第96話他人とのキス

広告代理店の濱口と


キスをしたの?』


立花に、そう聞かれた女神は


驚きとショックで


言葉を失ってしまった。



自分から言おうと思っていた、



だが言い出す事が出来なかった。



立花に怒られる?


立花に嫌われる?


立花に振られる?



色々な可能性が頭の中で


錯綜して


言い出すタイミングを


失っていたのである。



最悪じゃない事は


ファ-ストキスを


奪われた訳じゃない。



だが、それは女神の中の事であり


立花という恋人いながら


他人とキスをしてしまった事は


事実であり、


何も変わらないでいる。



立花からの質問に


パニックになっている女神は


何も喋り出す事が出来ずにいた。



長い沈黙に


立花が


『今日、会長に誘われて


誕生日会に顔を出しに行ったら』


『広告代理店の濱口が


俺に、そう話してきたんだ』と



何故、立花が


その事を知っていたか、を


説明してくる。



そこからしか


今回の事がバレる可能性はない。



女神の中で


一生、濱口を許さない感情が


強くなった。



『女神、聞いている?』


立花に、そう聞かれた彼女は



『はい』と


小さく呟く事しか出来ずにいる。



その返答を聞いた立花は


『会場で濱口に絡まれて


そんな事を聞いて』


『怒って、俺は帰って


来ちゃったんだけどさ』



立花が、そう話した言葉を


聞いて



『立花さん、やっぱり怒っているんだ』と


絶望感を感じる女神に



立花は


『猪木会長から電話を貰ってさ』と


事情を説明してくる。



怒って帰ろうとした立花を見て


オリファルコンの坂口が


立花を止めた。



そこで濱口が立花に非礼を


起こしていた事を知った坂口が


濱口本人に確認をして


猪木会長に報告



濱口の尋問を会長自ら行って


濱口本人から


女神の了解を得ずに


無理矢理キスをした


事実が判明した。



猪木会長は、その事実を


立花に連絡して



濱口とのキスは


女神の浮気ではなく



女神は被害者なんだ、と


早く教えて


立花の誤解を解く為に


電話をくれた、との事だった。



『濱口なら、無理矢理キスを


してきそうだし』


『まずは、その件が


本当なのか?』


『女神に聞かないと、


分からないから』


『電話で聞こうと思ってさ』と



いきさつを全て立花が話すと



少し間があって


『事実です』と


辛そうに女神が答える。



それを聞いた立花は


『大丈夫だったか?』


『イヤだっただろう?』と


女神の予想に反する


いたわりの言葉をかけてきた。



『怒らないんですか?』


女神が、そう聞くと



『何で、怒るの?』と


立花が聞いてきたので



『アタシ、立花さん以外の


人にキスされちゃったんですよ?』と


女神が尋ねる。



すると立花は


『他人とのキスが女神本人も


同意だったらイヤだけど』


『今回は無理矢理だったんだろう?』



『女神は悪くないじゃん』



その立花の言葉を聞いた瞬間


女神の目から涙が、こぼれた。



『許してくれるんですか?』


女神が、そう聞くと



『許すも何も、女神は悪くないよ』


『悪いのは濱口じゃないか』


そう立花が説明する。



『だって、アタシに隙が


あったから、あんな事になって』と


女神は涙声で言うが



『ドラマやアニメで曲がり角で


ぶつかった瞬間に』


『男女が偶然キスしちゃうヤツとか


あるじゃん?』



『それと同じだろう?』


そう言って、事故として


立花は受け取っている事を


彼女に説明すると



『ありがとうございます』と言って


女神は号泣する。



『この先、女神に今回と


同じような事が起こるかもしれない』


『でも、そういう事があったとしても


正直に俺に話しをして欲しい』



『そういう事だからこそ


女神本人から説明して欲しいんだ』



『今回みたいに、他人から


聞きたくないから』


そう言われた女神は



『はい、全て立花さんに話します』と


答えたのである。



猪木会長から当初


濱口と女神の話を聞いた立花は


怒っていたが



『立花さんも、突然


女性にキスをされた経験が


あるんじゃないですか?』と言われて



武藤慶子と蝶野正子に


キスをされた事を思い出して


黙ってしまう。



小林邦子とはファミレスで


キスした事は秘密だ。



『猪木会長には、いつも


助けられているよな?』


立花に、そう言われた女神も



『アタシも後で会長に


お礼を言っておきます』と言って


電話を切った。



控え室を出た女神は


急いで猪木会長を探して


今回の件の礼を言ったが



猪木会長が逆に


変な担当を紹介した形となって


『大変、申し訳ない』と


謝られた。



広告代理店のトップには


猪木会長から直接抗議を


入れた事を聞いて



女神が告訴をするなら


全面的に協力するとの


申し出を受けたが



彼女自身は今回の事を早く


忘れたいし


立花にも理解をして貰った。



事を荒立てたくないので


事務所を含めて他言して


欲しくない事を申し出ると



猪木会長は理解を示してくれて


女神の望むようにしてくれた。



後に広告代理店ベンツ-の


内部調査で


濱口にセクハラを受けた


女性タレントは50人を


超えていた事が判明して



猪木会長は広告代理店に


大きな貸しを作った。



濱口本人は会社をクビとなり


会社から多額の損害賠償請求を


受ける事となったのである。




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