第4話女神様がお泊まり 1
募集時に書いてあった不動産屋の
広告では自由が丘駅、徒歩12分、
ワンルーム、トイレ.
風呂あり家賃6万円
2階建て外階段、
築30年のアパートの1階角部屋
そこがGODこと立花 隆の根城だ。
女の子を自分の部屋に招く事など
微塵も予想せずに賃貸契約をした
ボロアパート
オ-トロックやパ-フェクト
セキュリティなんて言葉が
全く関係ない部屋にアイドルが来た。
男の1人暮らしのアパートといえば
部屋が汚れきっていて
女の子を呼ぶ際には
『ちょっと待ってて、
少し片付けるから』なんて言って
女の子を部屋の前で待たすものだが、
彼は何の躊躇もなく
鍵を取り出し鍵穴にさした。
『どうぞ』
そう言って招き入れた部屋は
ベッドとテレビとコタツしかない
殺風景な部屋だった。
知らない人が見たら、
『引っ越しを
したばかりですか?』とか
『爆弾でも作っている
アジトですか?』と
聞きたくなる
全く生活感の無い部屋である。
6畳間にシングルベッドがあり
部屋の4分の1を占拠しており、
テレビは床に直置き
タンスや机類は無く、
捕虜収容所のように
寂しい部屋で
部屋に入れて貰って、
礼を言わなきゃと
思っているが
何と表現して良いか
困ったビ-ナスも
『最近、引っ越しを
されたんですか?』と
質問するしかない
『何で?』
『もう4年住んでいるよ』と
答えた彼に
『そうですか』と
答えるのが精一杯であった。
玄関で靴を脱いで、
先に家に上がっていく
彼に対して
彼女は玄関先で
立ち止まっている。
キッチン前と廊下を
兼ねている前を通って、
ベッドがあるフロ-リング
6畳間部分に彼が来ても
ビ-ナスが上がろうとしないので
『どうか、した?』と彼が聞くと
『すいません、おトイレを
借りても宜しいでしょうか?』と
彼女が恥ずかしそうに聞いてきた。
ネットカフェでは他人の目が
気になり、極力トイレに
行くのも我慢していて
急遽、このアパートに
来る事になった彼女は
トイレに行くタイミングを
失っていた。
『どうぞ、そこの右側だから』
そうトイレの場所を説明した彼は
ベッドに腰を下ろして
スマホを取り出している。
『ありがとうございます』
そう言うと
トイレと言われた場所に
ビ-ナスは駆け込むように入った。
安いアパートなので
ユニットバスの中にトイレと
洗面台と浴槽があるタイプで
かなり窮屈な空間であるが
初めて見る風呂一体型の
トイレに彼女は
ビックリしている。
それと同時に水回りも
必要最低限の物しかない空間を
キョロキョロしていた。
浴槽を仕切るような
防水カ-テンを見た時に、
『シャワーを
浴びる為なんだろうな』と
彼女が呟いた時に
ハッと彼女は気付いた。
『どうしよう』
『2日間も、
お風呂入ってないから』
『アタシ絶対クサイ』
この後、GODの隣りで
エクシブハンターの
レクチャーを受ける
どうしても至近距離に
なった時に
『こいつクサイな』
そう思われたら
恥ずかしくて生きていけない
アイドルとしても当然だが
17才の女の子としては
耐えられないレッテルである。
だが、トイレを貸して欲しいと
頼むのも相当勇気が必要だった。
それが今度は風呂だ。
今日初めて会ったばかりの
初対面の男性に
『風呂を貸して欲しい』
ハ-ドルはかなり高い
悩みに悩んだ結果
トイレから出てきた彼女は
覚悟を決めて
『GODさん、
非常に申し訳ないのですが』
『お風呂も
借りて良いですか?』と
恥ずかしそうに聞いてきた。
『風呂?』
ビックリして1オクタ-ブ
高い声になった彼が聞き返すと
『スト-カ-さんが
家に来たから』
『2日間、家に帰れていなくて』
『お風呂も入れていないんです』
そう言われて、
今までの経緯を思い出した彼が
『狭くて悪いけど、
良かったら使って』
『着替えやタオルはある?』
そう気遣い、
彼女に風呂の使い方を説明する。
『タオルだけ
借りて良いですか?』と
彼女が聞いてきたので
押し入れに
バスタオルを取りに行った。
『本当に申し訳ありません』
そう言って旅行カバンを
ユニットバスに
持ち込もうとする
彼女に気付き
『たぶんカバンは
濡れちゃうから、
外に置いておいて』
『着替えはココで
しちゃって』と
台所兼廊下を指差して
『終わるまで、
俺は外で待っているよ』と
説明をする。
『本当に申し訳ありません』と
深々と頭を下げて謝る彼女に
『外でタバコを
吸って待っているから、
ゆっくり入っててよ』
『終わったら、呼びに来て』
そう言って靴を履いて
外へ出て行く。
外に出た立花が
電子タバコに電源を入れる。
そしてポケットから
スマホを取り出し
『絵色 女神』と入力して
彼女の画像を検索し始めた。
大量の画像が出て来て、
その1枚1枚を見た後
『やっぱり可愛い』
そう言って顔を
クシャクシャにして喜びを
爆発させている。
風呂を貸して欲しいと
言われた瞬間、
大きく勘違いを
してしまったが
このスマホの画面で
微笑む美少女が、
ボロアパートの扉の向こうで
風呂に入る準備をしている。
そのシチュエーションだけで
ご飯を3杯はいけるだろう。
扉を開けたら人生が終わる
でも終わっても良いんじゃないか?
全てが見れたら
心の中で天使と悪魔が戦っている。
女の子が1人暮らしの男の
アパートに来ているんだぜ?
その時点でALL OKだろ?
たまたま、扉を開けた時に
ビ-ナスが着替えていて
裸を見てしまっても
事故だろう。
ここは俺のアパートだぞ
急にアパートの中に
戻りたくなる事もあるだろう。
そこに正義の心である
天使が現れて
彼女は女神様だよ
手の届かない神聖な
人じゃないか?
彼女は君を信用して、
お風呂を
借りているんじゃないか?
そんな彼女を裏切るのか?
そこに再び悪魔が再び現れて
こんなチャンスは一生に、
もう無いぞと囁き
彼を苦しめている。
タバコは全く吸っておらず、
天使と悪魔に翻弄されて、
どのくらいの時間が
経っただろう
『お待たせしました』
風呂を終えた
ビ-ナスが彼を呼びに来た。
『早かったね』
幸せな妄想で絶頂を
迎えそうになっていて
時間経過がバグっているが
20分も待っていた。
20分は全然早くない。
声をかけられて現実世界に
無理矢理引き戻されて
最初は気付かなっかったが
洗いたての髪に
少し大きなTシャツに
ホットパンツで生足
完全にOFF状態な
普段着モ-ドが可愛いくて
ダメとは頭では
分かっていたが足元から
頭のてっぺんまでを
舐め回すように
見上げてしまった。
彼女も、その視線に気付き
『変ですか?』と、
うつむき気味に聞いてくる。
『少しも変じゃないよ』
慌てて否定をする彼を見て、
少し安心した彼女も
『良かった』と
小さく答える。
私服でいるだけで
100点のビ-ナス様が、
薄着では魅力度が
200%アップとなり
目のやり場に困った彼が
展開を変えるように
『じゃあ、家の中で
始めようか?』と
本来の目的である
エクシブハンターの
レクチャーを促す。
『はい』
彼女が扉を開けたまま、
彼を家の中に迎え入れた。
彼女の彼氏になったら、
こんな風に毎回
迎え入れて貰えるのかな?と
妄想がまた発展したが
いかん、いかん
彼女はレクチャーを
受けに来ただけで、
明日には他人だ
そう自分に言い聞かせて、
ベッドの前にある
コタツの前に座った。
その姿を見ていた彼女も
『失礼します』と
立花の席の横に
ちょこんと座る。
『じゃあ、早速始めようか?』
『ビ-ナスさんのスマホを出して』
そう彼が言った後に
その言葉に返事をするように
『グ〜』っと、
お腹がへった時の音が
静かなアパートの中で響いた。
ビ-ナスの腹の音だ。
下を向いている
ビ-ナスの顔が真っ赤になる。
『聞いていない、
聞いていない』
そう必死に彼がフォローするが、
それはしっかりと
聞こえていた証拠だ。
『うわぁ〜〜ん』
彼女がコタツに顔をつけて
大声を出して
泣き出してしまった。
どうしよう?
女性の扱いに
慣れていない立花が、
泣き出した女性の
フォローなど出来る訳もなく
オロオロと慌て、
ふためくだけだった。
『ビ-ナスさん、大丈夫?』
『ビ-ナスさん、どうしたの?』
顔を伏せて泣きじゃくる少女に
コミニケーション能力ゼロの
男は全くの無力だ。
『絵色さん?』
『とりあえず話しを聞いて』
阿鼻叫喚の、この状況を
何とかしようと
彼女に試みるが、
御乱心はおさまらない。
取り繕うとする事.3分
もはや話しかけるのを
諦めていた彼が意を決して
『女神ちゃん、
お願いだから話を聞いて』
『君はココに何をしに来たの?』
そう尋ねた。
それを聞いた彼女の動きが止まる。
『やっと、チャンスを
掴んだじゃないの?』
『まだエクシブハンターを
教えてないよ』
そう言われた彼女が
顔を上げて、
泣き腫らし瞳で彼を見つめる。
『明日の収録で
ヒ-ローになろうよ?』
彼女の目を見つめて立花が囁く
その言葉で彼女が復活して
『取り乱して、
すいませんでした』
『ここ数日、
うまくいかない事が続いていて』
『GODさんの前で、
お腹が鳴っちゃって』
『本当にダメな事ばかり続いて』
『もうダメかもって
思っちゃって』
『その瞬間に、涙が
止まらなくなっちゃって』
17才の彼女にとって、
ツラい酷な事が続いた事で
感情が決壊しての
大号泣だった。
『女神ちゃん、
考えてみてよ?』
『なかなか
見つけられなかった俺と
コンタクトが取れて、
今からマンツーマンで
特訓なんだよ』
『本当に運が悪かったら、
会えなくて
終わったんじゃない?』
そう言われた時に
彼女の表情が
ハッとした顔に変わる。
『お腹が鳴ったのも
スタジオじゃなくて
良かったじゃない』
『ここなら俺しか
聞いていないし』
『俺はクチが固いから
誰にも言わないよ』
そう言われて彼女が
『もう~』と言って微笑む。
『俺と出会って
色々な事がプラスに
動き始めたんだよ』
そんな歯が
浮くような言葉は
泣き止ます事だけを
優先した彼のセリフだが
精神的に弱っていた彼女には
吊り橋効果のように深く刺さった。
表情がさっきまでと
別人になった彼女に
『晩御飯はまだかな?』と
聞くと
少し照れたように彼女が頷く
『ちょっと待っていて』
そう言ってキッチンに
歩いていき引き出しを開けて
『ペヤングソ-ス焼きソバか?』
『一平ちゃんの
塩だれ味ならあるけど?』
そう言いながら2つの
カップ焼きそばを
彼女に見せるように
差し出して確認すると
チラッと見て
『一平ちゃんで』と
小さな声でリクエストをする。
お湯をポットにセットして、
カップ焼きそばの
パッケージを破き
手早く準備をする。
正座をして
下を向いている彼女に
『ごめんね、俺は
料理をしないから
冷蔵庫も空っぽなんだ』と
笑いながら話すと
彼女も部屋に入った時には
気になっていたようで
『ご飯とかは、
どうしているんですか?』と
質問すると
『コンビニと、ホカホカ弁当』
『とりあえず腹が
満腹になれば満足だから』
そう言いながら
沸騰した湯を
カップ焼きそばに流しこんだ。
『栄養とか
大丈夫なんですか?』と言った後に
彼女の頭の中に
グッドアイデアが閃いた。
『アタシGODさんに
お礼って何が出来るか?』
『ず-っと、
考えていたんです』
『アタシGODさんに
ご飯を作りに来ます』
『実家にいた時は、
アタシがご飯を
作っていたんです』
彼女のその提案に
『お礼なんて、いいよ』
『第一、炊飯器が無いからね』
『まずは茶碗と
コップを買わないと』と言って
俺の家で自炊なんて
ムリだよ的に笑い飛ばした。
実際、彼のキッチンは
綺麗だった。
使った形跡すらない。
『ならアタシが炊飯器を
プレゼントします』と
彼女が食い下がる。
『すぐにはムリだけど』と
立花に聞こえるか?
聞こえないか?の
ひとり言レベルで囁く。
『お礼なんて
期待してなかったから』
『気にしなくていいよ』
そう言いながら
完成したカップ焼きそばを
持って来た。
『出来上がりましたよ』
そう言って彼女に割り箸と
ペットボトル麦茶を
彼女に差し出すと
『本当に何から何まで
申し訳ありません』と
再び頭を深く下げる。
『腹ごしらえが終わったら、
特訓開始だよ』
そう言った彼の言葉に
焼きそばを美味しそうに
食べながら彼女が
微笑んでいたが
この時に終電が
終わっていた事に
2人は気付いていなかった。
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