第92話 クライヴ救出計画

 時は遡り、人間界では。


 学園に現れた魔物を殲滅したフィオナをはじめとする乙女ゲームの主要メンバー達は、一堂に会していた。


「どうしてなのですか? どうしてお義兄様が悪魔に付いていかなければならないのですか!?」


「ごめん、俺のせいだ。俺が弱かったから……」


「アレン様のせいではありません。あの状況では仕方のないことでした」


 クライヴがアビスに付いて行った事に対し、フィオナは怒りと悲しみを露わにし、アレンはひたすら謝罪する。それをアリスが庇うといった状況が続き、他のメンバーも苦虫を噛み潰したような顔で俯いていた。


 そんな中、エリクが口を開いた。


「ここで言い合っても仕方ない。助け出す手段を考えよう」


「そうですわ! 早くお義兄様を助けに行きましょう」


「俺だってすぐに助けたい。だが、魔界へはどうやって行けば良いんだ……」


 アレンの言葉に皆が再び黙り込む。そして、ステファンが言った。


「あの魔法省にいるジャンとかいう奴に聞いたら分からないでしょうか? 魔界と人間界を繋げる魔法陣を描くくらいですから」


「そう致しましょう! わたくしが今から聞いてきますわ。ルイ、馬車を出してちょうだい」


「俺も行く! 顔も知っているし、居場所ならこの魔道具で分かる」


 そう言って、フィオナとアレンは部屋を出た。エリクはその後ろ姿を目で追いながら言った。


「やっと落ち着いて話せるな」


「今のあの二人は何を言っても駄目ですからね。作戦を練った後に報告するくらいが丁度良いです」


 アリスも冷静にそう言うと、クリステルが提案してきた。


「父上が黒幕であれば、悪魔は父上に直に会うことが多いと考えられる。父上の部屋を見張って、悪魔を生け捕りにするのはどうだろうか」


 それに対し、ステファンが応える。


「あのアレン殿下でも敵わなかった敵です。そう簡単に捕まるでしょうか。それに何より、国王陛下は我が子を催眠にかけるくらいです。陛下自身のお力も強いですし、危険すぎます」


「そうか……」


 クリステルが落胆していると、アルノルドが挙手をして言った。


「ひと月後には侵略に来るんですよね。その時に先輩は一緒に現れるんじゃないんですか? 隙を見て奪い返せば良いのでは?」


 本人は至極真剣なのだが、周囲から見るとのんびりとした緊張感のない口調で言う為、周囲の緊張の糸が切れた。良い意味で頭の回転も柔軟になり、ステファンとクリステルが再び話し出した。


「確かに。侵略を事前に食い止める事も大切だが、敢えて立ち向かう手もあるのか」


「そう言えば、兄上がフィオナ嬢と慈善活動に励んでいたことがあったんだ」


「慈善活動がどうかされたのですか?」


「名目は慈善活動なのだが、兄上は民の信頼を得ながら、平民や孤児などあらゆる民に武器の使い方を教えていたらしい」


 エリクがメガネをクイっと上げながら言った。


「つまり、戦力は僕たちだけではないという訳か。魔界へ行く糸口が見つからなければ、侵略を食い止めるより立ち向かう方を選択するか」


 皆が口々に賛成した。そして、アレンとフィオナが良い知らせを持って帰ってくることを期待しながら一時解散となった。


◇◇◇◇


 一方、アレンとフィオナは落胆していた。


「駄目でしたわね」


「……」


 ジャンに話を聞きに行った結果、アレンとフィオナの脅しが酷かったようで口を割らす事には成功した。しかし、欲しい回答ではなかった。


『魔法陣では、何かを向こう側からこちら側に召喚することは出来ます。つまり、こちらから向こう側に行くには、魔界で魔法陣を描かないといけません』


 その後も暫く問いただしたが知らぬ存ぜぬであった。


「ですが、アレン様のお力でどうにかなるかもと仰っていましたわ! 希望はまだありますわね!」


 そう、たった一つだけ有益な情報があったのだ。


『おそらく悪魔は、次元を歪ませて魔界と人間界を行き来しています。アレン殿下の闇の魔力は唯一そういった次元を操ることの出来る魔法ですから、方法があるとすればアレン殿下かと……』


 アレンはそれから暫く考えて黙り込んでいた。そして、ようやく口を開いた。


「フィオナ、俺は禁書庫に行ってくる」


「禁書庫ですか? ですが、禁術を使えばリスクが……」


「元々使う予定だったんだ。使い道が変わっただけだ」


 アレンはクライヴと魂で繋がりたくて禁術を使う予定だった。思いの外、術が完成するまでに時間がかかり、ようやくといった時にアビスに連れて行かれてしまったのだ。


 クライヴがいなければ術を使おうにも使えない。ならば、助け出すことを最優先にすべきだ。そう考えたアレンはまた違う禁術に手を出す事にした。


 それでもフィオナは心配して言った。


「禁術を使えば魔力が無くなるのでしょう? そうなれば、アレン様は一生魔法が使えなくなりますわ」


 フィオナの言う通り禁術にはリスクがあった。一度使えば魔力が無くなる。クライヴを助ける為に使えば魂で繋がることもできなくなる。それでもアレンは強い意志を持って言った。


「良いんだ。クライヴの為なら」


「アレン様……わたくし達で絶対に助け出しますわよ!」


「もちろんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る