第14話 フィンとの出会い

 ドキドキワクワクしながらダンジョンの入口に立った。まずは初心者に優しい最下層からだ。


 緊張しながら歩を進めていくと、さっそくスライムが現れた。


「これが、かの有名なスライム……」


 生で見られるとは! 生きてて良かった。いや、死んで良かった。か?


「やれそうか? ああ見えて結構素早いぞ」


「ああ、やってみる!」


 スライムは水だから……。両手をかざし、魔力を込める。


「氷結」


 スライムは素早く避けた。それから二発三発と魔法を放つが全て避けられる。ゲームと違って現実は意外と難しい。


「あ、二つに分かれた」


 標的が小さくなり動きも更に素早くなっている。こうなったら——。


氷弾アイスバレット


 氷の弾丸はスライムに直撃し、射抜かれた。実感はないが、これで経験値が上がったのだろうか。


「さすがクライヴ! 初めてなのにやるではないか!」


「意外と皆さんアレに苦労するんです。触れたら火傷したように皮膚が爛れますし」


「うわぁ……」


 取り込んだ物を消化するんだったっけ? 危ない危ない、油断大敵だ。


 それから歩を進めて行くと、頭に一本の角を生やしたウサギがちょこんと佇んでいるのが見えた。


「ホーンラビット? か、可愛い……」


「クライヴ?」


「これは魔物ですよ。弱いので一思いにやっちゃいましょう」


 ルイは思ったより残酷なやつなのだろうか。こんな可愛いウサギを誰が倒せよう。


「よしよし、良い子だ、こっちへおいでー」


 俺は幼子を宥めるようにホーンラビットへゆっくり近付く。すると、ホーンラビットは角をこちらへ向けて駆けてくる。


「クライヴ危ない!」


 角が当たって少し痛かったが、抱き止めるのに成功した。よしよしと撫でてやれば鼻をスンスンしている。可愛すぎる。


「クライヴ様、それの肉は美味しいんですよ。皮を剥ぐのをお手伝いしますね」


 ルイが横からホーンラビットを鷲掴みにしようとするので、俺は抱き抱えたままルイと距離を取る。


「この極悪人! こんな可愛いウサギを食べるだなんて許さん!」


「クライヴ、でもお前、角で突かれて腕から血が出ているぞ」


「これは攻撃されている訳ではない。愛情表現の裏返しだ」


「……」


 そう、俺はホーンラビットを抱きしめているが角でツンツンされている。でもこれは、ツンデレの一種に過ぎない。いつかデレが来るはずだ。


「俺はこいつを飼う」


「無茶ですよ。魔物はダンジョンから出られないんですから」


「そうだぞ、魔物は魔素がないところでは生きていられない。ダンジョンから出れば死んでしまう」


「そうなのか……」


 ルイとステファンに宥められ、飼うのは諦めた。だが……。


「冒険中、連れて歩くのは構わないだろ?」


「まぁ、邪魔ではあるがな。この魔物は弱いから反撃してきてもすぐ殺れるから良いだろう」


「よし、決まりだ。お前はフィオナのようにお目々クリクリで可愛いからフィンと名付けよう」


 こうして、冒険の仲間が一匹増えたのだった。


◇◇◇◇


「慣れてきたみたいですね、クライヴ様」


「おう! 初級の魔物は何とかなりそうだ」


 フィンが仲間に加わってから、俺達は森の奥に入っていった。コボルトやゴブリンの群れも出てきたが、順調に倒していった。


 しかし、剣で倒す時には少し躊躇ってしまった。剣術の訓練はしてきたが、生きているものを斬るのは初めてなのだ。


 いくら魔物でも抵抗がある。初めて斬った時の生々しさは忘れられない。


 それでも人間慣れるもので、五体目くらいからは躊躇せず切れるようになっていた。


「フィンも褒めてくれるのか、ありがとな」


 フィンが俺の足元で角をぐりぐりしているので、よしよしと頭をなでてやる。


「クライヴ様、それは攻撃されているのでは……」


 ルイが何か言ったが、聞こえない振りをしておいた。


「二人とも、少し休憩にしないかい?」


 ステファンが休息を促すが、俺は駄々っ子のように反発する。


「えー、俺もっと倒したい」


「気持ちは分かるが、いくら弱い魔物でも体力や魔力は確実に消費されている。休息を取らないと後で痛い目をみる」


「そうですよ。フィンだって休憩したそうですよ」


 ルイは卑怯だ。フィンを出されたら断れない。


「分かったよ」


「じゃあ、私は食べられそうな果実をパパッととってきますので、お二人はここでお待ち下さい」


 爽やかに走り去っていくルイを目で追いながら、大きな石の上に腰かけてステファンに話しかけた。


「屋敷で稽古つけてもらってるけど、やっぱ実践は違うな。相手は初級の魔物だけど……」


「危機感が違うのだろうな。初級も上級も関係ない」


 やはり人間同士の稽古では相手を殺そうとまでは考えていない為、本能で手加減している。その反面、魔物は本気で襲ってくる。こちらも自然と本気が出るというものだ。


「ダンジョンに誘ってくれてありがとな」


「クライヴ、大丈夫か? やけに素直……ん!?」


「ステファン?」


 木々に止まっていた鳥達が逃げるように飛び立ち、辺りは妙な空気に包まれる。


「クライヴ、剣を構えろ。何か来る」

 

 ステファンが臨戦態勢をとるので、フィンをそっと木の側に座らせてフィンに言った。


「危なくなったら逃げろよ」


 フィンをひと撫でし、俺もステファンに倣い臨戦態勢を取る。


 パカラバカラパカラッ——。


「何故アレが、こんな最下層に?」 


 ステファンが緊張した面持ちで呟く。無意識に俺も冷や汗が流れる。


 音のする方をじっと見ていると、馬が駆けてくるのが見える。上に乗っているのは鎧の兵士。ただし、首は付いていない。


 ——デュラハン!?

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