第73話初夜 1

『どちら様ですか?』


立花の部屋のドアを開けて

若い女性がいきなり

入ってきた。


驚きつつも冷静に

相手に確認する女神に


『立花さんと同じ会社で

働いてる蝶野と

申します』と


一礼をして彼女は

自己紹介をする。


一瞬で蝶野はわかった。


この子が

立花さんの彼女だ。


以前、街で見た

ス-パ-モデルに

なれそうな美人女性と


同レベルと言っていたのは

ウソでも冗談でもなかった。


可愛い女の子と呼ぶには

レベルが違いすぎる。


クラスで1番や

学年で1番可愛い

レベルではなく


その地区の学校全ての中で

1番可愛い

女の子になるだろう。


存在感や透明感が

違いすぎてオ-ラが

出ている感じすらする。


『いつも立花が、お世話に

なっています』


『絵色と申します』と

女神も一礼した後に


『すいません、後輩さんの

仕事の手伝いで

残業していて』


『まだ帰って

来ていないんです』

そう説明を受けた蝶野は


彼女に、ちゃんと報告して

家で週末に

待っているなんて


絶対に別れる気なんて

無いじゃん


もうすぐ別れると勝手に

思い込んでいた自分が

恥ずかしくなっていた。


放心状態に近かった

蝶野だが


『私も、その件で

心配だったんで

偶然近くに来たから』


『寄ってみたんです』と

かろうじて説明をする。


『もうすぐ帰ってくると

思いますから

良かったら上がって

待ってられますか?』


女神に、

そう言われた蝶野だが


『結構です』

『私は失礼します』と言って

玄関のドアを

閉めようとすると


『いつでも、

いらして下さいね』と

言って


それ以上、

女神も引き止めなかった。


蝶野は

気付いていなかったが

彼女の顔面は蒼白だった。


それに気付いた女神は

彼女が先日、立花と


ご飯を食べに行った

女性だと思った。


だから、あえて

蝶野を威圧するような


言い回しをして

追い返したのである。


立花のアパートを出た

蝶野はフラフラだった。


藤波係長に怒られた事が

ショックだったので


立花に慰めてもらおうと

アパートに来てみたが


正妻である彼女と

鉢合わせを

してしまった上に


女神の美しさを知って

完敗を実感してしまった。


女としての賞味期限切れを

半分心配していたが


年齢でも、容姿でも

太刀打ちが出来ない。


20歳くらい?


それで、あの可愛いさ?


何処で知り合ったの?


その時に先週会った

ス-パ-美人が言っていた

言葉が頭に思い出された。


『副社長』


冴えない会社員だと

最初は思っていた立花だが


少しずつ見えてきた

秘密の部分


取得困難な国家資格を

持っていて

彼女はス-パ-美少女


副社長の肩書きを持つ男


その辺りを日曜日に

全て確認してから


立花を諦めるかを決める。


そう誓って自宅へと帰る

蝶野であった。


蝶野正子を追い払った直後

女神の元に


『今、残業が終わりました』

『自由が丘には

何時に着くかな?』と


立花からの

LINEが入ったので


『もう立花さんの部屋に

います』と女神が返すと


『ゴメン、急いで帰ります』と

立花から返信が入る。


『お家で待ってますから

急がないでも大丈夫ですよ』と

女神が返すが


30分もしない内に立花は

汗だくでアパートに

到着した。


『ゴメン待たせて』

そう言った立花に


『おかえりなさい』と言って

女神が抱きついてくる。


『汗クサイぞ』

駅からダッシュで

帰って来た立花は


額からも

汗が流れていたので

そう言ったが


『全然クサくないです』


『8日間も

会えなかったんだから

もっと

甘えさせてください』と

言って


立花の胸に自分の顔を

押し付けて

鼻をクンクンさせていた。


『とりあえず

上がって良いか?』

そう言った立花の言葉に


『ごめんなさい』と言って

女神が離れて


立花も家に

上がる事が出来た。


『晩御飯は食べた?』

立花に聞かれた女神は


『スタジオから

急いで来たから

まだ何も食べてません』と

言った後に


『そうだ、

聞いて下さいよ』と言って


このアパートに

来るまでの事を


身振り手振りを交えて

女神が説明をし始めた。


マネージャーさんに

駅まで送って貰って

地下鉄に乗ったら


変装していたのに

社内の人に

気付かれたようで


ジロジロ見られたり

ヒソヒソ、コッチを見て

話したりされた後に


『絵色女神さんですよね?』って


聞かれて


握手を求められたり、

サインを頼まれたり


写真を一緒に

撮らせて欲しいと


お願いされたりして

大変だった、との事だ。


野球キャップに

大きなマスクで


いつもの変装だったが

コロナが流行した後は


友人と会う時も

マスクありきで


世間は動いていたので

目元だけで

判別がつくようで


いつもの変装も通用せずに

すぐに身元バレを

してしまった。


結果、自由が丘駅に

到着しても


女子高生に取り囲まれて

歩いて、このアパートに

来る事も出来ずに


タクシーで、ココまで

来たとの事だった。


『タクシー代、

持っていたのか?』

立花にそう聞かれた女神は


『お給料日が昨日だったんで

大丈夫だったんです』と

笑顔で答えてくる。


『でも、まだ CM代とか

入ってないから大変だろ?』


『タクシー代は俺が出す』

と言って


財布から5000円札を出して

女神に渡そうとするが


『こんなに、

かかってないし


タクシー代位、

自分で払います』と

女神は受け取りを固辞する。


すると立花が

『この先、今日みたいな事が

起きた時にタクシーに

乗る金が、無くて』


『トラブルに巻き込まれたら

イヤだから持っていてくれ』


『使わなくても良いから

財布の中にお守りとして

入れといてくれ』と言われ


その言葉が嬉しかった

女神は

『はい』と返事をして


立花からのお金を受け取り

財布にしまった。


『そうだ、晩御飯だ』


立花が思い出して女神に

何を食べたいか?聞くと


『カレーモントレ-でも

良いですか?』と

尋ねてきた。


笑顔で快諾した立花は

すぐにピザ-ラに電話をする。


そして女神がまた

思い出したように


『そう言えば、

ここで立花さんを

待っていた時に』


『女の人が立花さんを

訪ねてきました』


『確か蝶野さんって

言ってました』


そう言われて

立花はドキリとした。


蝶野がこの部屋で

立花とキスをした事を


女神に喋ったのでは?と

心配したのであった。


『何しに来たんだ?』


心の動揺を隠して

立花が聞くと


『近くに用事があって

寄って』


『後輩さんの仕事の心配を

していたみたいです』と

女神が説明をしたので


キスの事を

話してないと思い


『あいつが後輩のヘルプを

頼まれたんだけど』


『断ったから俺が代わりに

助けに行ったんだ』


『一回、断った後に

やっぱり行くって

言い出した時に』


『係長に怒られたから、

気になって

いたのかもな?』と


説明して女神も

納得をしている。


自由が丘の

ボロアパートでは

蝶野の話は、

ここで終わった。


だが敗戦気分の

蝶野が家に帰り


テレビを点けた時に

運命の歯車が狂い始めた。


『立花さんの彼女だ』


全時間帯にスポットを打った

女神が出演している


オリファルコン社の CMが

流れていたのである。


『何で?』


すぐに蝶野は

スマホで検索を始めた。


絵色女神


権太坂36の新メンバー


蝶野正子は驚いた。


『17歳』


立花さんの家に泊まったら

犯罪じゃない?


蝶野正子に

女神の正体がバレた


その事を知らず、

立花と女神は


仲良くピザを

食べていたのである。




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