第55話都合のいい女
日曜日の夕方17時、
ディナータイムより
少し早い時間の焼肉店に
立花と蝶野はいた。
先日の高級日本料理店を
全額蝶野が
支払っていたので
何かの機会があれば
立花はお返しをしようと
考えていた。
店を選ぶ時に蝶野に
リクエストを聞くが
『立花さんに、
お任せします』と
全件を立花に委ねてくる。
大人の女性の場合、
男がエスコートすると
晩御飯も考えていて
社交辞令的に女性に
リクエストを聞いて
苦手な食べ物を
排除する方法を用いるので
『お任せします』と言う
パターンもあるが
今日の蝶野は
恋する女子になっており
リクエストを言う余裕が
なかったのだ。
彼女の今日の目標は
立花と本屋に行き
コ-ヒ-を一緒に
飲めたら100点だった。
今までの立花なら
本屋が終わったら
すぐに帰ってしまう事も
考えられる。
そうなった時は
日曜日に立花を
引っ張り出せた事だけで
良しとしよう
そう自分に
言い聞かせていた。
だが、今は
深い関係になった男女が
行くと言われている
焼肉屋にいる。
彼女は手際よく
トングを使って焼肉を焼く
立花に見とれていた。
蝶野正子は、ここに来て
気付いた事がある
私は立花さんに
恋をしている。
好みの男を見つけたら、
とりあえずヤる
悪くなければ
少し付き合う
付き合っていると言っても
一緒に遊びに行き
求められたらヤる。
そこに相手に対する
尊敬や愛情などなく
近くにいる
悪くない男程度だった。
今の彼女は何か
失敗をして立花に
嫌われたら、どうしよう?
ダメな自分を見せたくない
恋する中学生と一緒だった。
実は気の強い女性ほど
愛する男性に対して
忠誠心をつくす。
それは打たれ弱い
自分を守る為に
バリアとして気の強い
自分を出しているが
嫌われたくない
気持ちが強いと
唯一のバリアである
気の強さを出せない結果
打たれ弱い自分だけが
残るからだ。
勝てないと分かれば
屈服するしかない。
唯一弱さを見せている
相手に忠誠を尽くし
その結果、
上下関係が生まれる。
蝶野正子が
軌道修正をした理由に
一度スッポン料理店まで
連れて行き
失敗した事もあった。
本来なら
アヤがついた男なので
リリースするのが今までの
蝶野の流儀であったが
帰りのタクシーの中で
立花が爆睡中に
コッソリとつまみ食いした
立花の立花が
忘れられなかったのだ。
結婚したら浮気を
するつもりなどは
蝶野には毛頭ない。
夫婦生活にエッチは
必要不可欠であり
旦那様の持ち物も
重要になってくる。
立花の持ち物は
蝶野が過去に経験した
どの男のモノより
立派だった。
仕事での将来性、
一個人としての人間性
オスとしての魅力
蝶野の求めていた
全てを兼ね備えているのが
目の前にいる立花であった。
ガツガツと向かって行って
次にアタックをして
失敗したら終わりだ。
蝶野も、
それを分かっているから
今回は慎重に行動している。
そんな蝶野が
立花獲得に向かう時に
避けて通れないのが
彼女の存在だった。
立花のアパートに
連れ込んで
あと、もう一息の時に
帰ってきた彼女は
日曜日である今日、
立花が自分と買い物に
来ている事を
知っているのか?
そもそも自分に
勝機はあるのか?
彼女の事を立花本人に
聞きたいが
聞くのが怖かった。
真剣な相手だからこそ、
真実を知るのが
怖くて聞けない。
焼肉を食べて
歓談している今が幸せだ。
会社の先輩と後輩の
関係のままなら
幸せな時間は続くだろう。
だが彼女が目指している
ポジションは
立花の妻の地位だ。
世間話のフリをして、
さっきの美人さんを
絡めて彼女の話を
聞きだしてみたい。
その衝動にかられた
蝶野は
『立花さんの
彼女さんって美人って
聞いたんですけど』
『さっきの美人の人と、
どっちの方が
キレイなんですか?』と
ジャブを入れてみた。
その質問を受けた立花は
『誰が、そんな事を
言っているんだ?』と
笑って
ごまかそうとしている。
合コンでの
歴戦の戦士である蝶野も
負けじと
『美人だって
噂になっていましたよ』と
逃げ道を塞ぐと
『棚橋が
言っているだけだよ』と
彼女の存在は
否定しなかった。
『立花さん的には、
さっきの美人さんと
彼女さんと比べたら』
『どっちの方が
美人だと思うんですか?』と
立花の判断基準も
知っておきたくて
そんな質問をすると
『同じ位じゃないかな?』と
サラッと立花が、
とんでもない事を
言ってきたのである。
ウソでしょ?
さっきの美人さんは、
ス-パ-モデル並の
美人さんだぞ?
『彼女さんもモデルを
しているんですか?』
立花の言葉を
信じられない蝶野が
そう聞くと
『モデルじゃないけど、
近い感じかな?』と
真顔で
答えてきたのであった。
マジか?
さっきの美人さんだって、
テレビや雑誌出ていても
不思議じゃないレベルだよ?
それとタメ線って、
絶対に勝ち目が無いじゃん。
蝶野は一気に落ち込んだ。
『何で急に、そんな事を
聞いてくるんだ?』
焼けたカルビを蝶野に
取り分けながら
立花が聞くと
『日曜日なのに
立花さんを借りて
彼女さんに悪いと
思っています』と
本音を吐露している。
すると立花が
『悪くないよ、
向こうは土曜日や日曜日が
休みじゃないから』
『俺もヒマしていたから、
蝶野とこうやってメシが
食えて良かったよ』と
笑いながら答えてきた。
それを聞いた蝶野は
『来週の休みも
会わないんですか?』と
疑問点を聞くと
『約束はしてないよ』と
寂しそうに答える。
『それで
付き合っているって
言うんですか?』
2人の関係に更に
疑問を突きつける蝶野。
蝶野に革新を
つかれた立花は
焼肉が焦げているが、
それに気付く事なく
黙ってしまう。
その沈黙を破るように
『私、彼氏が居ないから
週末の予定はありません』
『私で良かったら、
来週も立花さんと
遊びたいです』と
立花に提案をした。
『ありがとう、でも、
それは蝶野に悪いよ』
そう立花がポツリと言うと
『私は都合の良い女で
いいです』
『立花さんの好きな時に
呼び出してください』
蝶野は自分の見栄や
プライドを一切捨てる
言葉を立花に伝える。
『そんな事は出来ないよ』
立花が、そう言うが、
『でも立花さんの側に
いつも、いれたら』
『立花さんが、もし
彼女さんと別れた時に
1番最初に彼女に
立候補が出来ます』
『だから側に居たいんです』
『これってズルい、ですか?』
蝶野は何も答えない
立花に迫るように
聞いてきたのであった。
しばらくの沈黙の後に
立花が
『蝶野は、何で
そこまで俺の事を
心配してくれるんだ?』
そう聞くと
立花の瞳を見つめながら
『私が立花さんを
好きだからです』と
告白をしてきた。
感の悪い立花だったが、
蝶野が彼女に
立候補をすると
言っていた時点で
薄々、彼女の気持ちには
気付いていた。
しかし、人生で
ここまでのモテ期を
経験した事がなかった立花は
彼女から直接、
言葉で聞くまでは
信じられなかったのである。
蝶野は美人である。
ふくよかな胸と、
くびれた腰は
服を脱がして
直接見てみたい。
それは彼女の気持ちを
聞いた下半身が
自己主張している時点で
ハッキリしていた。
蝶野が言った
『都合の良い女』
と言う言葉は男のエゴで、
蝶野をどうにでも
出来るという事だ。
性欲に支配されている
悪い立花は
裸になった蝶野が悶える姿を
妄想していたのであった。
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