第95話猪木会長の逆鱗
ホテルの宴会場の近くに
オリファルコン社の関係者用の
控え室が準備されていた。
その部屋に今
猪木会長と広告代理店の
濱口しかいない。
会議室にあるような
折り畳み式の机を挟んで
2人が向かい合っている。
『濱口さんを、お呼びした理由は
分かりますか?』
そう猪木会長に聞かれた濱口は
『いや、何となくしか
分かりませんけど』と
バツの悪そうな顔をしていた。
『坂口に聞いた話の件です』
そう猪木会長が言うと
『坂口さんも、おしゃべりだな』と
おどけているが
会長は全く笑っていない。
『彼が怒って出て行った
詳しい経緯を教えてください』
感情を殺しているのが分かる感じで
淡々と会長が聞くと
『軽く、挨拶をしただけで』
『突然、怒って出て行ったんです』
視線を合わせず会長に
説明する濱口に
『それが全てなんですね?』
『挨拶をしただけで、
彼は怒って出て行ったんですね?』と
やや強い口調で濱口に
確認をした。
ただならぬ会長の迫力に
『副社長が挨拶周りを
しなくてもイイんですか?と
言いました』と
付け加えた。
『それだけですか?』
目を閉じて猪木会長が聞くと
『まぁ、そんなモノです』と
濱口が答える。
『私は、これから彼に会いますから』
『濱口さんが言った事が
全てか?を一語一句
確認してきますので』と
言った時に
マズいと思った濱口が
『女神ちゃんに俺の事を
聞いていませんか?』と
聞きました。
五月雨式に白状する濱口に
イラ立ちを見せ始めた会長は
『アナタは彼の事を
何って呼んでいました?』
そう聞かれて
『後藤さんと呼んでいました』と
ウソの報告をする。
イライラした感じの猪木会長は
指で机をトントン叩きながら
『違う名前で呼んでいたでしょ?』
と半ば呆れ顔で聞くと
『あぁ、立花さんですか?』と
やっと名前を出してきた。
『そもそも、何故アナタは
後藤さんを立花さんと
呼んだのですか?』
そう猪木会長に聞かれた濱口は
『CM撮影の休憩時間に
女神ちゃんが後藤さんじゃなくて』
『立花さんだって、言ってたので
知りました』
そこだけは自信ありげに
答えた濱口だが
『何故、休憩時間に
そんな話になるんですか?』
『到底、彼女から
そんな話をするとは
思えないのですが』と
更に突っ込まれて
言葉につまる濱口で、ある。
『彼に女神さんから
名前を聞いたと言って
彼を怒らせたんじゃ、ないですか?』と
猪木会長が聞くと
また濱口は黙っている。
『しょうがないですね』
『会う前に、直接彼に電話をして
確認してみましょう?』
そう言って猪木会長が
スマホを出した時に
『わかりました』
『喋りますよ』と
声を荒らげて濱口が喋り始める。
『立花さんに、俺と女神ちゃんが
キスした事を聞いたか?って
言ったんです』
『そうしたら、
怒って出て行きました』
そう言われた猪木会長は
驚いて黙っている。
『女神さんがアナタとキス?』
『2人は付き合っているんですか?』
ビックリした表情の猪木会長に
『まぁ、成り行きで
しただけで』
『付き合ってはいません』
『むしろ、嫌われているって言うか』
『避けられているって
言った方がいいかもしれません』
そう濱口が言った事で
『何故、避けているアナタと
彼女が成り行きで
キスをするんですか?』と
疑問点を突き付けると
『演出って言うか、
気合いを入れる意味で
サプライズでしただけで』
『悪気があった訳じゃないし
むしろ、その後の撮影は
バッチリだったし』
『結果オーライでした』と
濱口は説明しているが
猪木会長は怒った顔になっていた。
『アナタは女神さんに
サプライズで
無理矢理をキスをして』
『その事を副社長に喋った』
『それを聞いて彼は怒って
帰った、って事ですか?』
猪木会長は言葉を選びながら
そう聞いた。
『ちょっとニュアンスは
違いますけど、まぁそんな感じです』と
彼は悪びれずらに答える。
『それで彼女はアナタを
避けている訳ですね?』
そう猪木会長に聞かれた濱口は
『良いCMを作る為には
必要だったんです』
そう濱口は弁解しているが
猪木会長は何も答えてこない。
沈黙に耐えられなくなった濱口が
『もう、イイですか?』と
退場をしようとしたので
『もう、いても、
いなくても良いですよ』
『これからベンツ-の本社に
電話をしますから』
そう猪木会長が言ったのを聞いて
『ちょっと待ってくださいよ』
『副社長が、ちょっと怒っただけ
じゃないですか!
『それで会社に電話をするなんて、
行き過ぎじゃ、ないですか?』
彼が抗議しているが
猪木会長は一切、耳を貸さずに
『オリファルコンの代表をしている
猪木と申しますが』
『馬場会長に、お繋ぎください、と
喋り出した』
馬場会長に電話?
世界一位の売り上げを誇る
広告代理店ベンツ-のNo.1の人物だ。
『会議?』
『緊急な用事なので、
オリファルコンの猪木が
話したいと
大至急でお願いします』と
会長は言葉を強めにした。
濱口は足が震えている。
自分の身に何が起きるか?
全く予想がつかないからだ。
すると電話口に広告代理店の
会長が出たようで
『会長、困った事になりまして
御社に全責任を取って貰わないと
いけない事態に
なってしまいました』と
猪木会長が、説明を始めた。
『御社にお願いしていた世界大会の
イメージガ-ルの子に』
『御社の社員の濱口さんが
無理矢理キスをして
ショックを受けて
降板すると言い出しています』
そう聞いた濱口は
『そんな、話は出ていない』と
叫んでいる。
すると
『これだけ大々的に告知した
イメージキャラクターが
御社に訴訟を起こしたら』
『CMを依頼した当社にも
責任が及ぶ事になるでしょう』
『特に当社の副社長が
大変怒っていて』
『当社、主催の世界大会を
中止にする、と言ってます』
『ご存知かと思いますが、既に
参加登録者数が2000万組、
4000万人です』
『この方達へのお詫びと、
当社の今回の損失額
更に会社の信用失墜』
『全てを御社に損害賠償として
償って貰います』
猪木会長が言った言葉で
先方が慌てているようだ。
濱口は全身の血の気が引いていく。
会社をクビになるのは確定だろう。
それ以上に恐ろしい事がある。
『軽く見積もって300億円』
『株価が下がったら、その分も
補填は当然して貰います』
『イメージキャラクターを
汚された世界大会なんて
開けませんから当然です』
電話口で先方の会長は
謝っているようだが
『おそらく彼がセクハラを
したのは、この一件だけじゃ
ないと思われます』
『まずは濱口さんが担当したCMに
出演した全ての女性タレントに
セクハラをされていないか?』
『そこも調べた方が良いと思いますよ』
『当然、この事は日本経営者団体にも
報告しますので』
『御社と取引している企業は全て
同じ心配をされますよね?』
『取引先企業や芸能事務所からも
損害賠償は起きるでしょうね?』
『とりあえず当社の件は
詳しい事は弁護士から
再度、連絡を入れますから』
そう言って電話を切った。
濱口は放心状態だった。
女神の件だけなら
何とか誤魔化せると
たかを括っていたが
自分が担当した
CMの女性タレントに
ヒアリングされたら
カラダを交換条件にして
CM出演していた事が
全てがバレてしまう。
『アナタには
副社長の件で
首を突っ込むなと
忠告をしていました』
『それなのに、クビを
突っ込んだだけじゃなく』
『私の大事な家族を傷つけた』
『それ相応の報いを受けて貰います』
『300億円を払う方法を
考えた方が良いと思いますよ』
猪木会長が、そう言った後に
突然濱口は
その場に土下座をして
『本当に何でもします』
『ですから許してください』と
泣きながら頼み込んできた。
その姿を見た猪木会長は
『濱口さん、もう遅いんですよ』
『どうぞ、お帰りください』
そう猪木会長は告げる。
『そうだ濱口さん』
『もし週刊誌とかにアナタが
女神さんの事を漏らしたら』
『アナタが何処に逃げても
探し出しますから』
『絶対にです』
そう言った後に
猪木会長は濱口を置いて
控え室から出て行った。
1人残された濱口の
携帯には会社から
何度も電話が入り続けている。
宴会場に猪木会長が戻ると
ちょうどロ-ソクを
女神が消している時だった。
にこやかな女神の笑顔を
見て、胸を痛めている
猪木会長である。
18才の彼女が受けた心のキズは
計り知れないだろう。
そんな状況を作ってしまった
自分に責任を感じている。
ケ-キタの前で記念撮影をしている
女神は嬉しそうにしており
セクハラまがいな被害を
受けた事など
微塵も感じられない。
本来なら会長が準備した
プレゼントが渡される予定だったが
準備が間に合わないと言う理由で
延期となった。
会長は濱口の事を女神に詫びる
つもりだが
デンツ-側の対応が、確定してから
伝えようとしている。
やがて誕生日会は終了した。
早速、InstagramやTwitterに
女神の誕生日会の写真がアップされる。
それはオリファルコン社から
事前に女神サイドに
世界大会のアピールを兼ねての
お願いであった。
権太坂のメンバーは現地解散と
なったが
女神は残って打ち合わせがあるので
ホテルの控え室に1人で待機となる。
スマホを見ると立花からの
メッセージが入っていた。
『電話出来る時間があったら
連絡をください』
珍しい
『立花さんから電話のお願いなんて』
『誕生日会の事を聞きたいのかな?』
ルンルン気分で女神は
立花に電話をかけた。
すると、すぐに立花が受電して
『今、1人?』と
聞いてきたので
『はい、1人です』と
答えると
『広告代理店の濱口とキスを
したの?』と
立花が聞いてきた。
その瞬間、女神の思考は停止する。
1番知られたくない事を
絶対に知られちゃいけない立花に
知られてしまった。
『女神、聞いている?』
立花の問いかけに
彼女は答える事が出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます