第61話第4の女

CM撮影を終了した女神は

トイレに入り立花に

LINEを打とうとするが


何て書いたら良いのか

分からず

頭を悩ませている。


怒らせた原因が

分かっていれば

その事について謝れば

良いのだが

それが思いつかない。


見当違いの謝罪文は

怒りを倍増させて

更に連絡困難になってしまう。


キスをされた事を書こうと

一瞬頭をよぎったが、

それはダメだ。


ちゃんと報告しないと、

いけないが今ではない。


タイミングを見計らって

説明をする事は

自分の中で決めた。


なら、どう打つ?


『女神ちゃん大丈夫?』


トイレに立てこもった

女神を心配して


マネージャーさんが

トイレに入って

声をかけている。


『すいません、大丈夫です』

10分間個室に入っていた

女神が答える。


もう出ないと、いけない。


言い訳も何もない。


シンプルな一文を書いて

立花にLINEをした女神は

次の仕事に向かった。


トラブル処理で

群馬県で作業している

立花と藤波係長は

頭を抱えている。


工場に着いて2時間、

作業をするが

機械は故障していないし

エラーも無い。


立花が一瞬ひらめいた。


持参したカバンを開き、

何かを探し始める。


『あった』


そう言ってLANケ-ブルを

手に取り

工場内のノ-トPCを借りて

複合機の側に行って


配線していたケ-ブルを

抜いて自分が用意した

ケ-ブルに差し替えて

機械を稼働させてみた。


『動いた』


藤波係長が

歓喜の声を上げる。


工場内の人も集まっており

みんな喜んでいた。


『ケ-ブルが

断線していた事って事?』

藤波係長に聞かれた立花は


『おそらく、

そうだと思います』

立花が、そう答えたが


『ここは1ケ月前に

新規設置したばかり

じゃないか?』


『それで断線するの?』


新品の部品が、

すぐに切れる事が

信じられない藤波係長が

呟いた。


『でも、実際に

ケ-ブルを入れ替えたら

動きだしましたから』


『それが原因だと

思うのが、1番可能性が

大きいと思いますよ』


そう立花が説明する。


『だとすると、困ったな』と

立花が渋い顔をした。


ここの担当だった

立花だから分かる

対処が難しい問題だ。


工場のような場所の

LANケ-ブルは

表には出ていない。


隠蔽配管


家庭用のコンセントの様に

電気のコ-ドが

床に転がっていると


引っかかってしまったり、

上に乗ると断線の恐れが

あるので


床の中に埋設した

ボックスの中に


ケ-ブルを通しておいて

コ-ドを隠してしまう

方法である。


普通に使っている時には

コ-ドが無いので見た目も

作業時も邪魔にならず


利用者に喜ばれるが

問題もある。


『床を剥がして

配管を出さなきゃダメ?』

藤波係長が立花に質問をする。


『出来れば、

それはしたくないです』と

立花が答えるが


最悪はその方法も

考えないといけない事を

暗に言っている。


仮にケ-ブルを

替えるとなっても

電機店に売っているような

家庭用の3mサイズでは

届かない。


30mの長さは最低でも

必要だ。


すぐにネットで

近所の部品屋を探して


電話をして在庫を

確認したら

コ-ドは6芯で30mは

あった。


爪は自分で交換出来る。


初めて行く店なので、

交通手段が

わからないので

タクシーを呼んで

立花が買いに向かった。


1時間後、

ビショビショになった

立花が帰って来た。


『そんなに雨はひどいの?』

台風の影響で

全身ビショ濡れの立花が


『さっきより

雨風が強くなってます』


『早く片付けて

帰りましょう?』と

笑顔で返す。


早速、今使っていた

LANケ-ブルの端に

新しいケ-ブルを

縛って引っ張る。


埋設している

ボックスの中でケ-ブルを

何処かに固定していたら

終わりだ。


ゆっくりと複合機側の

LANケ-ブルを

引っ張っていくと


やがて全部のケ-ブルを

引き出す事に成功した。


古いケ-ブルを見て

故障の原因が判明した。


ネズミが原因であった。


埋設ケ-ブル内が床の下で

ネズミの通り道に

なっていたのだ。


ネズミは電線をかじって

自分の歯を

研磨すると言う。


立花も藤波係長も

自社が原因じゃなく

胸を撫で下ろしている。


LANケ-ブルの爪を

付け替えたら作業は終了だ。


そして作業は終了した。




時間は

もう18時になっている。


『急いで帰らないとね?』

藤波係長が

工場の人に頼んで

タクシーを

呼んで貰う事にする。


タクシーを待つ立花と

藤波係長が

窓に叩きつける雨を見て

台風が直撃している事を

感じていた。


10分ほど待つが

タクシーは来ない。


『雨の影響かしら』

藤波係長が

独り言のように呟いている。


結局タクシーが

工場に到着したのは

30分後だった。


ワイパーが

意味をなさない中

タクシーが駅に着いたのは

19時過ぎである。


雨に濡れながら

ダッシュで駅に入った。


藤波係長と立花は

信じられないモノを

目の当たりにした。


『架線障害で

電車が止まっている?』


駅員の説明では

1時間後に運転再開予定

との事だ。


雨風が強くて

駅からは出られない。


藤波係長は

会社に電話をして

工場のレスキューが

成功した事と


電車が止まっていて

帰りが遅くなる事を

会社に説明をしている。


ここは大人しく

電車が動くのを待つか?


立花はそう決めて

ベンチに座って

一眠りする事にした。


どのくらい寝たのだろう?


『立花、起きて?』

藤波係長に

揺り起こされて目覚めると


『立花、

マズい事になったよ』と

係長が困った顔をして

説明を始める。


電車の電線を塞いでいた

樹木が更に一ヶ所

増えたとの事で


今日の電車は

全て運休が決まった。


『東京に帰れない』


緊急事態での

出張だったので


背広のままだし

着替えなど準備してない。


タクシー乗り場に

向かうが一台も

停まっていない。


さっき利用した

タクシー会社に電話をして

配車を頼むが


台風の影響で

ドライバーの安全を

確保出来ないので

休業にしたとの事だ。


どおりで、さっきまで

電車を待っていた

多くの人々がいない訳だ。


さっきの人達は

何処に行った?


電車は動かない


今日は帰れない


ホテルに向かったんだ。


藤波係長と

立花は暴風雨の中


ホテルを何軒も回ったが

スタートが遅かったようで

何処も満室だった。


ビショ濡れに

なりながら回った

ボロボロのビジネスホテル


そこで2部屋は取れないが

1室だけ空いており

ベッドは

ダブルサイズなので

2人は泊まれるとの事だ。


台風が激しい中、

野宿は出来ないし

やっと見つけた宿だ。


藤波係長に確認すると

頷いたので

宿泊を頼む事にした。


『夕食、朝食はありません』


『大浴場は

壊れているから部屋の風呂を

使ってください』


そこまで言った後、

ホテルの受付は

立花の耳元に近づき


『避妊具は

置いてませんから

近くのコンビニで

買って下さい』と

囁いてきた。


『何を、

言っているんですか?』と

立花は驚いたが


雨で濡れたブラウスで

黒のブラが透けている


メガネをかけた

女教師風の藤波係長は

その手の趣味の

人にとっては

たまらないだろう。


『何だって?』


受付から離れていた

藤波係長が立花と

受付の会話の内容を

聞きたがっているが


『避妊具はコンビニで買え』と


言われたとは言えない。


『食事はコンビニで

買って下さい、との

事でした』


そう立花が説明すると

『そうだな、

泊まる前提じゃないから

何も準備が無いな』


『荷物を置いたら、

コンビニに行こう?』

藤波係長が提案してきた。


想定外の女性上司との

同部屋での一泊宿泊。


立花の事が気になっていた

藤波係長は

『ラッキー』と

心の中で

ガッツポーズをしていた。

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