第72話後輩のヘルプ

女神が泊まりに来る。


何度もあったが今回は

色々と訳が違う。


当初は女神の誕生日まで

待って貰い


そこで結婚前提で付き合う

話をする予定だったが


既に奥さんになる気満々の

女神に押し切られて


なし崩し的に

イチャイチャしていた。


前回は彼女が

女の子の日だったので


上半身だけを愛して

女神が初めての

快感を迎えて

終わっていたが

今回は障害は無い筈だ。


考えてみれば女神と

イチャついた翌日から


立花には女難の嵐が

続いていた。


それでも幸か?不幸か?


最後の一線だけは

守ってきた。


それは結ばれるべき2人の

運命なのかもしれない。


アパートの鉢合わせ

事件以降は藤波係長も

蝶野も何も行動を

起こしてこない。


平和が一番だ、と思って

オフィスで仕事を

している立花に


『慶子ちゃん

今日も休みだな?』と

棚橋が話してきた。


月曜日に出社して

来なかった時は


顔を合わせずに

清正としていたが


金曜日まで連続で休みだと

心配になってくる。


強く言い過ぎたか?


そんな事も

思い始めているが


棚橋にした事は到底

許される事ではないと


心を鬼にして

割り切る事にした。


今日は金曜日

明日から休みなので

会社員はウキウキしている。


棚橋も例外じゃなく

『先週のお礼がしたいから

今晩、飲みに

行かないか?』と

立花を誘っている。


『ワリィ、

今晩は先約がある』

そう言った


立花の笑顔を見て

察した棚橋が


『例の彼女か?』と

ニヤついて聞いてきた。


『まぁな』

立花のその一言で

理解した棚橋は


『じゃあ、

また今度誘うわ』と言って

自分の机に戻って行く。


水曜日、木曜日と立花と

接触していなかった蝶野は


黙って2人のやり取りを

見つめている。


そこからは一生懸命仕事に

取りかかり


残業ナシで帰れる算段が

見えてきた。


その時にオフィスが

騒がしくなっている雰囲気が

伝わってきた。


新入社員の小林が担当先で

トラブルを起こしている、

との事だ。


金曜日の夕方


この後に飲み会に行く者

彼女とデ-トする者

家族サ-ビスをする者


余計な事に関わって

この後の自分の予定は

崩されたくない。


みんな自分が可愛い。


小林は今年入った

新入社員の女性SEだ。


『蝶野ヘルプに行けるか?』

藤波係長に聞かれたが


『すいません、

用事があってムリです』と

断った。


鉢合わせして以降、

蝶野は藤波係長と

目すら合わせていない。


お前が来なければ、と

憎しみの対象に

なっていたのだ。


蝶野が断った事で

他の社員も

自分に声をかけられたら

たまらない、と


自分の机に戻って

帰り支度を始める。


立花も今晩、

女神が来る約束が

決まっていた。



『係長、小林は

何処にいるんですか?』


立花は藤波係長の机に

向かいながら

状況を聞いている。


その立花の行動に

他の社員は驚いているし


蝶野正子は驚いて

固まっていた。


『立花、悪いね、

行ってくれるか?』


『私はクレ-ム対応で、

この後に対応アポが

入っていて

動けないんだ』


藤波係長に状況を聞いて

立花は

すぐに小林のレスキューに

向かおうとした時に


『私も一緒に行きます』と

蝶野が同伴を申し出る。


すると


『感情で仕事を選ぶヤツは

行かなくていい』と

藤波係長が

蝶野を怒鳴った。


その勢いはオフィス中に

響く声で

全員、仕事の手を

止めたほどだ。


蝶野は何も

言い返せなかった。


『じゃあ行ってきます』

そう言って立花はオフィスを

出て行った。


この一件で藤波係長と

蝶野の深い溝は

決定的となった。


新人がトラブっている

会社まで電車で3駅


遅くなる事は無いと思うが

女神にLINEを打っておくか。


後輩のヘルプで1件、

急遽、残業になりました。


もし、俺が遅くなったら

ポストに鍵を

入れてあるから

先に家で待っていて下さい。


そうメッセージを

入れておいた。


そして新人がいる会社に

到着して立花は

新人社員の小林に合流する。


小林邦子、今年大学を

卒業したばかりの

新人社員


身長は165cmほどで

ほっそりとした

メガネをかけた

優等生タイプだ。


本来なら指導役の

先輩社員と帯同訪問を

しているのだが


先輩社員が急遽、

熱を出してしまい

戦線離脱して


1人で担当先の

企業のメンテナンスに

来ていたのだが


トラブルが発生して

てんてこ舞いになり

会社に泣きついてきたのだ。


『色々といじっていたら

動かなくなって

しまいました』


『これって弁償ですか?』と

泣きそうな顔で

立花に聞いている。


『大丈夫だと思うよ』


『現在の状況と、どこを

どう操作したか、教えて』


そう聞かれた小林は

立花に全てを説明した。


すると、

驚くべき事が判明する。


孤軍奮闘して

挽回しようとした彼女は

取引先の会社の


ハ-ドデイスクに入り

フォルダーごと間違えて

全て消してしまっていたのだ。


マズいぞ。


本当に損害賠償ものだ。


事情を説明すると

新入社員の小林は

気を失いそうになっている。


立花がすぐに取引先の

什器担当者に

事情を説明している。


その、やり取りを

見ていた小林は


『絶対クビだ』

『弁償して自己破産だ』と

頭を抱えていた。


『小林、何をしている?』


立花が戻ってきて

彼女に話し掛けると


『だって私がハ-ドデイスクを

全部消したから』


『クビになるんじゃ、

ないんですか?』

そう泣きそうな顔で聞くと


『お前をクビになんか

しないよ』


『これから復旧するから』

『ちょっと待っていろ』


そう言って

小林の頭を撫でる。


本当に?


トラブルを起こして

知らない会社で


1人残っていた時

小林は逃げだしたかった。


そこに現れてくれた

ロボ先輩


立花は

小林が安心するように

復旧方法を説明してくれた。


無停電装置


カミナリや停電で

会社で使用している


デ-タ-が被害を

受けないように


企業は社内、もしくは外部に

バックアップを取っている。


今回も小林が

消してしまった以前の

バックアップが残っていた。


外部の会社の人と

電話をして


復旧している立花を

見ていた小林は

社内の女性LINEで


蝶野正子が流した

情報を思い出した。


取得困難な

国家資格を持っている

ロボ先輩


すごいカッコイイ


やがて立花は

取引先のデ-タ-を

完全に復旧させた。


ここから初めて

複合機のメンテナンスの

作業に取り掛かる事が出来た。


オフィスのメインPCに

新しいソフトを


インストールすれば

作業は終了する簡単な仕事


『インストールしようとして

DVDをセットしたら』


『インストールが

始まらなくて

色々と触っている内に』


『ハ-ドデイスクを

消しちゃったんだよな?』


立花が新人SEの小林に聞き


『さっきと同じように作業を

してみてくれるか?』


そう言われて小林は

さっきと同じ工程を再現する。


原因はすぐにわかった。


『小林、お前DVDを裏表を

逆に入れているよ』


立花は苦笑して

説明をする。


『ウソ?イヤだ』

『どうしよう?』


小林は恥ずかしさで

顔が真っ赤になって

バタバタしている。


ソフトを正しく入れて

作業は5分で終了した。


小林の指導先輩も

5分で終わると思って

1人で任せたのであろう?


だが、その5分の

作業を失敗して

結果4時間の大騒動となった。


遅くまで待たせた

先方に謝り


立花と小林は

自分の会社に戻る。


帰りの電車の中で小林が


『今日は本当に

申し訳ありませんでした』と

立花に頭を下げて

謝っている。


その姿を見て立花が

『よせよ、そんな事』


『後輩を助けるのは

当たり前だろ?』

そう言って笑っている。


バカみたいな

失敗だったのに

笑って許してくれている。


落ち込んでいた小林も

気分が晴れてきた。


会社に戻るとオフィスには

藤波係長だけが残っている。


他の者は

金曜日を満喫する為に

早々に退社したようだ。


『立花、ありがとう』


藤波係長が

緊急出動した立花に

ねぎらいの言葉をかけた。


『別にイイですよ』

『じゃあ、俺も帰ります』


時間は21時に

なろうとしており


女神との

約束があった立花は

すぐに会社を後にした。


『あっ、立花さん』


小林がお礼を

言おうとした時には


立花はオフィスから

走って出て行っていた。


残された小林に

藤波係長は


『月曜日に立花に会ったら

改めて、お礼を

言っときなさい』


『小林が

ピンチになった電話が

コッチに入った時に』


『誰も助けようと

しなかったけど』


『立花だけは

帰り支度を止めて、

急いで小林のヘルプに

走ってくれたんだよ』


そう言って、彼女が

いなかった時の事を

説明する。


ありがとうございます

立花先輩


小林邦子は心の中でお礼を

再度言っていた。



オフィスで立花の帰りを

待っていた蝶野は

みんなが帰ってしまい


何もしてない状態では

会社には、いづらく


会社を退社した後は

ショッピングモ-ルを

見たりして

時間を潰していたが


やはり立花が気になり

電車に乗って

自由が丘に来ていた。


『まだ帰っていないよな?』


『アパートの前で

帰ってくるのを

待っていようかな?』


そんな事を呟いて

立花のアパートへ歩いていく。


立花のアパートに着くと

立花の部屋の

電気が点いている。


『何だ早く終わって、

もう家に着いていたんだ』


蝶野正子は走って

部屋に行き


玄関のドアを開けて

『立花さん、

帰っていたんですね?』

そう言った。



そこには立花の姿はなく


若い可愛い女の子が

ビックリして

こちらを見ている。


『どちら様ですか?』

ドアを開けた蝶野に

尋ねてきたのは


鍵を使って先に入っていた

女神であった。

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