第20話師匠と弟子
2人でおしゃべりを
している内に、
時間はあっという間に
『権太坂ランニング中』の
放送時間になった。
関東地方のテレビ局で
1番マイナ-な放送局である
テレビ関東で深夜に
放送されている番組は
本来なら通販番組の時間帯を
レコード会社が買い取った枠で
権太坂のファン以外は
見ないだろう、と言う番組だが
唯一のレギュラー番組であり
インターネット放送ではなく
地上波放送の部分が
他のアイドルとは
一線を引いている部分で
大事な番組であった。
放送が始まると
『女神ちゃんの出番は、
前半?後半?どっちなの?』と
立花が質問するが
『アタシも放送が
今日だって聞いたのも、
つい最近なんで』
『全然、
知らされていないんです』と
少し困ったように答える。
2人が見守る中、番組が始まり
オ-プニングで
メンバー全員が次々と映される。
最後の方に
絵色女神が別の子と
顔をくっつけて
笑顔で手を振っている
シ-ンが流れた。
『今のが美桜ちゃんです』と
現役メンバーの解説が入る。
クチには出さなかったが
『女神ちゃんの方が
100倍可愛いじゃん』と
立花は思っていた。
名前をギリギリ知っている、
お笑い芸人が司会進行をして
メンバーを軽くいじり、
すぐにCMになった。
横にいる絵色女神を
チラッと見たが、
全く緊張している様子はない。
レコード会社が
番組スポンサーなので、
CMは全て権太坂36、
もしくは談合坂36の
CDや DVDの宣伝だが
『これ次の新曲です』
『振り付けが
大変だったんです』と
解説が入って、
CM中でも気を抜くヒマはない。
CMが開けて、
拍手で番組が再開すると
司会の芸人が
『今ちまたで、
流行っているゲ-ムが、
あると聞きましたが』と、
話をふると
『5期生の絵色女神です』と
少し緊張した表情で
絵色女神が映し出されたのである。
『女神ちゃんアップだよ』
嬉しくて立花が
彼女に話しかけるが、
彼女は真剣な眼差しで
番組に釘付けだ。
自分はどう映っているか?
上手く喋れているか?
進行を邪魔していないか?
自分自身の事だが
一挙手一投足を
見逃さないように
しているようだ。
ゲ-ムの説明や遊び方を
彼女が説明しており、
確かに大活躍と言っても
過言ではない。
番組がどんどん
進んで行った時、
絵色女神の顔が
一瞬曇ったように見えた。
『どうかした?』
立花が彼女に聞くと
『今噛んじゃったんです』と
彼女が悔しそうに呟く。
『全然、気にならなかったよ』
立花は、そう彼女に言ったが、
彼女自身は
納得していないようだった。
『じゃあ、ココから
エクシブハンター芸人の
おぽんこぽん君にも
入って貰います』と言って
司会者が見た事もない
売れていない芸人を
番組に招き入れて、
番組は進行していく。
『じゃあ、ココで
5期生の女神ちゃんと
2期生の佳奈ちゃんで』
『対決戦を
やって貰いましょう?』
司会者が、そう説明すると
テレビ画面が半分になり
右半分に絵色女神とゲ-ム画面、
左半分には2期生の子の顔と
ゲ-ム画面に切替わり
女の子同士の
エクシブハンター対決が
始まった。
だが、始まってすぐに
棍棒を持った絵色女神が、
先輩のキャラクターを
ボコボコにして
決着がついてしまう。
『女神ちゃん上手過ぎ』
エクシブハンター芸人が
ゲ-ム解説をしながら
感嘆していると
すぐに負けた先輩が
『女神、うますぎだよ』
『レベルいくつなの?』と
聞いてきたので
『レベル40くらいです』と
絵色女神が答え
『え〜?
それじゃ勝てる訳ないよ』と
先輩メンバーが
ポ-ズでその場で暴れて、
番組が盛り上がっていく。
立花がチラッと彼女を見ると、
嬉しそうな顔はしておらず
先輩のリアクションを、
頷きながら見ていた。
司会者が
『おぽんが戦っても
勝てないんじゃない?』と
バラエティに、よくある
その場の勢いで
予定外の戦いが組まれる
流れとなり
『おぽんはレベルは、
どのくらいなの?』と聞かれて
『俺はレベル120ですから、
勝負にならないですよ』と
余裕を持って受け答えている。
『女神、
こんな奴に負けるなよ』と
司会者が、けしかけて
スタジオにいる
他の権太坂メンバーも
『女神、頑張って〜』とか
『女神、やっつけろ〜』と
声援をかけて番組としては
盛り上がってきた。
テレビ画面が
左右に分割されて、
ゲ-ムスタート
お笑いの仕事が無く
エクシブハンターだけを、
やって来たと思われる芸人は、
やはり上手く
絵色女神のキャラクターは
追い詰められてしまって、
絶体絶命
スタジオも
『女神逃げて〜』や
『頑張れ、女神』の声援で
盛り上がる。
『エクシブハンターじゃ
負ける訳には、
いかないんですよ』
そう言って芸人が、
トドメを刺そうとした時
絵色女神のキャラクターが、
芸人のキャラクターの
横を通り過ぎ、間一髪セ-フ
『よく逃げた、女神』と
番組も盛り上がり、
立花も
真剣に画面に見入っている。
逃げた絵色女神の
キャラクターは走って、
岩の前に到着
持っていた刀で岩を叩くと
星が現れて
絵色女神のキャラクターを
包み始めた。
『何これ?』
初めて見る光景に
エクシブハンター芸人が
驚いており
『女神のキャラ、
光に包まれている』
権太坂メンバーが、
そう呟いたように
絵色女神のキャラクターは
光の妖精のようになって、
芸人のキャラクターの前に
戻って
『動けない』
『何だ、これ?』と
騒いでいる芸人の
キャラクターを彼女が倒して
「勝者 絵色女神」と
画面に大きなテロップが出て
彼女の勝利で終わった。
だが
『ちょっと待って、
あんな技は見た事ない』と
芸人が騒ぎだして
画面上に
『審議』の文字が大きく
テロップで出てくる。
司会者が
『おぽん、
女神の光ったのって
見た事ないの?』と聞くと
『俺、エクシブハンターの
公式ガイドブックを
2冊持っていますけど
見た事も聞いた事もないです』と
大騒ぎしていた。
『何なの、アレ?』
『あんなの卑怯だよ〜』と
芸人は、ここが一番の
自分の見せ場だ、的に
騒いでいる。
ここで司会者が
『女神、
おぽんが見た事無いって、
うるさいんだけど』
『この技って、
女神が作った技なの?』
そう聞かれた彼女が
『教えて貰いました』と
笑顔で答えた。
『誰に教えてもらったの?』
司会者に続けて聞かれた彼女は
『GODさんです』と
答えると
エクシブハンター芸人が、
すぐに
『GODさんって、
あのGODさん?』と
彼女に確認する。
『はい、あのGODさんです』と
絵色女神が返答すると
『え〜〜〜?』と
芸人が
大きなリアクションで驚き、
更に大騒ぎをしてみせた。
『ちょっと、
そこだけで盛り上がらないで
コッチにも教えて頂戴』
『GODさんって誰なの?』と
司会者が聞くと
『エクシブハンターの
ランキング世界一位の
伝説プレイヤ-です』と
発表してスタジオが
『え〜〜〜?』と
声を出して騒然となる。
『でも、それなら納得だ』
『GODさんしか
知らない技って実在するんだ』と
エクシブハンター芸人が
驚いている。
絵色女神がチラッと、
立花を見ると
クチを開けたまま固まっていた。
『立花さん、どうしました?』と
彼女が聞くと
『俺のこと、
喋っちゃたったの?』と
声を震わせて彼女に確認すると
『喋っちゃダメでしたか?』と
不安そうに聞いてくる。
モブとして
人生を終わらせる為に、
ひっそりとゲ-ムを
楽しんでいたので
立花としては華やかな
ゲ-ム業界の表舞台を避けてきた。
だが絵色女神に他言無用と
クチ止めを
していなかったのは自分だ。
彼女を
責める訳にはいかないし、
元々責める気など無かった。
『大丈夫だよ、でも』
『俺の本名は
喋ってないよね?』と
立花が不安そうに聞くと
『もちろん立花さんの名前は
出してません』と
彼女が胸を張って答えてくる。
するとテレビ画面から
『じゃあ女神ちゃんは、
GODさんの弟子になったの?』と、
芸人の驚いた声が飛び込んでくる。
どうやら、直接会わずに
リモートで
技を伝授してもらって、
そのまま弟子となったと
説明したようだ。
『俺もGODさんの弟子に
なりたい』と
騒いでいる
エクシブハンター芸人を
スタジオのメンバーは
見て笑っていた時に
画面がスタジオから、
超高層ビルの全景に
切り替わる。
番組では
エクシブハンターの開発、
配信元である
『オリファルコン株式会社』に
訪問して取材をしていた。
『アタシ、これ知らないです』と
彼女が呟く。
番組の収録が終わった後に
スタッフが、急遽
開発会社に取材したようだ。
番組スタッフが持参した、
絵色女神の技を
開発スタッフに見て貰うと
『初めて見る技ですね』と
笑いながら解説している。
『GODさんに教えてもらったと、
権太坂のメンバーが
言っているのですが
本当でしょうか?』と
スタッフが
開発元に鑑定依頼をしており、
疑っているような
映像となっている。。
『本当も何も、
ここに本人がいるんだよ』と、
立花の腕に
自分の手を絡めて
甘えたような格好をする彼女
番組では開発スタッフが
『私も初めて見た技ですけど、
たぶん本当でしょうね』
『私もGODさんには
数回しか
会った事がないんですけど』
『ウチの会長と
親しげに話しをされていたので』
『まだ会長とGODさんしか
知らない技が、
あるんじゃないですか?』と
説明した瞬間
画面に
『本当』と大きなテロップが出て、
番組はエンディングロ-ルが
流れ始める。
『立花さん、今の人を
知っているんですか?』と
絵色女神が聞くと
『うん、開発の木村さんだよ』
『あんまり余計な事を
言わないで欲しいんだけど』と
珍しく不機嫌な立花だ。
やがて番組は権太坂の
メンバー全員が手を振って終了した。
『どうでした?』
『アタシ、
上手に出来ていましたか?』
彼女は立花に感想を求めている。
『ゲ-ムの説明も良かったし』
『対戦モ-ドで
勝利も素晴らしかったです』
『本当に100点じゃないかな?』と
立花が言うと
『ヤッタ〜』と
彼女は両手を上げて
大喜びをしていた。
『1日で、あそこまで
上達したって知ったら』
『みんな
ビックリするんじゃない』と
両手離しで褒めると
『立花さんにムリを言って、
押し掛けて教わったから』
『絶対に頑張らなくっちゃ、
いけないと思って
張り切ってみました』と
説明する。
『可愛い弟子として
認めましょう』と、
絵色女神の髪の毛を撫でて、
頑張りを讃えると
照れたような表情になり、
下を向きながら
『いい子、
いい子されちゃった』と、
呟いたのであった。
立花は明日は休みだが、
絵色女神は昼から
収録があるので、
そろそろ寝る事にする2人。
この番組がキッカケで
運命が大きく変わっていく事に
なるのだが、
この時は、まだ知らず
のんきに明日の朝ご飯の話を
している立花と絵色女神であった。
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