第28話権太坂36のセンタ-
有給休暇の申請を藤波係長に
提出した立花は仕事を
順調にこなしていたが
棚橋は蝶野正子に呼び出されて
応接室にいた。
蝶野正子は3ケ月ほど前に
1年付き合っていた彼氏に
振られている。
蝶野は、かなり気に入っており、
あと数年経ったら
結婚も視野に入れていたのだが
別に好きな人が出来たと
言われて、
一方的に振られてしまっていた。
何とか関係修復を目指したが、
男にその気はなく
やがて全く相手にされなくなり
最終的にはブロックされて
関係が終わっている。
彼女は女性も社会進出すべきで、
子供を産んだ後には
ダブルインカムで生活する
青写真を描いていたが
彼氏は妻として母として
家庭を守って欲しかった。
そこで大きく意見が食い違い、
付き合っている時から、
いつも衝突をしており
仕事の為に
デ-トの約束を飛ばす
蝶野を避けていったことを
蝶野本人は気付いていない。
学生時代の合コンでも
1番人気、得意先の
男性からも声をかけられて
自分に振り向かない
男性は居ないとすら
思っている彼女は
自分から追いかける事には
慣れていなかったが
自分を振った男が
悔しがるようなイイ女となり、
周りの女子が
羨ましがるような男と結婚する。
それを心の支えとして
次の男を探していた。
すると、自分の身近に
見た目はそれほど悪くない、
国家資格を多く保有しており
将来は有望
同じ会社なので
自分の仕事への理解も
あるだろうから、
出産後に仕事復帰を
後押ししてくれるだろう、
と思う男がいた。
何より取引先でピンチに
陥っていた自分を
助けてくれた
男らしさは高得点だ。
今まで接点が
全く無かったので
何が好きなのか?
何が趣味なのか?
そんな情報が無いので
作成の立てようが無い。
少しでも情報収集しようと
ツイッターやインスタグラム
名前で『立花 隆』と
ググってみたが、
ありきたりの名前な為
同姓同名の別人の情報ばかり
羅列されて、
本命の立花に辿りつかない。
目的の男の趣味が
バ-べキュ-だと分かれば
牛角あたりで、
ちょっとでも
ゴミが付いていたら
文句を言う彼女も
砂埃にまみれた肉を
外で焼くバ-べキュ-の時には
『自然の中だと美味しさが
アップするね』と
変身出来るタイプの
女だった。
自分を可愛く見せる為に、
男の趣味に興味を
持っている女子を演じて
『詳しくないから、おしえて?』と
甘えて、男をトリコにしてきた
今までの作戦が
今回は全く組めない。
自慢するつもりで
LINEで情報を公開したら、
後輩の武藤慶子までも、
チョッカイを出し始めた。
あんな年下に女の魅力では
負けはしない。
だが使えるモノは全部使う
『そこで棚橋さん、
立花さんの事を
詳しく教えてください』と
応接室で向かい合って
座りながら、
スカ-トの奥を見たり
大きく開いた胸元を
遠慮なく見ている
スケベな男に頼んでいたのだ。
いつも私の事を
ギラギラした目で、
舐め回すように見ている、
この男なら
今日のセクシース-ツ姿で、
ちょっと頼めば
ホイホイ着いてくると
思ったが、案の定だった。
『立花さんと明日、
ご飯に行くんですけど』
『何の会話したら、
盛り上がるか?』
『仲の良い棚橋さんに
聞きたかったんです』
そう甘えた声で聞いてみたが
『アイツの私生活って
知らないんだ』と
拍子抜けする回答が
返ってくる。
『意地悪しないで、
教えてくださいよ』
『立花さんと上手くいったら』
『合コンを
セッティングしますから』
そう、エサをぶら下げたが
『本当に知らないんだよ』と、
親友だから
知っていると思った
蝶野の期待を裏切る答えが
返ってくるだけだった。
『いつも仲良くオフィスで
喋っているじゃないですか?』
そう棚橋に聞くが
『俺が、立花に話して
貰っているだけなんだよ』と、
何も情報を引き出せない。
コイツ、何を考えていやがる?
エサが足りないか?
なら違う角度で聞くか?
『なら棚橋さんが、
先週に話していた
ナンシ-って言う外国人は
何処で知り合ったんですか?』
そう質問すると
『あれは俺が勝手に
デッチ上げた作り話だよ』
『立花が、外国人と
付き合ったら面白いと思って
冗談で話しをしていたら』
『いつのまにか
広まっちゃっただけだよ』と
ナンシ-事件を説明する。
マジか?
使えね-奴
『少しは協力してくださいよ』
怒りを殺して
質問を続ける蝶野に
『アイツ、
自分の事を話さないから』
『本当にプライベートを
知らないんだよ』と
クチを割らなかった。
『そうですか、分かりました』
そう言って怒った蝶野は
応接室から出て行く。
棚橋は絵色女神の写真を
見ていたが、その事を
誰にも言うつもりはない。
ここ最近の立花の
良い意味での変化は
彼女が理由だと
棚橋も分かっている。
昔までの誰とも
関わらない立花も
嫌いではなかったが、
今の明るくなった
立花の方が好きだった。
立花の私生活を
詳しく知らないのは事実だが、
知っている情報も蝶野に
言うつもりはなかった。
立花には蝶野の
セクシーな部分に
興味あるように
振る舞っていたが
身近な人間が彼女と
付き合う事を
心よく思っていなかった。
男の本能で、結婚して
一生を連れ添う相手には
向いていないと
分かっていたからだ。
見た目に惹かれて
一晩付き合うのには良いが、
すぐに飽きられて
男が去っていくタイプの
女性がいるが
彼女は、そのタイプだろう。
『俺も戻って仕事をしよう』
そう言って
棚橋はオフィスを出た。
自分の知らない所で
棚橋に守られていた事を
立花は知らずに
仕事で忙殺している。
先週までのやり残しや
新規の案件が来ており、
月曜日の朝が
会社員にとって
1番忙しい日だろう。
立花も自分の仕事を
こなすだけで精一杯で、
絵色女神のLINEに
気付いたのは昼食時だった。
そこにはオリファルコン社の
イメージガ-ル就任と
エクシブハンターのCM出演
雑誌の毎号表紙と
看板番組でのコ-ナ-MCの
就任決定が喜び溢れる感じで
報告されていた。
そのLINEを読みながら
『関係者以外には
極秘なんじゃないか?』と
笑いながら独り言を呟く。
猪木会長と話したのが
土曜日の昼過ぎ、
月曜日の朝には契約って事は
広告代理店の担当は
休日返上で
飛び回ったんだろうな。
そんな事を考えていた
立花は絵色女神への返信を
打った後に
オリファルコン社の
猪木会長にお礼のメールを
入れておく。
食堂で昼食を終えた後、
すぐに仕事に戻った為
今週の記者会見で
GOD andビ-ナスを発表します。と
猪木会長からの返信に
立花が気付いたのは
その日の夜だった。
場所は変わって
午後のサニーミュージックの
本社ビルでは
権太坂のメンバーが全員揃って
コンサートのリハーサルを
している。
不動のセンターと
呼ばれていたメンバーが
無期限活動停止を発表したので
残りのメンバーで、
今までの曲の歌うパ-トを
新担当に割り振るのと、
一部振り付けの見直しが
行われていた。
そのリハーサル室に
『山田さん、大変です』と
若いスタッフが
走って飛び込んできた。
『なんだ慌てて』
そう言った
山田プロデュ-サ-の耳元で、
内緒話をするように報告する。
『ウソだろ?』
その話を聞いた
山田プロデュ-サ-は
驚愕しながら
『ウチに、そんな金無いぞ』と
若いスタッフに言うが
『ノ-ギャラでOKだそうです』と
返してきた言葉を
リハーサル中のメンバーも
動きを止めて注目している。
何が起きているの?
そんな不安な顔をしている
メンバーを察して
プロデュ-サ-が
『安心しろ、良い話だ』と伝えた。
若いスタッフに
『コイツらには話しても
大丈夫なんだよな?』と
山田プロデュ-サ-が聞くと
『はい、レ-ベルから
来た話なんで確定案件です』と
答えると
『次の新曲がア-カムの
佐山サトシの作曲で
決定しました』と発表したのだ。
『キャ〜』
『ヤッタ〜』
抱き合って喜ぶメンバーや
泣き出す者、
驚き過ぎて
固まっているメンバー
みんな、曲に
恵まれていなかったと
感じていた
その事は
共通認識であったので
人気バンドのア-カムの
佐山サトシが曲を提供してくれる、
作る曲にハズレ無しと言われる
彼が曲を提供するって事は、
ヒットが約束されたような
モノだった。
みんな優勝したように
喜んでいる中、若いスタッフが
『佐山サトシから
一つ条件がありまして』と
申し訳なさそうに
言ってきたので
『何だ言ってみろ?』と
プロデュ-サ-が言うと
『この曲は絵色女神を
センターに起用する』
『そうしなかった場合は
楽曲提供はナシにする、との
事です』
若いスタッフが、
そう報告した瞬間
メンバー全員の視線が一斉に、
絵色女神に集中したのであった。
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