第3話本物の女神様
プロフィール欄に書いてあった通りの
身長157cmの華奢な女の子が
小走りで改札口を出てきた。
『遅れて申し訳ありません』
彼の前まで走って来ると
深く頭を下げて詫びる。
『全然、大丈夫です、
頭を上げて下さい』
恐縮した彼が謝罪ポ-ズを
止めるように促すと
おじぎをしていた彼女が
顔を上げる。
野球キャップを深く被って
長い髪をポニーテ-ルに結んだ
出立ちに、カラフルな大きめなマスク
顔の隙間からはキラキラした
吸い込まれそうな瞳が
コチラを見つめて
『初めまして絵色です』と
挨拶をした後
また深々とおじぎをしてくる。
その一連の行動をタクシー待ちの
客が不思議そうに見ている。
その視線に気付いた彼が
彼女の腕を掴んで、
場所を変えるように促す。
『ビ-ナスさん、もうやめて』
『周りの人が見ているから』と
言うと
ハッと我に返った表情になり
『すいません』と再び謝ってきた。
キリがないと悟った彼が
『こっちだから』と
誘導するように歩き出す。
その後ろに遅れまいと
彼女が小走りで追いかける。
『場所、分からなかった?』
その場を繋ぐように彼が聞くと
『階段降りたら、違う改札の前で』
『正面改札口を探していたら、
時間がかかちゃって』
そう彼女が説明をしているが
彼は上の空だった。
絵色女神だ
本物だ
やっぱり可愛いじゃんか
頭の中で天使がラッパを
吹きながら回転している。
冷静を装っているが
心臓はバクバクだ。
『GODさんで
宜しいんですよね?』
歩きながら彼女が
聞いてきた事で我に返り
『初めましてGODこと立花です』と
歩みを止めて自己紹介をした。
その直立不動で緊張した挨拶に
『立花さん、初めまして』と
彼女が満面の笑みで返してくる。
笑われたのか?
とにかく自分のアパートへ
ご案内をしないと、
他の人に見られても
彼女が困るだろう。
そう思い
『ここから10分くらい歩くけど
大丈夫かな?』と
声を上擦らせて聞くと
『大丈夫です、お願いします』と
再び満面の笑みで返してきた。
10分はウソになる、
実際は15分である。
女の子と並んで歩くのは
10年ぶりに近い彼は、
何を話して良いのか分からず、
無口になってしまう。
その状況を察したのか?
彼女が
『本当にGODさんが
普通の人で良かったです』と
話しかけてきてくれた。
『普通じゃないって、
どんな感じ?』
普通の定義がわからない
彼が聞くと
『オラオラ系や
チャラ男系とかの人が』
『私の周りに居なかったから
苦手でした』と
困ったように説明してくる。
『普段は会社勤めの
サラリーマンです』
『会ってみて
ガッカリしたんじゃない?』
言われて傷つくより
自分から自虐的に説明すると
『全然全然、そんな事ないです』と
右手を大きく振って否定した。
その表情を見た彼も
少し安心したようで
『俺はエクシブハンターで、
何処までレクチャーすれば
宜しいんでしょうか?』と
本題を切り出す。
『そうでした』と
彼女も家庭訪問の本題を
思い出して歩きながら
説明をしてきた。
明日の収録の時に彼女のスマホを
画面に映して、プレイしている状態を
出演者全員で観る
権太坂36で他にも
エクシブハンターをプレイしている
メンバーがいるようで、
その人とレベルを比較した後に
バトルをする。
ビ-ナスと、そのメンバーで
2コ-ナ-分を待たせなきゃいけない。
今まではひな壇の最上段で
笑っている顔をチラッと
1秒ほど撮影されて
その日の出演が
終わっていた時とは大違いで
初めて自分がみんなに
注目される大チャンス
だが注目はされたものの、
自分のレベルの低さで番組が
成り立たなかった時の恐怖
グループ内での自分の評判は
ガタ落ちで、番組も
降板させられるかもしれない。
『全部私がウソを
ついちゃったから、いけないんです』
そう説明するビ-ナスを見て
その状況に追い込まれたら、
確かにメッセージで
『助けて』になるな、と
彼も納得した。
多少強引だったが、
エクシブハンターでは伝説級の
上位者に教えを請えば
明日の収録も乗り切れるし、
あわよくば自分の人気が上がる。
彼女じゃなくても、そうしただろう。
『でも一つ想定外の事があったな』と
彼が歩みを遅めて呟くと、
彼女もそれに合わせて歩みを遅め
『想定外って何ですか?』と
質問をしてきた。
『スマホを公開してレベルを
見せる程度だと思っていたから』
『対戦までするとは
思わなかったんだ』
真剣な顔つきになった立花を
見て彼女も心配になり
『それだと、
どうマズいんですか?』と質問する。
『俺が操作をしてビ-ナスさんの
レベルを10くらいまで上げて』
『後は基本操作を教えれば
大丈夫だと思っていたけど』
『対戦だと相手が、
どのくらいのレベルか
分からないでしょう?』
『レベルだけ上がっているのに
反応が遅い人だと
戦っている内に、
慣れているか?
慣れていないか?』
『すぐにバレちゃうと思うんだよ』
そう説明すると彼女が、
不安そうな顔になる。
そう説明している立花には、
もう一つの不安があった。
絵色女神は顔は可愛いが
ゲ-ムセンスが無いのでは?
という疑念が頭の中で渦を巻いている。
地元の友達に教わって
レベル3はヤバい感じでは?
頭の片隅にあった
疑いが今や全面にある。
世の中には、いくら教えても
理解するのが遅い人も中にはいる。
だったら自分が操作をして、
ある程度レベルを上げた方が
早いと思っていた。
しかし、それでは結果ビ-ナスが
スタジオで恥をかいてしまうだろう。
『収録は明日で時間はもう少ない』
『急いで俺のアパートに
行って特訓しよう?』
そう立花に言われた彼女は
不安げな表情のまま小さく頷く。
『何、まだ不安?』
立花にそう聞かれた彼女が
『単純にGODさんに教えて
貰えれば、全部解決すると
思い込んでいました』
『でも明日の収録に
GODさんは居ないし、
結局は私が上手くならないと
ダメなんですよね』と
本筋に気付いた事を言った。
『そうだよ』
『でも、だからこそ
ビ-ナスさんは俺を頼って、
ここまで来たんでしょ?』
『GOD様にお任せあれ』
そう言って自分の胸を
叩く立花の姿を見て
彼女にも笑顔が戻り
『師匠、お願いします』と
頼んできた。
その輝く瞳に見惚れていた彼も
『特訓は厳しいぞ、
しっかり付いてこいよ』と、
師匠と弟子の関係に乗ってくる。
会社の仲間には見せない表情を
ビ-ナスには見せている事に
彼は気付いていない。
そんな掛け合いで、
じゃれ合いながら
歩いてきたので徒歩10分で着く
アパートには20分以上
かかって到着した。
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