第26話 野外活動
野外活動前日。
俺の部屋で野外活動の準備をしながらフィオナとお喋りをしている。
「わたくし、お義兄様と同じ班が良かったですわ」
「くじだから仕方ないよ。でも、場所は同じだから何かあったらすぐ来いよ」
自宅のフィオナはゆるふわ三つ編みに、ふんわりした白のレースのワンピースを着ており、極め付けにフィンを抱っこしている。
尊い……。尊すぎる。
この姿はこの屋敷にいる人しか見ることが許されない。言わば家族の特権だ。
「お義兄様、わたくし泊まりなんて心細いですわ……」
フィオナの顔がいつのまにか俺の目の前まで移動して来ており、少し戸惑った。うるうるした瞳で上目遣いされ、一撃で俺の心臓は射抜かれた。
「フィオナ……」
フィオナの澄んだ青い瞳から目が離せなくなり、見つめ合う。
「お嬢様。そこまでですよ」
「また邪魔をするのですか。ルイ」
あ、危なかった。後三秒遅かったら義妹にキスするところだったよ。
『お義兄様の変態! 顔も見たくないわ』
なんて言われたら普通にショック。ショック死するレベル。ルイありがとう!
最近こんなことが良くある。ルイがいつも止めてくれるので一線を越えずに済んでいるが、義妹に発情しそうになるなんて。欲求不満なのだろうか。
「俺も婚約者探した方が良いのかなぁ」
心の声が漏れてしまった。
「お義兄様!?」
「クライヴ様!? とうとうその気になられたのですね!」
「ルイ! 余計な事は言わないで頂戴」
フィオナが一瞬ルイをキッと睨んだように見えたが、フィオナが睨むなんてことはしないから見間違いだろう。
「お義兄様、お気を確かに。お義兄様はまだ学生です。急がなくて大丈夫ですわ」
「フィオナも学生なのに婚約してるじゃないか」
「うッ……。わたくしのはあれですわ。ただの成り行きですので、例外ですわ。ほら、ステファン様だって御婚約されていないでしょう?」
「確かに……」
「お義兄様の婚約者はすぐ近くにいますから、その時が来るまで待っていて下さい」
「近くに……?」
フィオナは誰のことを言っているのだろうか。俺の知り合いに女性って言ったら、スフィアくらいしか思い当たらない。
まさか……イレーナ先生? まさかね。
「お義兄様、とにかく今は明日の野外活動の準備を致しましょう」
「あ、ああ、そうだな」
◇◇◇◇
「はいはーい。みんないる? 同じ班でいない子がいないか確認し合ってね」
野外活動では、イレーナ先生が指揮を取っている。班は四人一組で、思った通り見事に攻略対象や主要メンバー達が集まっている。
一班が、クリステル、ステファン、アリス、フィオナ。二班が、アレン、スフィア、アルノルド、俺。
俺は主要メンバーではないのだが、くじだから仕方ない。
ヒロインと悪役令嬢が一緒ってのは気になるが、ステファンもいるし大丈夫だろう。でもやっぱり後で様子を見に行こう。
「クライヴ」
「はい、なんでしょうアレン様」
隣にいたアレンに呼ばれたので、アレンの方を向いた。刹那、俺の顎をクイッと持ち上げられた。
「クライヴ、運が良いな。一日中一緒だ。何をして楽しもうか」
「な、なッ……!」
何故こいつはこんなに顔が良いんだ。間近で見ると更に色気が増している。
『アレン様の思うがままに……』
なんて、ついつい口走りそうになる。
「アレン様、皆さんドン引きされていますよ」
「そうか? 皆嬉しそうにしているが」
周りを見ると、男女共に顔を真っ赤にしてキャーキャー言っている。どの世界でもこういうのは需要があるようだ。
「アレン様、わたくしのお義兄様から離れてください!」
フィオナが俺からアレンを引き剥がしてくれた。
「すまない、フィオナ。婚約者なのに離れ離れになってしまった悲しさを君の兄君で癒そうとしたまでだ」
「意味が分かりませんわ。わたくしだって癒されたいのに我慢していますのよ」
「フィオナ……」
フィオナの頭をポンポンと撫でてやるが、いつものような笑顔ではなく、何やら泣きそうな表情だ。
そんなにアレンが良いのか。仕方ない。
「後でこっそり二人になれる時間を作ってやるから」
フィオナの耳元でそう囁くと、ガバっと顔を上げてみるみる笑顔になった。頬もほんのりピンク色になっている。
「約束ですわよ!」
そういってフィオナは班に戻って行った。
「脱線したが、一年生二人はいるか?」
「はい! 僕もレイヴェルスさんもいます」
元気よく答えたのはアルノルド。スフィアは隣で淑女の笑みを浮かべている。
「僕たちお邪魔だったらすいません! まさか、アレン殿下とアークライト先輩がそういった仲だとは知らずに……」
ん……? んん……?
「アレン様、普通に勘違いされてるじゃないですか! 何やらかしてくれてるんですか」
「何か問題でもあるのか?」
「いや……」
問題はない。俺が男色でアレンと恋仲だと思われたところで、婚約者どころか好きな人すらいない。誰にも迷惑はかからない。かからないが……。
俺は考えるのをやめることにした。
既に開始のベルもなっており、各班適当なところにテントを張り出していた。
「とにかくテントを張って自給自足だ。アレン様とアルノルドはテントをお願いします。俺とスフィアで食糧調達してきます」
色々あったが無事に野外活動が開始された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます