第30話トップアイドル扱い

木曜日には立花と

1日デ-トの予定だった。


何を着て行こう?

何を話そう?


楽しみで昨日から、

そればかりを考えていた。


そんな楽しみにしていた休日が

消えてしまったのだ。


その事が彼女には

ショックだったが


大人たちは、彼女に

お構いなしに打ち合わせを

続けていく。


グループマネージャーの

佐野さんが、

絵色女神の専属になる事が決まり


スタイリストとメイクも

専任者がつくことも

決まっていった。


更に今までの

電車移動で現地集合、


現地解散もなくなり

専用の送迎車が準備されるのは


権太坂36のキャプテンである

前田明子と同じ、トップ待遇だ。


1番低い末席から

一気に30人抜きで、

トップ扱いになったので


本来なら大喜びして

良い話の筈だが、

絵色女神は不満であり

不安でもあった。


送迎用の車が

準備されてしまったら

自宅への送り迎えで

毎日が車移動なので


仕事帰りに電車に乗って

立花の家に直行して、

お泊りする事が出来なくなる。


泊まった翌朝、

仕事現場に向かう為に

立花と一緒に歩く、

自由が丘駅までの徒歩が

彼女は好きだったからだ。


スタイリストが付くと、

服はスタイリストがメ-カ-から

用意してくれるので


服選びには困らないのだが、

せっかく立花に買って貰った

服を着て雑誌に出る夢は

叶わなくなる。


ゲ-ム雑誌の取材で喜んで、

Yahooニュースに載って

喜んでいたのが昔のように

感じてしまうほど


大きな仕事が立て続けに

決まっていき、

絵色女神は精神的に

疲弊していた。


休む暇もなく

マネージャーの佐野さんと

一緒に、急遽決まった


木曜日の記者会見の準備で

衣装合わせの為に、

サニーミュージックの本社を

出る彼女である。


車の中なら立花に

LINEが打てると

思っていたが、


マネージャーの佐野さんが

移動中の車の中で


今後の説明と

打ち合わせをするので、

それすらも出来なかった。


佐山サトシと

絵色女神が抜けた

サニーミュージック本社では

残った大人が4人、

打ち合わせを続けていた。


広告代理店の濱口は

スマホで調べたようで


『GODってゲ-マ-が黒幕で、

猪木会長にCM依頼をしたり』


『佐山サトシに新曲を

作らせたって事ですよね?』


『GODってのは

何者なんですか?』と

山田プロデュ-サ-に尋ねる。


『いや〜、実は俺も

詳しく知らないんですよ』


『番組内で女神が

喋っていた感じだと、

ゲ-ムの世界で知り合って』


『色々とリモートでゲ-ムを

教えて貰ったって

聞いてますけど』と

説明をした。


『山田さん、

そんなので良いんですか?』


『そちらのタレントが

訳の分からない輩に

騙されているかも

しれないんですよ?』と

心配する素振りで言うが


当の山田プロデュ-サ-は

『ウチとしては

実害は何も出てないし』


『むしろ有難い話ばかり

運んでくれる、

福の神みたいな存在に

なっていますよ』と

笑顔で答えてきた。


それを聞いた濱口は

反発するように


『そんな悠長な事を

言っていて良いんですか?』


『相手は何処の馬の骨とも

分からない』


『オタクな

ゲ-ム野郎なんですよ』と

濱口が言ったところで


『濱口さん、

それ以上GODさんを

侮辱する発言をするなら』


『私から、当社の会長に報告します』と

怒った口調で坂口が告げてきた。


『いや〜、オリファルコンさんを

侮辱した訳じゃないですし』と

慌てて弁解をする濱口に


『当社の社長の椅子と

副社長の椅子が空位な事を

ご存知でしょうか?』と


広報担当の坂口が、

みんなに聞いてくる。


『当社の発展に

大変寄与されたGODさんを、

お招きする為にイスを準備して

待っているとの噂です』


『さらに佐山サトシさんが、

あれだけ心酔していた

GODさんです』


『ここは彼も所属している

サニーミュージック本社ですから』


『今の濱口さんの話が

佐山サトシさんの耳に入ったら』


『この業界で、

どうなっちゃうんでしょうね?』と


お喋りが過ぎた濱口に聞くと、

顔面蒼白になって


『もう何も言いません』と

頭を下げて詫びたのである。


ゲ-ム業界1位のオリファルコン、

音楽業界1位の

サニーミュージックを

敵に回したら


広告代理店の担当者は業界から

抹殺されてしまうだろう。


話を変えるように

『打ち合わせを再開しましょう?』と

濱口が言って、話し合いは再開された。



場所は立花のオフィスに戻る。


外回りを終わらせて

立花がオフィスに

戻って来たのは18時過ぎだった。


お昼休みから職場に

戻るまでの間に

絵色女神からの

LINEは入らなかった事は

少し心配だったが


佐山サトシから

『権太坂36の新曲を

さっき届けて来ました』と

報告が入っていた。


さらに

『サニーミュージックの

本社で打ち合わせ中の

絵色さんにも、

お会いしてきました』との

報告も合わせて入っている。


『本物も可愛いですね』の

一文が最後に入っており


そのLINEを読んだ立花は

佐山に謝辞をすぐに送った。


『昨日の今日で、

迅速に新曲を

ご準備頂いたようで

深謝致します』


『今日はサイトに

行くつもりですので、

後で共闘しましょう?』


そのLINEを送った3分後に


『師匠の指導を待っております』と

返信が入った。


他には猪木会長からの

メ-ルが入っている事に気付いた。


『今週の記者会見時に

GOD andビ-ナス参戦を

発表します』と報告が来た。


CM出演やイメージガ-ル就任、

彼女を大抜擢して

貰っているので

イヤとは言えない。


『お手やわらかに、

お願いします』とだけ書いて

返信をする。


そろそろ仕事を終わらせて

帰る準備をしようかな?と

思った時に


『立花さん、教えて貰って

良いですか?』と

蝶野正子が話し掛けてきた。


書類を持って

立花の机の横に立っており、

断る選択肢は無さそうだ。


『明日訪問するア-ムズ社の

デジタルトランス

フォーメ-ションで』


『IOTの

マニュアルなんですけど?』

そう言って書類を立花に

差し出した。


蝶野は立花に聞く前に社内で

仕事が出来ると言われている

5人に既に質問をしている。


だが誰一人、

マニュアルを見て

蝶野に説明を

出来た人間はいなかった。


すると立花は、すぐに

『DXの変革部分じゃなく、

レコメンドから考えると

分かり易いんだよ』と言って


彼女にも分かる説明で

簡潔に説明をしてくれたのだ。


やっぱり立花さんは本物だ。


そう確信した蝶野は

『ありがとうございます』


『明日のお店は

期待してくださいね』と言って

自分の机に戻って行った。


後輩への助言も終わり

今日の仕事の目処はついた、


今まで空いた時間に

知り合いにLINEや

メ-ルを送る生活を

していなかった

立花は気疲れしており


仕事の疲労もあって

早く帰りたい気持ちが

大きくなり、

店じまいをして

会社を出る事にする。


すると、ビルの入り口を

出た瞬間、

立花の前に人が現れた。


それは武藤慶子だった。


営業じゃなく総務関係の

仕事をしている彼女は

残業はないので


この時間に

会社にいるのは珍しい


さっき強く言い過ぎたのを

多少後悔していた立花は


『お疲れ様、

誰かと待ち合わせ?』と

優しく慶子に話しかけると


『立花さんを待ってました』と

笑顔で答えてくる。


『え?俺?』

予想外の答えに驚いていると


『さっきのお詫びに、

お酒を奢らせてください』と

飲みに誘ってきたのだ。


蝶野と食事に行くのも

絵色女神は、プンプンしていた。


おそらく今夜はCMの件や

佐山サトシの曲の件で

電話がくるだろう。


それに佐山サトシと

エクシブハンターで

共闘する約束もしている。


慶子と飲みに

行っている場合じゃない。


『ごめん慶子ちゃん、

疲れているから

すぐに帰りたいんだ』


『今日の事は

気にしていないから

大丈夫だから』と

言って断わると


すねたような表情になり


『蝶野さんとは

ご飯に行くのに』と言って

下を向いてしまう。


弱ったな


会社の前での、

このやり取りはマズい。


誰かに見られてしまったら、

また面倒な事になる


そう思っていた時に

武藤慶子が立花に近づき、

耳元で


『わたし、

すごくエッチなんです』と

囁いたのだ。


武藤慶子の見た目は

清楚系なので、

そのギャップの爆発力は絶大だ。


飲みに行きましょう?


わたしエッチです。


小学生の足し算レベルの計算だ。


男にとって魔法のような

言葉だったが


『おやすなさい』と言って

立花は武藤慶子の横を

通り過ぎていった。


おそらく女性にとっての

切り札を出したつもりで、

あっただろうが


武藤慶子の攻撃は

立花には効かなかった。


いや、実際は効いていた。


一瞬、頭の中で色っぽい

武藤慶子を想像して、

立花の立花はハ-フになっている。


だが今の立花には

絵色女神がいる。


ズボンの膨らみが邪魔で、

やや歩きづらい姿で

立花は家路を急いだ。


コンビニ弁当を買って

アパートに着く日常


いつもの立花の

トワイライトタイムだ。


昼から絵色女神の

連絡は来ていないが、

打ち合わせが

長引いているのだろう。


『こちらは仕事が

終わって帰宅しました』と、

彼女にLINEを送る。


これで、家で

まったりしても問題はない。


急いでハンバーグ弁当を

食べ終えて、


エクシブハンターを起動し、

ログインしてみると

ギャラリーが多い事に気づいた。


なんか、いつもの倍の

ギャラリーがいるな


立花は、そう実感するも


いつものように

チ-ムのログハウスに向かうと


トニ-とフランキーが来ており、

メッセージ機能で


『ビ-ナス効果で大騒ぎです』と

フランキーが事情を

説明してくれた。


テレビやネットニュースの

影響だな?


ギャラリーが多いほど、

注目が集まり


強いてはビ-ナスが世間に

認知されるのでは?と考え


フランキーに

『新技を披露したら、

どうですか?』と

メッセージをする。


そのメッセージを見た

フランキーが

『了解です』と返して


GODチ-ムの

ログハウス周辺に

集まっていた敵に攻撃を

仕掛けた。


雷と共に、地割れが起きて

敵が全滅する。


見ていたギャラリーも

メッセージ機能で


『初めて見る技だ』


『ビ-ナス以外も

新技があるのか?』と

予想通りの騒ぎになってきた。


佐山サトシは

新技フランキーを連発して、

大喜びをしている。


そこにGODしか

持っていない技が加わり、

無双状態となるチ-ム


立花自身も久しぶりに

ゲ-ムを楽しんでいた時に、

絵色女神からLINEが入った。


『ごめん、ちょっと落ちます』

そう言ってログアウトして

確認をしようとする。


『すごく大喜びして、

自慢しているメッセージかな?』

そう思って立花がLINEを見ると


『アタシ芸能界、

辞めたくなりました』


そんな驚くべきメッセージが

彼女から

届けられてきたのであった。


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