第17話 使い魔
「じゃあな、フィン」
最下層にデュラハンという上級魔者がいたことで、ダンジョンは一時閉鎖することが決まった。
フィンともここでお別れだ。フィンも寂しいのか胸の辺りを角でグリグリしてくる。
「また攻撃されているぞ」
「ステファン、これは攻撃じゃなくてツンだ! 離れるのが寂しくてツンツンしているだけだ」
「いや、ツンツンというよりグリグリと抉られているように見えるのだが……」
「クライヴ様……」
何故かステファンとルイから残念な子を見るような目で見られているが、気にしない。
それにしてもダンジョンはワクワクもあるが危険と隣合わせだった。ゲームでは死んでもセーブした所からやり直せるが、現実はそう甘くない。だから失敗は絶対に出来ない。
剣術に関しては結構強い方だと思い上がっていた自分が恥ずかしい。デュラハン相手に手も足も出なかった。
これから実践経験積んで、レベルアップしていくと意気込んだのに、調査が済むまでは入れないなんて。残念すぎる……。
フィオナが危険な目に遭った時に何も出来なかったじゃ済まされない。もっと力を付けなければ。
「まぁまぁ、クライヴ様もステファン様もそろそろ行きますよ」
ルイに宥められ、後ろ髪を引かれながら俺達はダンジョンを後にした。
フィンがその後ろ姿を見ながら駆けてきたことも知らずに——。
◇◇◇◇
「お帰りなさいませ、お義兄様」
「ただいま。フィオナー会いたかったよ。相変わらず癒されるなぁ。可愛いな。ずっとこうしていたい」
「ふふ、お義兄様ったら」
帰ってすぐに癒しのフィオナにハグをした。
「クライヴ様、駄目ですよ。フィオナお嬢様はもう婚約されたのですから」
「ちょっとくらい良いだろう。じゃあルイが代わりに癒してくれるのか?」
ルイが制止してくるが、フィオナから離れられない。だって、凄く怖かった。闘いの恐怖もあるが一番は生首を片手に持つ兵士の絵図が頭から離れない。
俺はホラーが大の苦手なのだ。ホラー映画を観てしまった日には一人で眠れない。トイレにすら一人で行けない。
義兄妹なのだから、ハグくらい大目に見て欲しい。
「仕方がありませんね。さぁ、クライヴ様こちらへ」
ルイが満面の笑みで両手を広げた。何故か背景にキラキラの満開の花が咲き乱れている。
「ッ——!」
何故だ、何故か無性にその腕の中に飛び込みたくなる。ダンジョンでは思わず抱きついてしまったが、あれは仕方がないと思う。
けれど、今は駄目だ。ルイは尊敬できるやつだが、男だ。そっちに行っては駄目だ!
アホな事を考えていると、フィオナが俺の背中をポンポンと撫でながら、現実に戻してくれた。
「ルイ、良い加減にして頂戴。お義兄様が困っていますわ」
「やっぱりフィオナが一番だ」
残念、とルイが呟いたような気がしたが気のせいだろう。
「お義兄様。あれはなんですの?」
フィオナが何かを見つけたのか、荷物を指差して俺に聞いてきた。
「なにって……?」
荷物がどうしたのだろう? ルイの方を見ても何のことか分からないといった顔をしている。じっと見ていると鞄がガサゴソと動き出した。
「なんだ……?」
一瞬デュラハンの持っていた生首が脳裏をよぎる。あれの事は忘れろ、俺!
脳裏に焼きついたものを忘れようと首を左右に振っていると、鞄の中から一本の角のような物がピョコッと顔を出した。
「クライヴ様、これはもしや……」
「ああ、間違いない」
ぴょこんと、角だけでなく体まで一気に飛び出してきた。
「フィン!」
先ほど分かれたばかりのフィンと感動の再会を果たした。フィンと俺は互いに、もふもふグリグリし合った。
「お義兄様? それは何ですの?」
「ホーンラビットのフィンだ。可愛いだろう? 愛らしいだろう。俺のことがそんなに好きなのか。俺も大好きだぞー」
よしよしと撫でていると、フィオナが顔を真っ赤にして、わなわな震えている。少し青筋が立っているのは気のせいか。
「お義兄様のバカ!」
フィオナは走って自室へ引きこもってしまった。
「フィオナ、ウサギ嫌いなのかな? 悪いことしたな」
「クライヴ様、フィオナお嬢様はですね……いいえ、何でもありません」
ルイが歯切れの悪い言い方をする。気になるが、フィンのことも気になる。
「ルイ、魔物って魔素がないと生きていけないんじゃなかったっけ?」
「はい、そのはずです」
「苦しくないか? フィン?」
フィンは鼻をスンスンして何ともなさそうな顔をしている。
「もしや……フィンはクライヴ様の使い魔になったのではありませんか?」
「使い魔? でも使い魔って契約とかいるんじゃないのか?」
それに、使い魔ってこう、もっと強い魔物なんじゃ……。
「そうなのですが、それなら魔素が無くても生きていけるのは納得です」
「そうなのか?」
「使い魔は、主人の魔力があれば生きていけますから」
「俺の魔力がエサなのか。運命共同体だな」
「それをフィオナお嬢様の前で言ってはいけませんよ……」
その言葉は小さすぎて俺には届かなかった。
——こうしてフィンが俺の使い魔になったのだった。
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