第68話 全部バッドエンド?

 屋敷に戻ると、早速レナを湯浴みさせた。何ヶ月も風呂に入っていなかったようで、侍女達が洗うのに苦労したそうだ。


「フィオナのお下がりだが、丁度良いな」


 占いの館ではボロボロのローブを着て薄汚れていたので分からなかったが、とても可愛らしい少女だった。


 レナはクルリと回って嬉しそうに言った。


「こんな綺麗な服初めて着るわ。でも、お金出せないわよ」


「お下がりだからな。お金はいらない」


「なんでここに連れてきたの?」


「なんでかな」


 俺も分からない。子犬を連れて帰ってきたような感覚だ。


 そして一番知りたかったことを質問してみた。


「精神に干渉されて、マインドコントロールされた人を元に戻す方法が知りたいんだが」


「そんなの簡単よ」


 え、足し算も知らないの? みたいな顔で見るのはやめてくれ。精神の事なんて普通誰も知らないから。


「三つ方法があるわ」


「そんなにあるのか」


 得意げにレナが言った。


「一つ目は愛の力よ。片方だけではダメよ。双方の愛の力が強くなった時に術が解けるわ」


「メルヘンだな」


「二つ目は相手の心の中に入るの。中には様々な難関があってね、それを乗り越えると一番奥に扉があるの。それを開ければ術が解けるわ」


「ファンタジーだな」


「三つ目はマインドコントロール返しね。再びマインドコントロールするの。これが一番簡単なように見えるけど、実はかけられた本人の精神的ダメージが一番大きいわ。術が二重でかけられているわけだから」


「なるほど」


 てことは、一か二でやるしかないのか。でもアリスの愛の力って、自意識過剰かもしれないが、相手はもしかして俺だったりするのか。


 それなら難しいな。俺の愛はフィオナで百二十パーセント埋まっている。だが、ここで疑問が再び生じたので、レナに聞いてみる。


「心の中ってどうやって入るんだ?」


「それなら、私のところに連れてきてくれたらやってあげるわよ」


「レナって凄いんだな」


 感心していると、レナが複雑そうな顔で続きを話した。


「その代わり、心の中の扉を開けられなかった場合は入った人も閉じ込められるから注意が必要よ」


 一か八かの賭けだな。これは一応、エリクとアレンに相談してからにしないと先走ったら成功しても怒られるやつだ。


 あと、フィオナにも言っておかないと。俺がアリスの心に入った事を後で知ったら、ヤンデレが過ぎるフィオナは次こそアリスを殺しかねない。


「ところで、私はいつまでここにいれば良いの?」


「ずっといても構わないが」


「……」


「でも両親にも聞いてみないとな」


「それって……結婚ってこと? 私とあなたが? ムリムリムリ」


 頬を染めながら勘違いをしているレナに俺は言った。


「俺には結婚を決めた相手がいる。俺だってお前は無理だ」


「失礼しちゃうわ」


 フンとそっぽを向く姿は子供らしさがあって可愛らしい。


「でもあの館に戻るにしても衛生的に心配だから、掃除してからだな。ルイ、今度みんなで掃除に行こう」


「承知致しました」


◇◇◇◇


 夕方、フィオナが帰宅する際、レナと共に出迎えた。


「おかえり、フィオナ」


「ただいま帰りましたわ。体調はもう宜しいのですか?」


「ああ、すっかり戻った」


 次にやるべき事が決まったので、過去は振り返らない。フィオナが知ったら浮気と言われるかもしれないが、あれはあくまでも応急処置。入院して処置を受けたくらいに思う事にした。


「あの、そちらの方は?」


「レナだ。お化け屋……占いの館で拾ってきた」


「失礼な言い方ですね。初めまして、レナです。フィオナ様の服をお借りしてしまい申し訳ありません」


 レナはフィオナに対して礼儀正しくお辞儀した。すると、フィオナはプルプルと震え出した。


 怒らせちゃったかな。フィンが擬人化出来ると分かってからも暫くイライラしていたしな。


 フィオナがレナの肩を掴み、抱きしめた。


 ん? 抱きしめた?


「わたくし、こんな妹欲しかったんですの。これは、わたくしの十歳の頃に着ていたドレスですわ。他にもピンクや黄色もあるから着てみて下さいませ」


「はい、ありがとうございます。お姉様」


「キャー、お姉様ですって。聞きました? お義兄様!」


「う、うん。仲良くできそうで良かったよ」


 ――その後、両親も帰宅したため、同様にレナを紹介した。


 すると、両親も帰宅するなりレナにメロメロだ。あっという間にレナはアークライト家で居候することに決まった。


◇◇◇◇


「それこそ精神干渉されとんちゃうやろな。大丈夫なんか?」


 夜遅いが、エリクがお見舞いにと屋敷まで来てくれた。


「いや、あれは素だと思う。もし干渉されてても楽しいやつなら良いだろ」


「まぁ、ええけどな。それより」


 エリクがメガネをクイッとあげて言った。


「お前、アレンルートとステファンルートに入っとるやろ」


「は? そんなわけないじゃん。俺男だし。ヒロインじゃないし」


 何を馬鹿な事を言っているんだと呆れていたら、エリクに逆に呆れられた。


「クライヴにというより、女装したクララにやけどな」


「あー、ステファンには婚約申し込まれたな。今日手紙で断っといたから大丈夫。でも、アレンは別に普通だぞ」


「お前、あれが普通に見えるんか……」


 確かにクララには甘々だが、元からアレンは女性に対しては優しいからな。男の俺にも優しくして欲しいものだ。


「でも注意せぇよ。ステファンは意外としつこい。一回断ったくらいじゃ諦めへんやろな」


「そうか、分かった」


「裏ルートのアレンはもっとヤバいで。一度入ったら逃げられへん。ハッピーで軟禁、グッドで監禁、バッドで死や」


 それって、全部バッドエンドなんじゃ……。


「いや、でもアレンルートには入ってないって。一度揶揄ったら押し倒されたけど、謝ってから何もないし。あれは応急処置だし」


「応急処置?」


「なんでもない。とにかくエリクの勘違いだって」


「後で泣きついてきても知らんで」


 俺は星を見ながらエリクの勘違いであって欲しいと切に願った。

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