第40話世界デビュー 2

時間は11時30分、

立花は大帝国ホテルに到着していた。


正面玄関から入ると5mはあるだろう

大きなシャンデリアが吊るされており


床には黒い御影石と白い大理石が

市松模様に配置されている。


玄関エントランスだけで体育館ほどの

大きさで豪華絢爛な雰囲気な中を

外国人やセレブが行き交っていた。


建物の中に入っていく立花を

すれ違う人々がみんな見て行く。


『やっぱり金を持っていないって

分かるものなのかね?』


立花が独り言を呟いて

歩いていると


高級なホテルには必ずいる

コンシェルジュが

立花に近づいてきて


『ご用件をうけたまわります』と

横に寄り添い聞いてきた。


『さすが高級ホテル、

教育が行き届いているね』と

立花はご満悦だが


コンシェルジュは

立花を不審者と認識して

声を掛けてきたのだ。


昨今のテロなどで

エントランスやロビーで

怪しい人物を

排除する方針だったのだ。


それを知らずに不審者の立花は

『オリファルコンの

記者会見の場所は?』と

質問をしていた。


事前に女神のストーカ-事件の

情報共有がされており


ファンや不審者が

侵入する恐れありと

警備員やコンシェルジュに

周知徹底されていたのだ。


『ご用件は?』

そう聞かれた立花は


『記者会見の見学です』と

バカ正直に答えてしまったのだ。


ピンときた

コンシェルジュはインカムで

『正面エントランスに対象アリ』と

慌てて連絡をすると


警備員が2人.すぐにロビーに来て

立花を取り囲み


『こちらに来てください』と言って

立花を連行していこうとする。


警備員が来た事で立花も

これは、おかしいぞと思い


『すいません

オリファルコンの記者会見の

場所に行きたいだけ

なんですけど』と

警備員に言うが


『でしたら招待状を

お見せ下さい』と言われ

返答に困ってしまった。


あきらかに困窮している立花に

『招待状をお見せ下さい』と

警備員が再度、

要求をしてきたので


『急遽、今日来る事になったので

招待状は持っていないんです』と

立花が答えたのを聞いて


警備員は互いに目配せをして

『こちらへと』と

立花を連れて行こうとした。


マズいと感じた立花は

『広報の坂口さんに

繋いで貰えば判ります』


『GODが

猪木会長に会いに来たと』


『GOD?』


その言葉を聞いた警備員は

コイツ何言ってやがる?と


更にチカラを入れて

立花を連れて行こうと

動き出したが


『ちょっと待ってください』と

コンシェルジュが警備員を

制止する。


オリファルコン社の記者会見の

関係者の名前をコンシェルジュは

全て把握していた。


一流ホテルのコンシェルジュだと

パ-ティ-の重要人物の名前は

頭に叩き込むらしい。


その中に猪木会長と

坂口の名前はあった。


立花から離れる形で

コンシェルジュが


『GODと名乗る人物が

猪木会長に会いに記者会見に

見学に来たと言ってるのだが』


そう伝えて3分後

坂口がロビーに走ってきた。


『その人から手を離せ』

『その方は当社の副社長だぞ』


それを聞いた警備員が

パッと手を離す。


『大変失礼致しました』と

坂口が頭を下げて立花に

謝る姿を

エントランスを通る人々が

不思議そうに眺めている。


コンシェルジュも一緒になって

頭を下げてきており


ちょっとした見せ物に

なっている姿に

恥ずかしさを感じた立花が


『もう止めてください』と頼み

事態の修習を図った。


『こうなるから

来たくなかったんだよ』と

ボヤく立花に


『記者会見の3時間前に

突然、来る事にしたんですから、

しょうがないです』と

坂口が笑いながら説明する。


『俺が怪しく見えたのかな?』と

立花がボヤくが


彼の今日の服装は

白い Tシャツに

SEGAソニックが

大きくプリントされたモノで

デニムのズボンを履いており


秋葉原や池袋から

来た人に見える。


『その姿だから

引っかかったんでは?』と

坂口も言いたかったが

止めている。


その後

コンシェルジュに礼を言って、

坂口の誘導で記者会見の

会場に向けて歩きだした。


『そう言えば

坂口さん、さっき俺の事を

副社長って言ってたけど』


『アレって何ですか?』と

立花が尋ねると


『我が社ではGODさんの事を

副社長って呼んでいますよ』と

衝撃発言をしてくる。


『ちょっと待って

その話って断ったし』


『会長が勝手に

言っているだけでしょ?』と

立花が騒いでいるが


坂口は冷静に

『当社が今のビルに

移ってからずーっと、

GODさんの机と椅子は

あります』


『その机には副社長の

プレ-トが置いてあり』


『ウチの社員が会長に副社長って

誰ですか?って質問したら

GODさんだよ、って

答えたそうです』と

笑いながら説明してくれた。


二重就業は

労働規約違反になる。


『俺はオリファルコンに

入社した覚えは

ないんだけどな?』と

立花が言うと


『会長は、いつでも

待っているよって

意味じゃありませんか?』


『だから今日も

来ないかもしれない』


『GODさんのタメに控室を

準備して待っていたんですよ』と

言って

控え室のドアを開けた。


学校の教室ほどの広さで

中には応接セットやテ-ブルも

配置されルームサ-ビスと

思われるワゴンには

軽食と飲み物が準備されている。


その控え室の外には

『副社長様』と

書かれた紙が貼ってあり


準備の時間を考えると、

前もって予約していたとしか

考えられない。


『俺のために準備をしていた』


その対応に立花は感動していた。


隣の部屋は会長の控え室で、

次が自分の部屋である。


誘われていたが

会社の仕事があると言って

断っていたのに

部屋を用意してくれていた。


絵色女神の件も

お世話になりっぱなしだ。


後で改めて、お礼をしよう


そう考えていた時に坂口が

『どうぞ、この部屋を

自由にお使いください』


『会見場では

リハーサルをしていますが

下見に行かれますか?』と

聞いてくる。


『見たいです』

坂口に、そう伝えると

すぐに会場へと案内してくれた。


そ-っとドアを開けると、

猪木会長が喋りながら

歩いてモニターの説明を

している姿が目に入った。


モニターの反対側の机に

女神の姿を発見する。


緊張しているな


何処となく落ち着かない

彼女を笑いながら見ていた。


しばらく見ていると

リハーサルは終了となった。


『これ以上、邪魔しちゃ悪いから

部屋に戻っていますね』


そう伝えて立花は

自分の控え室へと戻った。


控え室にはテレビで見る

芸能人の控え室と同じように

大きな鏡が何枚も

貼られており20人で

使う部屋の大きさと言っても

過言ではない。


そこに1人でいる立花も

サンドウィッチをつまみ、

ソファに座っている。


『ガチャ』


ノックもなしにドアが開いて

女神が控え室に入ってきたのだ。


『本当に来てくれたんですね』

そう言って立花に

抱きついてきた。


『おい誰かが入ってきたら、

どうする?』


抱きついたままの女神に

立花が言うと


『誰も入って来ません』

『ギュッとしてください』と


彼女が甘えるような感じで

見つめてきたので



『はい、はい、わかりました』と

言って

立花が強く抱きしめる。


長い時間のハグを終えて

女神が離れて


立花の顔を見つめて

『立花さんが来てくれた』と

喜んで笑っている時に

立花がある事を思い出す。


『女神?』


『トップアイドルになって

俺の奥さんになるって

喋った?』と

立花に聞かれ


バレた


そう感じた彼女が

天井を見て誤魔化そうとする。


『おい、上を見ても何もないぞ』と

立花が詰めると


『ごめんなさい』と

言って立花に抱きつき


上目遣いで

『怒ってます?』と

立花のご機嫌を伺うように

聞いてきた。


『ちょっと怒った』


立花にそう言われた彼女は

悲しそうな顔になって

困っている。


『もう他の人に言うなよ』

立花がそう言うと


『もう誰にも言いません』と

立花の顔をうずめて謝ってきた。


『だったら許します』

そう立花が言うと


『ありがとうございます』と

言って

両手を立花の背中に回して

抱きしめた。


『コン、コン』


『失礼します』


そう言って猪木会長が

控え室に入って来た。


だが立花と女神は

抱き合った状態で

猪木会長と目が合った。


『すいませんでした』と言って

猪木会長が部屋から

出て行ったので

立花が慌てて追いかける。


控え室に猪木会長が戻り、

立花と女神と3人が、

初めて揃う。


『本当に仲が良いんですね?』

猪木会長が微笑むように

言っているが


バツの悪そうな立花だったので

『なんならホテルの部屋を

取りますか?』と

猪木会長が、

からかってくるので


『いりません』と

立花が断るが

女神は少し残念そうだ。


『役者は揃いましたね?』

立花を見て猪木会長が

笑って言ってくるが


『記者会見には出ませんよ』と

立花は、

やはり拒否をしてきた。


『分かってます』


『でも今日の晴れの日に

立花さんが記者会見の会場に

来てくれた事が嬉しいんです』


そう言って猪木会長が

涙ぐんで話した。


ここまで道のりを思い出して

立花にも感慨深いものがあった。


『すいません、湿っぽくなって』

『もうすぐ記者会見スタートです』


『立花さんも、

しっかり見ていて下さい』


猪木会長は立花にそう言って

部屋を出て行った。


2人きりになった立花と女神は

しっかりとキスをした後


女神のメイクの時間となって

彼女は名残惜しそうに

部屋を出て行った。


1人になった立花も

深い深呼吸をしており

緊張をしているようだ。


それぞれの思いが詰まった

運命の日になる

記者会見は始まったのだ。

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