第5話女神様がお泊まり 2

カップ焼きそばを食べ終えた後、

本題であるエクシブハンターの

レクチャーが始まった。


うさぎの耳が大きく飛び出した

スマホカバーをビ-ナスが

出してゲ-ムを起動させる。


彼女が操作しているのを

彼が横から覗き込む姿で

メインメニューの画面となった。


女の子のアバタ-が

森の入り口に立っているが、

服装は薄っぺらい

白いワンピースだ。


課金をしたり経験値が上がると

華やかな服になったり

装飾品を付ける事も可能だが


最近始めたばかりの彼女は

初期モ-ドなので

靴すら履いていない


『森の入り口から中に入って』

彼の指示に従い

彼女のアバタ-は進んでいく。


『これキライ』

彼女がそう言った理由は

彼女のアバタ-の前に、

オ-クが立ち塞がったからだ。


『いつも、この人に

負けちゃうんです』

そう言ってアバタ-を

オ-クから逃がした。


『ちょっと待って』

『横の木を何回か叩いて』

逃げようとしていたのを止めて、

少し大きな木を叩くように指導した。


『こうですか?』

そう言って彼女が大きな木を

叩くと、

木から棍棒が落ちてきた。


『バットですか?』

そんな可愛い質問をして来た彼女に


『こんぼうだよ』と

優しく伝えて


『この棍棒が初期モ-ドの

武器だから、拾って』と

彼女に教える。


『わかりました』

そう言った彼女は棍棒を拾い、

さっきのオ-クに

会った場所に戻る。


そしてオ-クに再会すると、

横にいる立花をチラッと見て

指示を仰いできた。


『この距離で、

オ-クの頭の上で画面を

指先で押さえながら円を描いて』


彼の指示通りにすると

オ-クが棍棒で叩かれて

撃退された。


『ヤッタ〜』

彼女が大喜びをしている横で


『これが基本の

攻撃パターンだよ』と

操作方法を教えていく。


『オ-クだと

一回叩けば倒せるけど』


『人間相手だと

5回叩かないと倒せない』


『対戦の時も、

棍棒で叩いたり、

新しくゲットした

アイテムで倒す』


基本的な操作方法を

色々と教えていくと、

真綿が水を吸い込むように

どんどん技術を吸収していく。


『オ-クやゴ-レムが

倒れている隙に、

パズルゲ-ムをクリアして』


彼の教え方が上手いのか?

彼女の飲み込みが早いのか?


そうこうしているうちに

レベル30まで

レベルアップしている。


最初はゲ-ム音痴だと

思い込んでいた彼だが


才能があるのでは?と

思い始めてきた。


最初に指導を

頼まれていた時のレベルは

既に達していたが


真剣に覚えようと

している彼女の姿勢に

感銘を感じて


『女神ちゃん、

必殺技も覚えちゃう?』と

更なる技の伝授を提案すると


『何ですか?必殺技って?』と

興味津々で尋ねてきた。


『いったん森の入り口まで

戻って?』

次の操作方法を彼が伝えるが


『ここまで来たのに、

戻っちゃうんですか?』と

少し不安そうに尋ねるが

彼に言われた通りに従う。


『その途中の大きな岩』

『刀で叩いてみて?』


言われた通りにすると

岩に穴が開いてワ-プが出来て、

森の入り口に出られた。


『すごい、すごい』

そう言って喜ぶ彼女に


『今度は森の入り口の

看板を叩いて』

そう言われ、アバタ-が従うと


キラキラと輝く星が、

現れてビ-ナスのアバタ-を

包み込んだ。


すると、先ほどのワ-プ前の

ステ-ジに戻ってきた。


『ここでパズルゲ-ムをしてみて?』

そう次の指示をして彼女が従うと


『すごいアイテムが、

どんどん落ちてくる』と

彼女が大喜びをする。


『確変に入ったみたいに

無双モ-ドになるんだよ』と

彼が説明するが


『かくへん?』と

パチンコを知らない彼女には

耳馴染みの無い言葉だったが

立花は解説を続けていた。


敵が負けると装備品や

アイテムを落としていく。


それを道具屋で売ったりして

換金していき

彼女の身なりも、

かなり良くなってきて


赤と黄色の戦闘服に

防具で身体を守りつつ、

青銅製の刀と鉄の盾を装備して

いっぱしの冒険者に成っていた。


レベルも42まで上がり

『半年くらい

プレイしている人と変わらないよ』


『明日の収録で恥は、

かかないんじゃない?』と

彼のお墨付きを貰い


『嬉しい』と

笑顔で喜びを爆発させている。


そろそろ終了しても良い頃だろ?


『レクチャーしようと

思っていたレベルより、

2倍くらい上達したから』


『そろそろ終わりにしようか?』


そう彼が提案したが、

彼女はスマホを持って

下を向いたまま答えてこない。



『女神ちゃん?』

立花の問いかけに

彼女は蚊が囁くような小さな声で

『はい』と答える。


様子がおかしいと思った

彼が彼女の顔を覗き込むと、

クルッと彼に顔を向けて


『GODさん.今晩ココに

泊めて貰えないですか?』と

意を決して懇願してきたのである。


『と、と、泊まる?』

予想だにしていなかった

彼女の発言に動揺を隠せない彼が


『泊まるのはマズいだろ』と

言った後に


『レクチャーが終わった後に

マネージャーさんを

呼ぶものかと思っていた』と


彼が予測していた

今後の展開を伝えると


『そんな事したら、アタシは

クビになっちゃいます』と

慌てて説明する。


『ウチのグループ、

男女交際は厳禁なんです』


『それが男の人のアパートに

迎えに来て貰うなんて

絶対にダメです』


『それに、こんな真夜中だし』

スマホの時計は

深夜2時30分を回っている。


立花は

俺も明日は仕事なんだが、と

クチに出せない思いを飲み込む。


『それなら知らない男の家に

泊まるなんて、

絶対に御法度じゃないか』

そう彼が言うと


『立花さんは、

もう知らない人じゃありません』


『私のわがままに

付き合ってくださって』


『ここまで、

良くして頂いた人は

私の人生では、

いませんでした』


『本当に信頼できる人だと

思ったからお願いしています』


うるんだ瞳の美少女に、

ココまで言われている。


だが彼女と一部屋で

朝まで2人きり、

ベッドは一つの状況で


僕は狼になりません、

なんて絶対に誓えない。


ここは心を鬼にして言わねば


『スト-カ-も

今日は来てないんじゃない?』

そんな根拠のない提案をすると


『家のドアにビ-ナスちゃんの

家を見つけた、って

張り紙があったんです』


『もう怖くて家に帰れません』


そりゃあ怖くて帰れないな。


だが彼女の貞操の

危機じゃないか?


そう考え直して

『ビジネスホテルに泊まったら?』と

新たな提案をすると


彼女は何も答えず

黙ったままとなった。


追い出していると思われたかな?


心配になった彼が

何も答えない彼女に

『女神ちゃん、大丈夫?』と聞くと


『すいません、ホテルに

泊まるお金が無いんです』


『廊下の端っこでも良いです』

『朝まで置いて貰うのも

ダメですか?』と

訴えてきた。


お金がない?


アイドルから出た予想外の言葉に


『サイフを自宅に

置いてきちゃったの?』と

彼が質問すると


『サイフはありますけど、

ネットカフェ代と電車代で

無くなっちゃって』と

実情を話し始めた。


彼女は権太坂の

メンバーであるが

見習い扱いなので

月15万円の給料制だった。


住んでいるマンションは

事務所が借りてくれているので

家賃はかからない。


だったら手元に

だいぶ残りそうだが、

彼女は実家に

月10万円を仕送りしていた。


5人兄弟の長女である彼女は

家族を楽にしたくて

芸能人になった。


両親は健在だが

裕福ではない生活、


芸能人になれば年収は

数千万と素人はイメージを

してしまいがちだが、

全員がそうではない。


少ない給料で

仕送りをしているので

自分は、いつもギリギリな生活


そこにスト-カ-が登場して

予想外の出費の連続だった。


今日もテレビ局の昼に

出された弁当を食べた後は

何もクチにしていなかった。


カップ焼きそばを

食べるまでの12時間、

育ち盛りの17才が

ご飯抜きだったのである。


すべてを吐露した彼女は

スッキリしたようで


『こんな、みすぼらしい

アイドルなんていませんよね?』


『図々しい

お願いばかりして、

すいませんでした』


『歩いて事務所のある中野まで

行きますね』


すべてを諦めたような彼女の

表情を見た立花は


『ウチで良かったら泊まって』と

彼女に逆にお願いをしていた。


『でも迷惑なんじゃ、

ありませんか?』


今までの彼の態度から

180度の方向転換に、

戸惑いを見せた彼女が聞くと


『女神ちゃんエラいよ』

『その年で仕送りなんて』


『俺がもっと早く気づいて

あげれたら良かったのに、

ごめんね』と謝りだした。


その姿を見た彼女が逆に恐縮して

『謝るなんて、やめて下さい』


『私が最初に

全部言わなかったのが、

いけないんです』と

彼女も謝りだした。


『中野まで歩くなんてダメだよ』

『夜中に1人で

歩いているなんて危険だ』


独身男の1人暮しアパートに

泊まるのと同じリスクを

否定して

彼女はボロアパートに泊まる事が

決定した。


何度も頭を下げてお礼を言う

彼女は嬉々としている。


だが、現実として6畳間に

シングル用のベッドが

一つあるだけで


客用の布団なんて無いし、

座布団すら部屋には存在しない。


ビ-ナスは床で良いと

言っていたが

アイドルを床で

ザコ寝させる訳にはいかない。


『女神ちゃんはベッドで寝て』

『俺は下で寝るから』


ゲ-ムを終了して

寝る準備を始めた彼が、

そう提案すると


『そんなのダメです』

『GODさんが

ベッドで寝てください』


『アタシは床で大丈夫です』と

提案してきた。


『お客さんを床に

寝かすなんて出来ないし』


『床で寝てアザが出来たら、

明日の収録でマズいでしょ?』

そう言った彼の言葉に

彼女も黙るしかなかった。


実際、ゲ-ムをしていた時も

フロ-リングの床に直座りでいて


痛みで何度もポジションを

動かしていたのを

思い出していたのだ。


少し悩んでいた彼女が

閃いたような明るい表情に変わり

『いいアイデアが浮かびました』


『ベッドを半分こで、

寝ましょう?』と

とんでもない提案を

してきたのである。


『半分こ?』

驚いた彼が聞き返すと


『GODさんも細身だし、

アタシも小さいから』


『横向きなら寝れますよ』と

嬉しそうに

発表してきたのであった。


唖然としている立花に

『私、実家にいた時は

弟たちと3人で一つの布団で

寝ていたから慣れてます』と

言ってきたが


弟たちはヒゲが

生えていないだろう。


寝返りをうったら、

そのまま覆い被さってしまうのでは?


横でゲ-ムをしている時でさえ、

衝動を抑えるのが苦しかったので


何度も

『俺は床に寝る』と

彼が言い張ったのだが


結局は彼女に押し切られて、

狭いベッドに2人で

寝る事となったのであった。






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