを向いた。フィンは都合が悪くなるとすぐに元の姿に戻る。卑怯だ。
「で? アビスなに?」
フィンに叱られたアビスは、俺ではなくじっとフィンを見ていた。
「使い魔って良いな」
「ん?」
「ご主人様第一だもんな。ご主人様に害があればすぐ守りに行けるし、それにこうやって何もなくてもモフモフしてもらえるし。それにそれに――――」
何故かアビスは興奮しながら使い魔のメリットを熱弁しだした。途中からよく分からなくなったので、曖昧に相槌を打ってその場をやり過ごしていた。
「うん、うん」
「でも使い魔って一人につき一体なんだよね。クライヴの使い魔にはなれないからさ」
「うん、そうだな」
「アレンの使い魔になろうと思うんだ」
「うん、そうだな……は?」
「本当に? そう思う? じゃあオレ、交渉してくる!」
そう言ってアビスは部屋から消えた。そして一分くらいですぐに現れた。
「了承もらえた」
「え、早くない? アビスはアレンの使い魔になったの? てか、悪魔って使い魔になれるの? 魔王子が人間の下について良いの?」
俺はアビスを質問攻めにし、アビスが嬉しそうに応えた。
「うん。使い魔っていわゆる契約だからさ。利害が一致すればなれるんだよ。あいつ命懸けでクライヴを守ろうとしたんだよ。格好良いよね」
「まぁ、うん、そうかも」
アレンはいつも俺を守ってくれる。見た目云々ではなく、普通に格好良い。何故だか、友人を褒められると自分が褒められているようで、くすぐったい。
「あいつ絶対これからもクライヴから離れないから、自動的にオレもクライヴ守れるようになるだろ。あ、でもオレが住むのは魔界だけどね。あいつ魔法も使えなくなってるみたいだし、ちょうど良かったよね」
「それって……まさか」
アビスは嬉しそうに恐ろしいことを口にした。
「アレンはオレと同等の力が使えるってことだよ。友人としてならクライヴと遊んで良いって許可もらったし、利害は一致したよ」
「はは……」
元々強かったアレンが最強になってしまった。
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