第15話女神様の決心 2

立花shock、後にそう言われた

騒動はまだ続いていた。


それは藤波係長が司会をしていた

朝礼で、昨日の立花の機転が

事例として発表され、


朝礼が終わった後

『ダウングレードの方法を

教えてくれ』と


何人も営業が立花に集まって

教えを乞う姿に象徴されている。


1人1人に丁寧に説明する

立花の姿を女子社員が、

ウットリと見とれており


男女問わず、立花に対する

昨日までの対応と雲泥の差が

あったのだった。


蝶野も他の女子社員が

立花に色目を使い始めた事に

気付いており


すぐに女子社員のグループLINEに

『立花さんと火曜日の夜に

お酒に行く事になりました』と


勝利宣言とも取れる

投稿した事で


お前らとは違うんだよ、と

宣戦布告をして

戦いの火種を

大きくしていたのである。


立花に対しての案件相談が

ひと段落した後、

藤波係長が立花の元に来て


『ちょっと良いかな?』と

別室へ呼び出して面談を始めた。


来客用の応接室は、

時に上司と部下の

打ち合わせの場所としても

利用される。


対面する形で

藤波係長と立花が座ると


『昨日は本当に、ご苦労様』と

立花に対しての

ねぎらいの言葉をかけた。


立花は、それほど

騒がれる事をした認識が

なかったので


『そんな対した事は

していないです』と謙遜すると、

藤波係長は黙ってしまい

次の言葉が出てこない。


30秒ほど無言の時間が

過ぎた時に


『じゃあ、席に戻って

良いですか?』と


会話が終了したと思い

立花が中座しようとした時に


『辞めないわよね?』と

藤波係長が

突然聞いてきたのである。


『辞める?』


突然、そんな事を

聞かれた立花は意味が分からず


『誰が辞めるんですか?』と

藤波係長に聞くと


恥ずかしそうに

『立花だよ』と、頬を

赤らめながら言ってきた。


『俺ですか?』


『辞めませんけど、

誰かそんな事を

噂しているんですか?』と

確認すると


『いや誰も、そんな事を

言ってないけど』


『資格を取り出したから、

転職するのかな?と思って』

そう言った後、下を向いてしまう。


『資格は前から取っていたので』

『最近って訳じゃないんですよ』


『昨日もゴ-ゴルに

転職しないか?って』


『からかわれたけど

断りましたから』と

立花が説明すると


『本当に辞めないでよ』と

立花の目を見つめて

藤波係長が頼んでくる。


その瞳は愛する者を

見つめる視線だったが、

女性関係から

疎遠になっていた

立花には理解出来ず


部下に辞められると

困る上司と映り


『もし、辞めたくなった時には、

1番最初に係長に

報告しますから安心して下さい』と


変に期待を持たせる言葉と

なっていた。


『辞めたら、イヤだからね』


普段は男勝りの係長が

見せた女の部分だったが、

立花には届いていない。


『じゃあ戻りますね』


立花は、そう言って

応接室を出て行ったが、

藤波係長は1人

しばらく部屋に残っていた。


同僚へのレクチャーや

係長との面談で、仕事の

スタートが遅くなったが


今夜は絵色女神と

家電購入デ-トの予定が

あるので今日は

絶対に残業は出来ない。


早く自分の仕事を

終わらせよう、

そう思った矢先に


『立花さん明日の土曜日に

映画に行きませか?』と


さっきお茶をいれてくれた

慶子ちゃんが誘ってきた。


突然の出来事に

立花がビックリしていると


『異世界おじさんの劇場版の

招待券が2枚あるんです』


『良かったら、

一緒にどうですか?』と


グイグイと

アプローチをかけてきた。


『明日は先約があるから

厳しいかな?』と

やんわりと断ると


『だったら日曜日は、

どうですか?』と


誘いの手を緩める事なく

アタックを続ける。


『日曜日は洗濯を

1週間分しないと

ダメな日なんだよ』と

立花が言うと


『私が洗濯をしに行きますよ』と

チャンスとばかりに

彼女が前のめりになる。


『コインランドリーに

行くから大丈夫です』


終わらない勧誘に、

戸惑っていた立花だが、

自分の担当先に行く時間が

迫って来ている事に気付き


『ごめん、アポの時間が

来たから行くね』と、

逃げるように外出してしまった。


『慶子ちゃん

友達が少ないのかな?』


『映画なら俺じゃなくても、

いいだろ?』


そんな独り言を言いながら、

お得意様の会社に向かう

立花だった。


その頃、絵色女神は

演技レッスン教室で

講師から個別指導を受けていた。


会社の方針で

アイドル活動だけではなく、

各種方面で活躍できるように

色々なレッスン教室に

通わせていたのだ。


1時間ほどのレッスンが

終わった時に40代の女性講師が


『女神ちゃん、

すごい良くなっているわ』


『表情が2段階くらい

輝いているもの』と

彼女を褒めだした。


『そうですか』


彼女は何事もなかったように

答えたが、

演技レッスン中に立花が

目の前にいるつもりで

演技をしていたのだ。


立花に別れを言う演技の時は、

本当に悲しそうに


立花と久々の

再会をした演技の時は、

満面の笑みを浮かべて

感情を表現していた。


『何か良い事あった?』


この手の年配の女性が、

この手の質問をした時は


『良い男が出来た?』と

言う意味だ。


恋をしている女性は綺麗になると

言われているのは、

この辺りも関係しているだろう。


『特別ないですけど』


そう答えて下を向いた

絵色女神の態度が全てを

物語っている。


ピ-ンと来た女性講師は


『今度新しいドラマの

オ-ディションの話が

来ているけど受けてみる?』と

彼女を誘うと


『本当ですか?お願いします』と

大喜びで即答した。


ドラマや映画の出演には

一般募集の物もあるが、

大概は関係者からの推薦で

オ-ディションに

参加出来るか?が決まる。


ゆえに、推薦した人間も

恥をかいてしまうので、

誰でも推す訳ではない。


絵色女神も、その事を

充分知っていたので喜びを

爆発させていたのだった。


演技レッスンが

終わった彼女は、

すぐに立花にLINEを送る。


『新しく始まるドラマの

オ-ディションを受けさせて

貰える事になりました』


立花も今日は

移動中だったので、

すぐにLINEに気付き


『良かったね、おめでとう』と

即レスで返す。


予想外の即レスに驚いた彼女が

『今は、

お仕事中じゃないんですか?』と

再びLINEを送ると


『お仕事中です』


『電車で1人移動中なので』と

立花からのレスが届く。


『アタシも事務所に

打ち合わせの為に

移動中です』との彼女のレスに


『今日の家電購入に

遅刻しない為に、

頑張っております♪』と


立花もすぐに

反応して返信をする。


『すごく楽しみにしているので』


『アタシも遅刻しないように、

お仕事を頑張ります』と

彼女が返信して、

お互い仕事モ-ドに戻っていった。


わずかな時間、

文字のみのやり取りだったが

立花と繋がっている

実感が出来たので

絵色女神は、ご機嫌である。


スト-カ-事件の、

すぐ後なので事務所の人間も

打ち合わせの時に

気を使おうとしていたが


何を聞いても満面の笑みで

答えてくる彼女を見て、

それが取り越し苦労だったと、

安心した。


彼女の精神的なケアが、

メインの打ち合わせだったので、

事務所での打ち合わせも

すぐに終了して雑誌取材が

予定されている喫茶店へ向かう。


雑誌の取材も終始和やかな

雰囲気の中で行われて、

他のメンバーが3人いる中、

絵色女神に

雑誌記者の質問は集中した。


はしゃいでいると

取られないギリギリの

元気さは記者からすると


ム-ドメ-カ-となって、

取材を受けている他の人間を

炊き付けてくれる

存在として現場では重宝する。


『挑戦したい事ですか?

女優さんに憧れているので、

ドラマにいつか出たいです』


『キスシ-ンですか?』


『今はムリです』

『でも、本当に来たら

考えちゃいます』


取材をしている側も

記事にし易く、笑顔で

受け答えているので

カメラマンも撮影が進む。


場の空気を感じた

先輩メンバーが


『ビ-ナスはネットゲ-ムも

得意なんだよね?』


『今度ワタシにも教えてよ』と

振ると


『何のゲ-ムですか?』と

雑誌記者も食いつき


『何とかハンターだっけ?』と

絵色女神に確認する。


『エクシブハンターです』

『アタシで良かったら、

いつでも教えますよ』と

彼女が答えると


『本当に?嬉しい』と

先輩が答えて場が盛り上がる。


取材は順調に進んだようで

早めに雑誌記者達は

帰って行った。


喫茶店には権太坂の

メンバーとマネージャ-だけが、

残っている状態となる。


『じゃあ、

ここはこれで解散で』と


終了宣言が出たので、

他の仕事が無い絵色女神は

本日の業務は終了となった。


早く終わって

ルンルン気分の彼女は、

さっきの取材の流れのまま

「藤原さん、

エクシブハンターだったら』


『いつでも教えますので』と

先輩メンバーに話しかけると


『はぁ?』


『ゲ-ムなんて、やんねぇよ』と

取材の時からは

想像出来ない悪い態度で、

その場から立ち去って行く。


その一部始終を

見ていたマネージャーや

他のメンバーは


『まぁ、まぁ』と

なだめすかすような

ポ-ズで彼女を慰めた。


いつもなら

落ち込むところだが、

今日はこれから

デ-トがあるので


笑顔でみんなに向かって、

ダブルピ-スをして

大丈夫だよの返事が出来た。


その姿が、

更にみんなの好感を呼ぶ。


良い流れの時は全て、

良い流れとなっていく。


今日は全てが

絵色女神の味方になっている。


ウィ-クリ-マンションに

一度戻る事にしたが

電車の待ち時間はなく

最短時間で家に着いた。


具体的な待ち合わせ時間は

決めていない、


金曜日の夕方だけが

決まっていた。


仕事が終わったのだから

シャワーを浴びよう、

他意はない、

汗を流すだけだ。


いつもより5分長く

シャワーを浴びた彼女は

バスタオルを脇下に巻く姿で

上半身を隠して


下着の入ったチェストの前で、

迷っていた。


前回を含めて2回泊まったが

立花は何もしてこなかった。


今回も何もしてこないだろう。


アタシが布団に

潜り込まなければ。


美桜に炊きつけられていたが、

彼女の中では


実行しようか?


迷っており半々の気持ちだった。


何処まで進む?


自分からアタックして

ココまでで終了です、

なんて通用しないだろう。


ネットの記事では、

みんな最後までいっていた。


そうなった時、

見られて恥ずかしくない下着


実際に彼女は

勝負下着を持っていなかった。


実家で暮らしていた時の物を、

そのまま持ってきたが、

それも同年代の女性の中では

少なかった。


家に迷惑をかけたくなくて、

新しい下着が欲しいとは

自分からは言い出せなかった。


アルバイト代が入った時に、

上下セットで2000円の物を

買ったのだが


その上下セットだけが

彼女の1軍だった。


選択肢は無いのだが

迷いたい乙女心である。


結局、1軍の上下お揃いの

淡いブルーの下着を身に着けた。


時間は16時30分、

立花はどんなに早くても

自由が丘に着くのは

18時くらいだろう。


自分が終わった事を

立花に連絡したら、

急かしているように

受け取られないか?


そんな心配をしていたが、

仕事が終わった事は

報告しとこう、そう思い


『アタシは仕事が終わりました』と

LINEを送る。


すると10分後くらいに

『了解です、こちらも

残業なしで終われそうです』と

立花から返信が来た。


これで今日は絶対に会える。


次は服選びだ。


ラフな格好?


清楚なイメージ?


露出が多いセクシー系?


やはり少ない

レパートリーの中から、

服を引っ張り出しては

鏡の前で確認をする。


色々と衣装合わせを

しているうちに

時間はあっという間に

17時を過ぎていた。


少しでも立花に

可愛いく見られたい


そんな気持ちが強くて

決まらない。


『ピコン』


LINEの着信音が聞こえて

スマホを取りに走る。


『18時に自由が丘駅に

着く予定です』


立花からの連絡を見て、

すぐに


『了解しました』と

返信をする。


急がなきゃ


早く終わっていたのに

遅刻している場合じゃない


急いで服を選んで家を出た。


駅へと向かう彼女を見た男達が

何人も振り返る。


電車に乗り込みスマホで

立花と写っている写真を見返す。


昨日から何回見直しただろう。


自由が丘駅に着いたのは17時45分、

早く着きすぎたが電車の中で

立花から、会社を出て

電車に乗った連絡は来ている。


初めて立花と会った改札前、


あの時は、まさか何度も

自由が丘に来るとは

思っていなかった。


これからも来るのかな?


ご飯を作る為に家電を

買いに行くんじゃないか。


立花とのデ-トが楽しみで、

本題を忘れている。


『ピコン』


急いでスマホを見ると

『自由が丘駅に着きました』


立花からのLINEを確認すると、

キョロキョロと

改札に向かう人の中から

立花を探す。


いた


彼も絵色女神の姿を見つけて

手を上げて、

こちらに向かって歩いてきた。


立花を見つけた彼女は

走り出していた。


そして立花の体に飛び込むように

抱きついたのだった。


『女神ちゃん、みんな見てる』


駅の改札前で

抱きつかれている会社員を、

みんな不思議そうに見ていたが


絵色女神は

立花に抱きついたままだった。

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