第14話女神様の決心 1

可愛い子は小さい時から

可愛いくて親戚や近所の人から


「可愛いね、将来は女優さんか?

アイドルになれるだろうね」と


言われてきて育ってきたので

自分でも将来は芸能界に

進むかもしれないと思っていた。


テレビから流れる華やかな

世界と優雅な生活。


貧乏とまでは言わないが、

ゆとりの無い自分の環境


そこから脱出する唯一の方法が

アイドルになる事だと思っていた。


小学生、中学生とクラスで

一番モテており、時には


意中の人から告白される事も

あったが全て断っている。


自分はアイドルに成るのだから

恋愛をしているヒマはない。


芸能人は恋愛禁止という

情報だけが入ってきて

曲がった信念で

自分に足かせを課していた。


同級生が恋人を作って

楽しく過ごしていた

高校生活だが、自分だけは


家庭に迷惑をかけないために

アルバイトを

2つ掛け持ちをしながら


オーディションへの

申し込みを続ける。


自分の夢と生活の為の

我慢の毎日である

高校生活の中で

彼女には2つの夢があった。


「アイドルになる事」と

「彼氏を作る事」


その夢に転機が訪れたのが

高校2年の時だった。


書類選考で毎回落ちていた

オーディションが予選を

通過したのだった。


そこからは合格だけを

信じて向かって行き


ついに念願の

オーディション合格で

ゴールを迎えたと思っていた。


だが現実は、そこからが

過酷なレースの

スタートだったのだ。


馴染めない芸能界、

親元から独立しての

一人暮らしは孤独の連続で

相談出来る友人も少なかった。


『こんな時に

彼氏がいてくれたらな?』


気持ちが落ちていた時に

発生したスト-カ-事件


精神的にもマイっていた時に

現れた白馬の王子が

立花だった、と

越中美桜に説明したのであった。


『でも緊急避難で泊まった

アパートに2日間も

泊まったけど、

何も手を出してこない』


『それだったら

女神ちゃんから

アタックするしかないじゃん』


いきさつを全て聞いた美桜は

彼女にそう提案する。


『アタックって、

どうすれば良いのかな?』


『そもそも、アタシが

子供扱いされているだけじゃない?』


心の奥にあった心配事を

美桜にぶつけると


『大丈夫、そんな事ない』


『裸を見せれば、男はみんな

飛び付いてくるからさ』


そう美桜が力説しているが、

彼女は腑に落ちていない。


裸なんて、

ムリに決まっているじゃん


『ウチのは次の日

学校があるのに寝ないで、

何回もシテくるよ』


そう自分の経験を語る美桜に


『それって美桜ちゃんの彼氏が

高校生だからじゃないの?』と

彼女が言うと


『女神ちゃんの王子様も、

同じ位の人じゃないの?』と

質問してくる。


写真を見せるのを迷っていたが、

彼女にも心配事があったので

美桜にツ-ショット写真を

見せる事にした。


何枚か撮った写真の中で、

立花が一番良く写っていると

思われる画像を

美桜に提示しながら


『27才の会社員の人』

そう説明を加えて写真を見せる。


『へぇ〜、良い男じゃん』

美桜がそう感想を述べると、

途端に絵色女神は笑顔になって


『そうでしょう?』と

美桜に同意を求めた。


彼女の心配事は立花の顔を

他の女子が何点と採点するか?

との事だった。


趣味が悪い男に

夢中になっていると

思われたくないと言う

乙女心である。


実際のところ美桜は、

自分の彼氏の足元にも

及ばないと思っていた。


だが女性同士の付き合いでは

他人の彼氏を見た時に


『お笑いのアインシュタインの

稲ちゃんクラス』が

登場しない限りは


『かっこいいね』と

表現する事が多い、


どうしても褒める言葉が

見つからない時には


『優しそうな人だね』で

逃げる事も忘れてはならない。


美桜の中で、

一目惚れになった人に

相手にされない絵色女神の焦り、


それが今回の相談だろう?と

決めつけている感がある。


絵色女神は自分の気持ちが

わからないが、

美桜に相談しているうちに


立花に夢中になっている

自分を認識したが、

立花に相手にされていない

現実も再認識していた。


『女神ちゃんが

夜寝る時に相手のベッドに

自分から潜り込んじゃう』


『これで決まりだよ』

ドヤ顔の美桜に

力説された彼女は


『そんな事、出来るかな?』と

困惑をしていたのである。


告白をされた経験しかない

彼女には、自分から告白や

アプローチをした事がなかった。


男の人と付き合った事が無い

自分が男の人のベッドに潜り込む。


『そんな大胆な事が

自分に出来るか?』


木曜日の仕事をこなしながら、

絵色女神の頭はその事で

いっぱいだった。


相談した事で心配が

大きくなってしまい


明日の家電購入デ-トの

前打ち合わせの意味もあって

LINEを立花に打つが


しばらく既読にもならず、

やがて自分の休憩時間が

終わり収録に復帰


彼女が撮影している最中に

LINEに気付いた立花が


『後輩のヘルプが入ったので、

今日は残業になると思います』


この返信を打ったのは、

絵色女神のメッセージから

1時間後であった。


休憩時間になった彼女は

急いでスマホを確認、


立花のレスを確認して

10分前の発信なら


まだスマホを見ているかも?と

淡い期待を持ちながら


『新曲のMVは超大変、

フリがキツい』と、送ったが

休憩時間中にレスは来なかった。


お互いに仕事をしているなら

タイムリーなLINEのラリーは

期待出来ないと分かっているが


心配事が多い時ほど

夜中のLINEのように

クィックレスポンスを

求めるものだ。


結局、立花からのレスは

ゴ-ゴル社の緊急対応が

終わってからの22時過ぎだった。


その頃、絵色女神は

権太坂36の新曲MVの撮影が

伸び伸びになり


立花のレスに気付いた頃は

24時を回った頃だった。


翌朝になって

『今日一日大変でしたね』

『お仕事お疲れ様でした』という


彼女の打ったLINEが

やっと既読になった。


『ごめんね、昨日LINEを

貰った時には爆睡していました』と

立花がレスを返すと


すぐに

『ピコン』と

LINEが反応する。


絵色女神も立花のレスを

待ち続けてスマホを

握り締めながら

寝てしまっていたのだが


彼からのレスに気づいて

飛び起き、すぐにレスを返したのだ。


『おはようございます』

『今日は予定通りで

大丈夫ですか?』


不安な気持ちを隠して

寝起きで回らない頭を

フル稼働させて立花に

送ったメッセージ


『おはよう、

起こしちゃったかな?』


『何があっても

今日は定時に上がって、

電気屋に行きます』と

立花が返信すると


『アタシも何があっても

自由が丘に行きます』と

彼女からも即レスが返ってくる。


丸2日間会ってない、


今すぐ自由が丘に

行きたい気持ちを隠して


『今日も一日、

お仕事頑張ってください』と

彼女がエ-ルを送ると


『女神ちゃんも頑張ってね』と

立花からレスが来て、

それだけで大満足の彼女である。


それぞれの朝が

こうやって始まっていく。


いつもの日常が戻って来た。


会社に向かう立花は

そう思っていたが、

異常事態は起きていた。


立花がオフィスの自分の机に

座ると、机の上に花が

花瓶に入って飾られている。


俺の机で合っているよな?


見慣れない風景に戸惑っていると、

棚橋が近づいて来て


『良かった、生きているな』


『机に花が飾っていたから』


『死んじゃった奴かと思った』と

おどけて笑うと


『そんな冗談はやめてください』と

女性の声で棚橋に注意が入った。


2人が声の主を確認すると、

そこには蝶野正子が

ボディラインが強調された

紺のス-ツを来て立っている。


『立花さん、おはようございます』

『お花を飾ったのはワタシです』

『気にいってくれたら

嬉しいです』


そう言って満面の笑みで

立花を見つめていた。


状況が分からないのは棚橋だ。


女子社員には『マシン』や

『ロボ』と呼ばれていた

立花が女子社員に

話しかけられていて


あまつさえ花を

飾られるというイケメンだけが

会社で受ける最上級の

おもてなしに


『夢じゃないよな?』と

驚いている。


思い当たるフシがあった立花が

『そんなに気を使わなくて

良いよ』と


蝶野に、そう告げると

軽く頬を赤らめて


『昨日はダメでしたけど』

『今日はご飯一緒に、

どうですか?』と聞いてきた。


『ご飯?』

棚橋が驚いたまま

クチを開けて固まっている。


『ごめん今日もダメなんだ』

『先約が入っているから

定時には帰る予定なんだよ』と

立花が断ると


『そうですか』と

意気消沈した感じで蝶野が

落ち込んでいる。


『来週の火曜日は、どうかな?』

彼女の落ち込み具合を見て、

少し気の毒になったのと


花に始まった彼女のおもてなしは、

一回彼女の希望を

受け入れないと続くだろう、と

考えた立花が折れた感じで

提案すると


『本当ですか?』

『火曜日、死んでも行きます』


立花の両手を掴んで蝶野が

喜びを表現している。


棚橋は永久凍土で凍った

マンモスのように動けない。


『急用が入らなきゃ

大丈夫だと思うから』

そう言う立花に対して


『絶対に予定を入れないで下さい』

蝶野は、そう言いながら

スキップしながら去っていく。


蝶野が去ったのを確認した棚橋が

『ちょっと来い』と

立花を食堂に連行した。


誰もいない朝の社員食堂で

棚橋の尋問が始まる。


『蝶野と何があった?』

血走った目で立花に詰め寄ると、

彼は昨日のバグ事件の事を

説明しだした。


『修理が終わった後、

蝶野がメシを奢らせてくれ?って

言ってきたから』


『帰りたいから、

今日は勘弁してって』


『で、さっきみたいな

感じになりました』と

立花が説明をすると


『か〜、何でお前なんだよ』と

本気で悔しがっている。


『棚橋お前、蝶野の事好きなの?』

立花が、そう聞くと


『立花、お前は何を見ているんだ』

そう言って全身を使って、

残念さをアピールしてきた。


『蝶野の見た目で、

あのオッパイだぞ!』


『アイツが入社してから

何人の男がアタックして

玉砕したと思っているんだ』

そう力説したが


『へ〜、そうなんだ』と

立花は拍子抜けするくらい

淡々としている。


『立花は、あのオッパイを

揉んでみたくないのか!』


『あの気の強い蝶野を

ベッドの中で屈服させて、

苦悶の表情を

浮かべさせたいだろ?』

そう棚橋が力説するが


『別に、思わないな』と

冷静に答えた。


『何故、俺じゃない』

そう言って、

この世の終わりのように

残念がる棚橋を残して

食堂を後にする立花。


だがオフィスに

戻ってからも異変は続いており


『立花さん、

FAXが入ってました』と

女子社員が、わざわざ

立花の机に届けてくれる。


敵と戦った後のように

フラフラになった棚橋が

オフィスに戻ってくると

目の前で


『立花さん、お茶どうぞ』と

女子社員が立花の机に

お茶を置いたのを見て


『慶子ちゃん、俺のは?』と

棚橋が聞くと


『水でも飲んでください』と

冷たく、あしらわれてしまう。


立花を取り巻く環境が

一変している。


これには理由があった。


昨晩のゴ-ゴル社の

一連の出来事を蝶野がグ

ループLINEで

報告していたのである。


女子の比率が少ない会社ゆえ

女子の結束力は強く、

会社内で起きた


大小さまざまな出来事を、

お互いに報告し合っていた。


そこで仕事の対応力、

イヤミな先方への

毅然とした態度、

後輩を思いやる言葉、

取得困難な国家資格の

保有者だった事


その全ての情報を蝶野が

アップしたのだった。


マシンって、やるじゃん。


マシンって言うな。


システム監査技術者って凄いの?


ゴ-ゴルの社員も取れない位

ムズイらしい


他に応用情報技術者とかも

持ってるみたい。


将来有望じゃない?


グループLINEに誰かが書いた、


『将来有望』


このメッセージが女性社員に

火を点けた。


結婚するなら安定した高給取り、

いつの世も女性の共通した

野望である。


立花は浮気をする

タイプではないし、

見た目も悪くない。


悪くないかも?


そう感じた女性社員が早速、

動いたのであった。


絵色女神の知らないところで

立花の争奪戦が、

始まっていたのであった。

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