第85話小林無双
イメチェンした新人小林は
無双状態になっている。
朝の通勤で会社に
来るまでの間に
6人の男性から
連絡先を聞かれていた。
会社に到着すると
男性先輩社員が
小林の机に群がり
『彼氏はいるのか?』
『次の休みは
何をしている?』
『今日の仕事終わりに
メシは?』
昨日までの
一人ボッチ状態からは
考えられない波状攻撃に
対処が出来ずに困っている。
そこに蝶野が出社して
『藤波係長にチ
クりますから』と言うと
男性社員は全員逃げて
行ってしまった。
『小林、大丈夫?』
蝶野に、そう聞かれた彼女は
『ハハハ』と愛想笑いをして
『今まで誰とも喋らないのが
当たり前だったので』
『会社に到着するまでに
何人とも喋って来て
もう疲れちゃっています』
と言うと
『何、アンタ通勤途中でも
ナンパされたの?』と
驚いていると
『ナンパじゃないですよ』
『連絡先を
聞かれていただけです』と
本人には自覚がない
発言をしてきたのであった。
『ちょっと、アンタ来なさい』
そう言って彼女を社員食堂へ
連れて行く蝶野
この会社では食堂は
昼食を提供する
11時から14時以外でも
出入り自由で
自動販売機も設置しており
社員の打ち合わせスペース兼
喫茶コ-ナ-となっている。
朝1番なので蝶野と
小林以外はおらず
無人なのを確認して
蝶野が、話しかける。
『昨日、家に帰るまでは
何人くらい声をかけられた?』
そう聞かれた小林は
『蝶野さんと
別れた後ですよね?』
『3人です』と
笑顔で答えてきた。
『お前、そいつら全員に
連絡先を教えたの?』
心配そうに蝶野が聞くと
『はい、知らせました』
『まずかったですか?』
全く罪悪感がない感じで
小林が聞いてきたので
『お前、そのうちトラブルに
巻き込まれるぞ』と
呆れ顔で告げてくる。
『そんな、まさか?』
『蝶野さん、
脅かさないで下さいよ』
『みんな、優しそうな
人ばっかりでしたよ』
そう笑っている小林に
『お前が読んできた
小説の中で主人公の
女の子が騙された話は
なかったか?』
『アナ雪とかですか?』
小林は、少し怯えた表情に
なりながら聞くと
『アナ雪より、ひどい話が
いっぱい有っただろう?』
『女の子が悪い奴らに捕まって
エッチな事をされた話は
なかったか?』
冷めた口調で蝶野が言うと
『そんな、まさか?』と
少し青くなった顔で
小林が聞く。
『世の中の男はウチの
会社の連中を含めてお前と
ヤリたいだけなんだよ』
そう冷たく言い放ったのだ。
『ウソですよね?』
怖くなった小林が、
そう聞くが蝶野は
黙って首を横に振る。
『女の子としては
キレイになる事は
嬉しくて楽しいけど』
『それと同時に
ケダモノ達の目に、
さらされる事を
覚悟しとなかないと
ダメなんだよ』と
諭すように言った。
人に話しかけられる事が
極端に少なかった小林には
声を掛けてきた人が
悪人か?善人か?
見極めるチカラが無い。
向こうから
話しかけてきてくれている
昨日までなかった経験を
知ってしまったので
嬉しさが先行して
しまっていたのだ。
『お前の性格も考え方も
知らずに
声を掛けて来た男は』
『お前の外見にしか興味を
持っていなくて
お前の中身には一切、
興味はないんだ』
そう言われた小林は
納得するしかなかった。
『こんなに声を
かけられた事がなくて』
『浮かれていました』
そう言って落ち込む小林に
『お前はキレイなんだよ』
『だから目立つ』
『好きな人の前にいる時だけ
キレイにしたら、どうだ?』
そう提案する。
そう言われた小林は
黙ってしまう。
暗闇に長い間に
閉じ込められていた小林に
一瞬、光が差し込んだ
それを
また遮ってしまうのが
怖かった。
好きな人の前だけ
キレイになる?
蝶野が言った言葉を
思い出した時に
立花の顔が浮かんだ。
立花さんには彼女がいる
何で頭に浮かんだの?
自問自答した彼女だが
蝶野に自分の考えを
言ってみた。
『通勤の行き帰りは
メガネにします』
『会社にいる間は、コンタクトで
仕事をします』
『会社の人と話す練習をして
慣れてきてから』
『メガネを続けるか?
コンタクトレンズにするか
決めたいんですけど、
ダメですか?』
そう蝶野にお伺いを立てる。
『そうだな、立花さんに相談して
その線も考えてみるか?』
5分後に立花も
食堂に呼ばれていた。
そこで昨日、立花が仕掛けた
小林をイメチェンさせた事の
弊害を説明する。
『一日に何十人にも声を
かけられていたら』
『そのうち悪い奴らに
捕まってしまいますよ』
蝶野が、そう力説すると
『悪い奴ら?』と
立花も不思議そうな顔をする。
『立花さんも
知らないんですか?』と
蝶野が説明をし始める。
最近、法律が変わってAVや
風俗嬢の路上スカウトは
禁止となっていた。
そこで暗躍しているのが
ホストだ。
イケメンな上に百戦錬磨な
ホストが
街で見かけた子をナンパして
彼女にしてしまう。
自分がホストだとバラすのは
女の子が自分に
惚れたと思ってからだ。
最初は売り上げが悪いから
たまに自分の勤めている店に
遊びに来て欲しいと
彼氏モ-ドで頼む
彼氏に頼まれたら
彼女としては
何とかしてあげたいと思い
店に行ってあげる。
だが高額な請求が毎回では
彼女も貯金が底をつくので
ホストは彼女に借金をさせる。
クレジット会社、サラ金
借りられる限度まで
借りさせて
更に店に来店させる。
冷静な時なら女性も
おかしいと思うだろう?
だがホストの魔法に
かけられている女性は
『店を辞めたら、お前と
小さな店を開きたいんだ』と言う
戯言を耳元で囁かれて
盲目になっている。
もう借金も限度枠を迎えて
毎月の返済に追われた彼女に
ホスト彼氏は
『ならキャバ嬢になって
バイトしたら?』と提案する。
支払いに追われている女性は
お酒の、お相手程度なら
良いかと、
その話に乗ってしまうが
キャバクラとホストが
裏で繋がっている事を
女性は知らない。
彼女がキャバクラで
働いた金額の
10%が毎月、ホストに
スカウト料として
キックバックされる契約に
なっているのだ。
そんな事を知らない彼女は
彼氏の為にと働くが
貰った給料で
ホストクラブに行くので
借金は減らない。
『だったら、もっと稼げるのが
あるんだ』そう言って
風俗嬢の働く店やAV嬢の
仕事を彼女に紹介する。
そうする事でスカウト料が
ホストには10%入る。
色々な風俗店で
ボロ雑巾のように
酷使された後
彼女はホストに捨てられる。
『若くて可愛い子ほど
高く売れるから』
『世間知らずの小林なんか
すぐにカモにされます』
そんな蝶野の説明を聞いて
小林は怖くなって
震えだしていた。
ようやく自分がナンパ男に
個人情報をバラまいていた事が
おろかな事だと分かり
後悔をしている。
『ニュースで見た
ホストにツケを
払わされているのって
そういう事だったんだ』と
立花も納得していた。
『ですから、小林に
メガネをかけさせるのが
一番だと思うんです』
そう言った蝶野の言葉に
重みが出てきている。
同性の後輩を心配する
優しい先輩の気持ちが
蝶野にも少しあった。
ほんの少しだ。
蝶野の思惑は
立花の周りに美人は
もう、いらない
それが本音であった。
本命の女神の美しさには
到底敵わない。
他にもオリファルコンの
美人秘書とも知り合いだ。
昨日、立花に小林のメイクを
頼まれた時には
陰気キャラの小林を
私のメイクテクニックで
美人にしてあげる
そんな遊び半分の
気持ちだった。
だがメイクをしていくと
小林の美しさが際立ってきた。
決定的なのは
昨夜、小林と
買い物に行った際の
ナンパのされ方だった。
そして朝の通勤タイムで
ナンパされるなんて
聞いた事がない。
そんな美人になった小林の
指導担当者が立花では
間違いが起きてしまう。
会社内でもメガネを
かけさせないと
立花が小林を好きに
なるかもしれない
そう蝶野が思ったのも
ムリはない。
そんな話をしている間も
小林の電話は
鳴りっぱなしだ。
立花と蝶野が顔を見合わせる。
小林は泣き顔で、
『どうしよう』と震えていた。
『かかってきた電話を
全部、着信拒否登録しなよ』
蝶野が冷静に指示を出す。
電話帳には家族以外は
登録していない小林は
電話が切れる度に
名前が出ない番号の
着信履歴を片っ端から
着信拒否登録をした。
『これで、懲りただろ?』
蝶野に、そう言われた小林は
『もう誰にも電話番号を
教えません』と答え
反省している。
『仕事に戻るか?』
立花に促された小林と蝶野は
オフィスに戻って
通常業務に戻った。
平和が戻って来た
立花も小林も、そう思い
昨日、延期をしてしまった
取引先に出かける準備をして
外出をする。
だが平和ではない現象が
起きてしまっていた。
小林を待っているナンパ男が
会社の前で待っていたのだ。
何故、会社を知っている?
驚いている立花が小林に
『お前、まさか?』と
聞くと
『すいません、
名刺も渡していました』と
白状をしている。
人に話しかけられて
嬉しかった小林は
ナンパ男達に自分の名刺も
配っていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます