第66話それぞれの道

オリファルコン社の

会議室では明日から

放映されるTV CMと


YouTubeなど

ネット媒体で流れる

CFのお披露目会が

実施されている。


白いレ-スのような

ドレスを身にまとい


羽根をつけた絵色女神が

ギリシャの

ビ-ナスのようになり


『全ての人に幸あれ』と

微笑むモノで

前評判も上々だった。


電車の中吊り広告や

駅の壁面にもポスターは

掲示される予定で


渋谷駅では駅の上の広告板も

使用する予定なので


テレビ番組で渋谷の

スクランブル交差点が

ライブ中継されると


女神が微笑む

巨大ポスターが

必ず目に入る状態だ。


会議が終わり、

それぞれ自分の場所へと

戻って会長室での事


『会長のお耳に入れるべきか

迷っている事なんですが』と

美人秘書さんが猪木会長に

話し掛けると


『どうぞ、

おっしゃってください』と

猪木会長が言う。


『実は副社長の件で、』と

秘書さんが喋りだすと


猪木会長は仕事の手を止めて

秘書さんの方に向き直して


『それで?』と

続きの話を要求してくる。


『言いつけたように

思われるので内緒にしといて

下さいね?』と前置きをして


『この前の日曜日に新宿で

副社長と若い女性が

デ-トをしている場面に

遭遇してしまって』と

申し訳なさそうに話すと


『詳しく教えて下さい』


猪木会長は詳細を

聞き出したのであった。



場所はお台場の

関東テレビ局前の

特設イベント会場


屋外ステージが設置されて

数組のア-ティストが

日替わりで

お客さんの前でミニライブを

無料で開催していた。


今日は権太坂36も

出演する事になっており

全員が勢揃いして

集合していた。


ラスト前が権太坂36の

出番である。


この手のライブは

ラストに出演する

ア-ティストが

一番注目されており


会場も、

そのアーティストのファンで

埋め尽くされており


お目当ての

ア-ティスト以外には

関心がなく


その他の出演者の

ライブ中は全く

盛り上がらない。


それを踏まえて

キャプテンの前田明子は


『今日のライブを見て

ファンになって貰う

その気持ちで頑張るよ』


その掛け声で

円陣を組んでいた

他のメンバーが


『オ--』っと

一斉に声を出して

ステージに走って行った。


会場は今日のラストの

『ライカンスロ-プ』の

ファンで埋め尽くされていると

思っていたが

実際は違っていた。


会場は権太坂36のファンで

全席埋め尽くされているのだ。


正確に言うと

絵色女神のファンで

会場が埋め尽くされている。


来場者は大きなウチワに

推しの名前を

書いてあるモノを

持参しているが


ほぼ、絵色女神の

名前となっていた。


生まれて初めての光景に

女神が涙ぐんでいると


キャプテンが

女神をセンターまで

引っ張って来て


『みんな、女神が見たくて

来てくれたんだよ』


『みなさんに挨拶したら?』と

予定に無い演出で

女神に挨拶を促す。


『女神ちゃん可愛い〜』や

『会いに来たよ〜』と言う

歓声の中


女神がセンター前に

歩いていき


『今日は、お越し頂き

ありがとうございます』


『メンバー全員、

皆さんに喜んで貰える

パフォーマンスを

しますので』


『最後まで

楽しんでいってください』


そう絶叫した瞬間に

曲のイントロが流れて

権太坂36のライブが

始まった。


会場のファンの熱気を

既に事前に情報として

掴んでいたテレビ局も


カメラ4台で権太坂の

ライブを撮影し始める。


ファンの視線と

コ-ルは絵色女神に


向けられているものだが

メンバー達は嬉しかった。


山田プロデューサーの

言っていた


今、売れなきゃ

何時売れるんだ?


今がラストチャンスの

言葉を実感して


いつもより

キレキレのダンスで


全員、リミッターが切れた

パフォーマンスを演じる。


予定の3曲を終了して

権太坂がステージを

去った後も会場では


アンコールの声が

鳴り止まない。


だが次の

ライカンスロ-プが


スタンバイをしているので

権太坂は楽屋に戻って


今日のパフォーマンスは

終了した。


楽屋に戻ってからも女神は

メンバーの輪の中心だ。


『全部、女神に

持っていかれたよ』


『女神とその他大勢に

名前を変えて

デビューしようよ?』


そんな声が飛び交うが、

全員が笑顔である。


今まで日が

当たらなかった権太坂だが


女神がいる事で

注目度が上がっており


それはテレビや雑誌、

ネットで権太坂が

見られている事に繋がる。


女神の次は私だ。


権太坂のメンバーは

売れ始めた事を

実感したライブであった。


大勢の女神ファンの中に

自分の名前のウチワを

持っているファンを

見つけた喜び


メンバー達は

その数を増やしていく。


その決意を

各々して現地で解散する。


充実したライブが終わった、

その日越中美桜は

スポンサーの社長に呼ばれて

都心のシティホテルにいた。


丸裸にされて

全身を舐め回されている間


美桜は、この契約をした事を

後悔していて

解約出来ないか?

その事を

切り出す事を考えていた。


CMはまだ撮影していない。


今なら

キャンセル出来るのでは?

そう考えていた。


社長が満足した後に

言ってみよう


そう考えて

社長の注文に忠実に答え


動物のような

恥ずかしいポ-ズで

社長を受け入れている。


全身汗まみれの社長は

欲望の限りを尽くした後にも

美桜にキスをしながら

恐ろしい事を耳元で囁いた。


『一生、お前を離さないぞ』


それを聞いた美桜は

『契約は半年ですよ』と言って


ベッドから飛び起きた。


『こんな可愛い美桜を

手放すなんて

絶対にイヤだ』


『一生、俺の側にいろ』と

美桜の腕を引っ張り、

再びベッドの中に

引きずり込み

美桜の中に入ってきた。


『待って、イヤだ』

『付けてよ』


美桜の悲鳴に近い声を

無視して

社長は腰を振りまくった。


『ダメ〜』


美桜の声を無視して

社長は終えた。


『ひどいよ』

『もう会わない』


泣きながら美桜は

全裸で泣いていた。


私はバカだ。


地元の彼氏を裏切って

愛人契約をする

必要などなかった。


泣いている美桜の頭を

撫でる社長に


『触るな』と

美桜が悪態をついて、

突っぱねる。


『美桜、そんな悲しい事を

言わないでおくれよ』

社長がそう言うが


『うるさい』と

美桜は怒りまくって

言葉を受け付けない。


『今日で契約は

終わりにして下さい』


美桜はハッキリと

社長に宣言した。


さっきまでとは別人のように

平謝りする社長は


『 CM契約は既に

調印済みだから

キャンセルは

出来ないんだよ』


『今、美桜が

キャンセルすると

広告代理店に払う違約金を

含めて2億円を

美桜が払わないと

いけなくなるんだ』と

社長が説明して


以前不倫問題で

CM降板したタレントが

数億円の違約金を

払った、と言う

記事を見た事を思い出した。


『だって中に

出すなんて聞いてない』と


ソッチ方面に

クレ-ムを言うと


『この薬を飲めば大丈夫』

『そういう薬だから』と言って

ウィンクした。


言われるまま薬を

飲んだ美桜に


社長は持参したカバンから

何かを取り出し

美桜のいるベッドに投げた。


それは現金100万円の

札束だった。


『今日の事は本当にごめん』


『お詫びだから、

受け取っておいて』


そう言って美桜に

カバンにしまうように

言うのである。


こんな大金を

目の前にしたのは

初めてだった。


社長にされた酷い事を

忘れて

100万円の札束に

釘付けである。


更に社長は

『美桜ちゃんに

新しい CMをプレゼント

するよ』と

信じられない事を

言ってきたのだ。


『ゴルフ友達の社長が

新しい CMのタレントを

探していたから』


『美桜ちゃんに

決めて貰うように

頼んであげるよ』


CMが更に増えたら

女神に近づける。


今日のライブ会場で

女神のウチワの数に

圧倒されていた。


『美桜ちゃん、

機嫌を直してよ?』


社長に、

そう言われた美桜は


『次にひどい事をしたら

本当にキャンセルです』

と言って

社長を許すことにした。


それを聞いた社長は


『もう俺は美桜から

一生離れられないよ』

と言って

裸の彼女に抱きついている。


美桜は、この時に

気付いていなかった


三脚に固定された

ビデオカメラの存在を


美桜より早く

ホテルに入った社長が


カ-テンに隠す形で

カメラを設置していた。


あらかじめ今日は

ひどい事をするつもりで

社長は考えていて

全て準備していた。


つけ加えれば前回のホテルも

契約内容の会話を録音している。


後で裁判になった時に

有利にする為だ。


全てをビデオで

録画されている事を知らず


胸を揉まれている

美桜だったのである。

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