第44話 手紙
※アリス視点です※
ウェルトン男爵邸。
「どうして? クライヴを攻略すると決めてから、何もかもおかしいわ」
勉強会を開催してもらったのは良いけれど、何故かクリステルに言いよられた。あれは、クリステルルートに入った時に言われるセリフ。
私は知らない間にクリステルルートに入っていたの?
その後だって、クリステルのファン達が嫌がらせをしてきた。ただ違うのは、本来助けてくれるのはクリステルのはずなのに、毎回居合わせるのはクライヴだということ。
私としては、クライヴに助けられた方が良いわよ。普通に嬉しいもの。
泣き落としも効果的で、クライヴからはとにかく優しくしてもらえた。夏祭りだって誘ってもらった。二人きりではなかったけれど。
クリステルからも誘われたが断った。だって、行ってしまったら確実にクリステルルート確定ってことになる。
だけど、イベントにはない誘拐事件が起こった。私が攻略対象をクライヴにしたから? 誘拐される時もクライヴが助けに来てくれたし。何故かアレンも急に現れたけど……。
「ゲームにはない新たな展開ってやつよね。きっと」
泣きながら抱きついたら拒まなかったし、これはチャンスと思って告白までした。返事は未だにないが、学園で聞けば良い。
「でも、フィオナのあれはなんだったのかしら。本気で殺されるかと思ったわよ」
同じ転生者でも、悪いタイプの転生者なのだろうか。ヒロインがいてはどう足掻いたって自分が断罪される。ならいっそ殺そう、みたいな? きちんと“私は無害です”って伝えないと今後も同じことが起こりそうね。
トントントン。
「アリスお嬢様、失礼致します。お手紙が届いております」
「ありがとう」
メイドが手紙を届けに部屋に入って来た。それを受け取ると、メイドは静かに出て行った。
この封蝋どこかで見たような。差出人は……。
「クリステル? この間の王都でばったりイベントの謝罪か何かかしら」
――先日、王都に珍しく一人で出かけた。珍しくというのも、いつもアルノルドが付いて来るからだ。
そこで思いがけずクリステルと会ってしまった。あれは誰にも防ぎようがないと思う。
『アリス? こんなところで会うなんて運命としか言いようがない』
クリステルは満面の笑みで話しかけてきた。
『ご機嫌よう、クリステル様。まさかお会いするなんて思ってもいませんでしたわ』
『夏祭りでは災難であったな。兄上から聞いた。本当に無事で良かった』
『ありがとうございます。では、失礼致します』
私は早く退散したくて話を切り上げた。だが、クリステルは引き下がらない。
『少しお茶でもしていかないか?』
『いえ、私は……』
断ろうとした矢先に、私の腹の虫がぐぅと鳴った。漫画か! って本気で突っ込みたくなったわ。
『ちょうど良い。あそこなら食べるものもあるだろう。さぁ、行こう』
『え……』
有無を言わさずクリステルは私の手を引いて歩き出した。店に入ったからには注文せざるを得ない。十五分くらいはクリステルに付き合おうと諦めた。
『アリスは何が好きなんだい?』
『なんでも大丈夫です』
この適当な返事が失敗だった。よりにもよって切り分けるのに時間がかかるフルーツたっぷりのパンケーキを選ぶとは……。
『アリスが食べる姿は小動物のようで愛らしい。見ているこちらがほっこりする』
『そうですか? スフィア様の方が可愛いですよ』
『スフィアは機械的だから……なんでも卒なくこなす』
『素晴らしいではありませんか』
クリステルの構ってちゃんオーラが鬱陶しい。アルノルドの方がマシかもしれない。
『窮屈なのだ。アリスのように自由奔放な女性が私には合っている』
『馬鹿にするのも大概にして下さい! 私は婚約者のいる殿方と愛を育む気はいっそありません』
『待ってくれ。婚約破棄すれば私の元へ来てくれるか?』
『私には好きな人がおりますので、何をしたってクリステル様のものにはなりません』
少し声が大きくなってしまったが、言いたい事を言ったのでスッキリした。これでクリステルも諦めてくれるだろう。
『クライヴ・アークライトか』
『え? どうして……』
クリステルがクライヴの名を口にした。その後は諦めたのか何も話さなくなり、すぐに解散した——。
「え?」
クリステルからの手紙には先日のカフェでの謝罪に追加して、こう書かれていた。
『私にもチャンスが欲しい。二学期に入れば体育祭がある。そこでアークライトに負ければアリスを潔く諦める。だが、私が勝てば私のところに来てくれないか? 承諾してくれるなら、もう一枚の便箋に記して返信して欲しい』
この便箋って……契約を破らないように魔法が付与してある。
そこまでする? こじらせすぎじゃない?
体育祭の勝敗如きで私を手に入れられると思ったら大間違いよ。でも……私を奪い合う為に頑張るクライヴの姿が見てみたい気持ちもある。
「良いわ。こういうのはヒロインに有利になっているのよ。受けて立とうじゃない」
私は承諾の返事を書いた。
「でも、あの二人同じクラスよね? どうやって競うのかしら」
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