第64話女神無双
立花からのお詫びメ-ルが
届いた女神は嬉しくて
大喜びをしたのと同時に
自分が勝手に
立花が嫌っていたと思い込んで
暴走した事を反省した。
一般の会社で
働いた事のない女神は
普通の会社員の日常を
知らない
仕事で突然
呼び出される事がある事を
今回初めて知ったのだ。
連絡が出来ない場合も
あり得る
自分だって立花からの
メッセージにレスを返すのが
遅くなる事だってある。
立花を信じて
一生ついていく
改めて心に誓う女神だった。
立花にごめんなさいと
新センターに選ばれた事を
報告した彼女は
前日の睡眠不足を補うように
爆睡して朝を迎える。
迎えた次の日の
CMの撮影現場にも
広告代理店の濱口はいた。
『おはようございます、
よろしくお願いします』と
スタッフ全員に元気に
挨拶をする女神を見て
仲直りしたな?と
彼女の表情から感じとった
濱口は作戦を変更して
『おはようございます、
今日も最高の笑顔で
良い作品作り期待してます』と
頭を下げて、お行儀の良い
広告代理店の社員を演じる。
今日はドリンクメ-カ-の
ジャックモンドの
撮影であった。
この会社も
オリファルコンと
コラボしている企業だから
猪木会長のラインで
絵色女神をCMに
起用したのであろう。
濱口は以前、
猪木会長に言われた通りに
自分担当で予告していた
会社のCMが
絵色女神で実現していく事に
少し恐怖を感じていた。
だが、今日の女神の笑顔を
見た時から
彼女を自分のモノにして
屈服させたい欲望が勝っている。
何事もなかったように
打ち合わせが始まって
すぐに撮影が始まった。
現在のCMは
タレントのみを撮影して
バックはCGで
合成する方法が多い。
実際、今日の撮影も
ビ-チパラソルの下
椅子に座った女神が
ドリンクを美味しそうに
飲んでいるバックは
南国のビ-チが後から、
付け足される。
女神の勘の良さもあり
監督の要望通りの
画面が撮れたようで
予定より1時間早く
撮影は終了した。
帰ろうとする女神を
濱口が追いかけて行き
スタジオを出た廊下で
追いつき
『女神ちゃん、お疲れ様』と
濱口が声を掛けると
彼女は振り返って
『今日は、
ありがとうございました』と
一礼をして帰ろうとする。
そのリアクションを見て
慌て走って女神に追いつき
『ちょっと待ってよ』
『少し冷たいんじゃない?』と
彼女に話し掛けたが
『すいません、
急いでいるので失礼します』と
話を聞こうともしない。
だが濱口はめげずに
『撮影が早く
終わったんだから
スタジオの隣の
喫茶店に行かない?』と
女神を誘う。
『すいません、
本当に急いでいるので
失礼します』と
濱口の方を見ずに答えて
廊下を歩き出した。
『女神ちゃん、
LINEを教えてよ?』
濱口が言った言葉には
リアクションもせずに
歩いていき濱口の
視界から消えていった。
『マジかよ、
俺の誘いを断わるかね?』
濱口は笑いながら
女神を見送り
『絶対に食ってヤル』と
野心を燃やすのであった。
そんな事を知らない女神は
いつものように
トイレに直行して
立花にLINEを打っている。
マネージャーさんに聞いた
来週以降のスケジュールでは
深夜までの仕事は減りそうで
てっぺんを迎える前には
帰れそうとの事だった。
てっぺんとは
業界用語で12時の事で
日をまたぐか?
またがないか?
時計の針が
1番高い所を指すので
そう言われている。
今の女神は家に寝に
帰って来ているだけで
自分の時間など無い。
だが子供の頃から
憧れていたアイドルに
成っている実感がある。
そんな細かい感想まで
立花にLINEで
送っているので
時間は長くなり
最近では
マネージャーさんに
『お腹大丈夫?』と
心配されるくらいだ。
だが立花の事は
事務所に絶対にバレては、
いけないので
誤魔化し続けるしかない。
トイレを出た女神は
マネージャーさんと
一緒に車に乗り込み
次の現場である
テレビ局へと向かう。
車の中で女神は
マネージャーさんに
『仕事の件で女神ちゃんに
確認しときたい案件が
あるのよ』と言われた。
『確認?、仕事で?』
女神は何の事か
分からなかった。
すると
『写真集の話が
2つ来ているの』と
マネージャーさんが
喋り出したのを聞いて
『キャ〜』と
既に大喜びである。
売れているアイドルの
バロメーターになるのが
写真集とカレンダーだ。
売り上げ数が
目に見えるので
場合によっては
残酷な結果にもなる。
だが出版社も赤字を
覚悟で出す訳もなく
売れる見込みのない
アイドルには
声がかからない。
写真集のオファーが
来たという事は
女神に人気があり
出版しても
予算を組んだ費用を
回収出来ると
踏んだという証拠である。
『一冊は海外で
水着撮影ありの企画で』
『もう一冊は国内での
撮影なの』と
マネージャーさんが
説明すると
『国内も水着が
あるんですか?』と
笑顔が消えて真剣な表情の
女神が尋ねると
『国内は
打ち合わせ次第だけど
女神ちゃんがイヤなら
水着は無しに出来そうよ』と
説明すると
『でしたら国内にして下さい』と
女神が即答した。
『やっぱり、
そう言うと思ったわ』と
マネージャーさんが
笑いながら答え
『ギャラは聞かなくても
良いの?』と聞いてきたが
『水着はイヤです』と
交渉の余地ナシで
却下となる。
水着と言って
誤魔化しているが
購入している男達は
下着姿と同じ視線で
写真集を見ている。
女神の年頃で
スタッフとはいえ
男達の前で下着同然の
姿での水着撮影は羞恥心が
壊れそうになるだろう。
『ギャラは水着ありは
売り上げの10%で、
水着なしは5%みたいよ』
そう説明するが
女神は即答で
『水着ナシでお願いします』と
答えた。
女神が所属している
事務所は良心的であり
所属タレントに
水着ありとギャラを
事前に開示しているが
コンプライアンスを
無視した事務所だと
タレントに告知せずに
現場に着いたら
布の面積の少ない水着が
用意されていて
事前に告知せずに
公開下着ショ-のような形で
水着撮影が始まる。
Tバックのような下に、
何度もポロリをしてしまう上は
写真集では採用されないが
現場の男性スタッフには
全て見られてしまう。
恥ずかしさに耐えて
終了した仕事で
タレントが今日の
写真集のギャラの事を
尋ねると
『お前が売れる為に、
無理言って写真集を
出して貰ったんだよ』
『ギャラなんて貰えるかよ』と
一喝されて
おしまいである。
実際には事務所に
売り上げの10%が入る。
味を占めた事務所は
もっと際どいDVDの
撮影をさせたりしていき
やがてファンに飽きられた
タレントは消えていく。
写真集は1冊、
2000円から3000円で
神楽坂36のトップクラスが
際どいセミヌ-ドの
写真集を発売した時には
40万部を超えるヒットとなった。
2000円×40万部×10%で
タレントには8000万円の
ギャラが入った計算になる。
今の女神の人気なら
半分の20万部は
売れるであろう。
恥ずかしさの対価で
4000万円を得るつもりは
女神にはなかった。
自分が肌を見せるのは
立花だけと
彼女は決めているからだ。
既にCMを3本契約しており
3000万円は貰える話に
なっているので
危ない橋を渡るつもりは無い。
3000万円の半分を
税金で納めても
残りの金額で
中古の家を両親に
買ってあげられる。
それで女神は充分であった。
来月には鬼のように、
こなしている
今の仕事のギャラも入る。
計算はしていないが
手取り20万円の給料の
何倍も貰えるであろう。
新人である女神の
クチからは言えないが
出来ればもう少し
仕事をセ-ブして
プライベートの時間を
増やしていきたいと
彼女は思っている。
仕事が終わって
家に帰るのが深夜では
立花に電話が出来ない。
自分の空き時間が
日中に取れても
立花は仕事中で
電話が出来ない。
この何日間は
文字のやり取りだけで
立花の声が聞けておらず
それがストレスとなっていた。
だが絵色女神の
快進撃は止まらず
『もう一つ、新しい仕事の
相談が来ているの』と
マネージャーさんから
打診があった。
『もう一つって、
何ですか?』と
女神が尋ねると
『女性ファッション誌の
専属モデルの話が
3誌から来ているの』
そう説明を聞いた女神は
『キャ〜』と
再び歓喜したのである。
最近の女性アイドルは
男性の支持だけでは
生き残れない。
いかに同性である女性に
支持されていけるか?で
変わっていく。
同性である女性が見て憧れる
ファッションリ-ダ-に
成れるか?が
ポイントであった。
女性の永遠のテ-マである
綺麗になりたいを追求する
女性ファッション誌は
着こなしの
教科書になるので
出版不況の中、
景品付き雑誌と並んで
売り上げが落ちていない。
『専属契約だから
1社を選ばないと
いけないんだけど、
どうする?』と
マネージャーさんが
確認をする。
女性ファッション誌も
ライバル会社が多いので
専属契約でタレントを拘束して
ライバル誌に
出演をさせないようにする。
『アタシ、
オリファルコンさんの雑誌も
専属契約ですけど
平気なんですか?』と
女神が質問すると
『今回の専属契約は
女性ファッション誌だから』
『オリファルコンさんが
出している雑誌とは
被らないから平気よ』と
説明をしてくれた。
この業界は1社と契約すると
同業他社の広告媒体には
一切関与出来ない。
お菓子メ-カと
契約した女神は
テレビ出演や
ラジオ出演した際も
普段から食べるお菓子は
自分がCM出演した
メ-カ-のお菓子だと
発言しないと、
いけないのである。
専属契約だから
高い報酬や高待遇が
約束されるのであった。
『条件は3誌とも同じだけど
ロシナンテさんだけは
年間3回の表紙も確約条件に
なっているわよ』と
マネージャーさんが
説明を加えた。
雑誌が専属契約する
タレントは1誌に何人もいる。
雑誌の中で服を
紹介するだけのモデルさんの
場合もあれば
雑誌の顔である
表紙を飾って、
そのまま巻頭で
特集ペ-ジにも起用される
特別クラスのモデルもいる。
コンビニなので
見かける美人が笑顔で
写っている
女性ファッション誌に
憧れていた女神は
『でしたらロシナンテさんで
話を進めて貰えたら
嬉しいです』と
リクエストをしてみた。
『了解です、
女神ちゃんの希望を
運営には言っておきます』
そう言った後に
『あと、来週に
予定されていたドラマの
オ-ディションは
無くなりました』と
マネージャーさんが
報告してくる。
女神も、これだけ忙しいと
無理か、と納得していると
『オ-ディション無しで
出演依頼が先方から来ました』
『詳しくは来週決定ですけど、
役名ありで
セリフもありです』と
マネージャーさんが
報告すると
『ヤッタ〜』と
女神が大喜びする。
ドラマで
オ-ディションなどはするが
実際はある程度、話は
決まっている。
売れている俳優と
実力のある事務所との
パワーバランスで
メインが決まり
話題作りで旬なタレントや
アイドルを配置して
ファン層の視聴率を
取りに行く為である。
CM出演の後のテレビ出演、
写真集発売、
女性ファッション誌の
専属モデルにドラマ初出演
1ケ月前までは
無名に近かった彼女は
名実ともにトップアイドルに
なっていたのである。
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