第58話絶対絶命
立花からのレスは
結局来なかった。
これが既読スルーって
ヤツなんだ。
何が起きているの?
レスが出来ない状況なの?
ここに来て女神の頭の中に
恐ろしい言葉が浮かんだ。
『嫌われている』
今までの立花からは
想像すら出来ない待遇に
女神は不安に襲われて
今までのLINEを
全て読み返す。
おかしな、やり取りは無い。
木曜日には立花さんに
愛して貰って
半分だけ女になった。
金曜日の朝まで、
いつもの立花さんで
何も変わったところも無い。
もう一度金曜日と
土曜日のLINEの
やり取りを見るが
女神から見ると、
おかしなやり取りは
見つからなかった。
気付かない内に立花を
怒らせてしまっていたのか?
自分が知らないだけで
金曜日、土曜日に
立花の周辺に
何か起きたのか?
もう仕事に行かないと、
いけない時間になっているが
何も手につかない。
むしろ仕事に行かずに
自由が丘に行って
立花に会って
真相を聞きたい衝動に
かられている。
現実は非情で、
マネージャーさんから
『準備出来ていますか?』と
連絡が入った。
シャワーも浴びていないし
着替えもしていない
状況である。
『どうして
レスしてくれないの?』
そのLINEが怖くて打てずに、
どうする事も出来なかった。
その時に電話が鳴る。
『立花さん?』
画面には
マネージャーさんの名前が
出ている。
『はい、すいません』
『まだ準備が
出来ていないので15分だけ
待って貰えますか?』
仕事には行かないと
いけないので
不安定な気持ちのまま
準備をする。
とりあえず着替えをして
簡単な身支度を終了して
迎えの車に乗り込んだ。
そこでマネージャーさんが
今日の予定を
説明してくれているが
彼女は全く聞いていなかった。
全部、説明をした
マネージャーさんが
『女神ちゃん、大丈夫?』と
聞いて
『え?はい?
何でしたっけ?』と
マネージャーさんの方を
向くが
彼女の目がうつろな
状況に気づいて
『ちゃんと寝れている?』と
心配をしてきた。
『すいません、
遅くまで考え事をしていて
よく眠れていません』
学生だったら
『だったら今日は
休んで寝ていなさい』と
なるが
大人の世界は厳しく
『仕事に支障をきたすから、
睡眠は
しっかり取ってください』と
注意をされて終わりだ。
『今日はCM撮影なんですから、
しっかりとお願いしますよ』
そうマネージャーさんに
ハッパをかけられた通りで
スナック菓子のミラージュの
CM撮影で収録スタジオに
向かっている。
ミラージュ社は
オリファルコンと
タイアップして
自社のスナック菓子の
パッケージを期間限定で
オリファルコンの
キャラクターで発売を
している。
その縁で猪木会長が
ミラージュ社の社長に
『絶対に大バケする
新人を見つけた』
『ギャラの安い今、
抑えておいたら?』と
持ち掛けて決まった
案件だった。
記者会見の当日には
女神には知らされて
いなかったが
案件は決まっていた。
翌日以降の
ワイドショーでの女神の
取り上げ方を見て
ミラージュの社長は
猪木会長に
大変感謝している。
旬なタレントを安く使用する
クライアントが一番望む事だ。
やがて車は
CMを撮影するスタジオに
到着して女神は重い足取りで
現場入りをした。
撮影前に会議室のような
部屋で広告代理店の人間や
監督、ディレクター
そして女神が揃って
打ち合わせをする。
すると女神の前に
顔を出して
『久しぶりだね?』と
笑顔で挨拶をしてきた男が
いた。
元気のない女神は
ノ-リアクションで
何事もなかったように
していると
『あれ?俺の事を
忘れちゃったかな?』と
おどけた男
エクシブハンターの
記者会見を仕切っていた
スタッフの濱口だった。
ここに来て認識した女神が
『先日は、どうも
お世話になりました』と
ハキの無い声で挨拶をすると
濱口の表情が変わった。
そしてマネージャーさんに
向かって
『女神ちゃん
調子悪いんですか?』と
確認をする。
すると
『最近、スケジュールが
キツくて、少し
睡眠不足みたいなんです』と
説明すると
『病気じゃないんだな?』と
女神本人に向かって言って
彼女の頬を両手で
軽く叩く感じで
『ピシャ』っと押さえ
『女神ちゃんも
プロなんだから気合いで
つらくても乗り越えろ』と
気合いを入れる。
『はい、すいません』
女神が一瞬で
シャキッとした。
確かに大事なCM撮影だ、
気合いを
入れていかなければ失礼だ。
気持ちを入れ替えて
打ち合わせに参加した
女神は撮影の説明を
しっかりと聞いた。
やがて撮影が始まる。
通常、CM撮影の際には
TVなどで流す動画撮影と
ポスターや雑誌などの広告欄に
掲載するスチール撮影を
同時進行で実施する。
寝不足の証拠である
目の下のクマは
メイクで誤魔化して貰ったが
やはり気持ちが乗っていない
女神の表情は硬い。
監督は
『もっと笑顔で』とか
『最近、1番嬉しかった事を
思い出して』と
声を掛けてくるが
立花との楽しい思い出が
蘇ってきて
かえって女神の表情は
曇ってきた。
1時間ほど挑戦したが、
良い表情は撮れず
急遽、休憩に突入となった。
女神を楽屋に戻して、
CMスタッフが
その場で打ち合わせをする。
『可愛いんだけど、
表情が暗くて
作品にならないよ』
カメラマンがぼやき
監督は
『日を改めて
撮り直す事も考えた方が
良いかもしれないね』と
言っている。
それを聞いていた
広告代理店の濱口は
その場を離れて
女神のいる楽屋に
走って行った。
ノックもせずに楽屋に入ると
鏡の前で休んでいた
女神を見つけ
『やる気がないなら帰れ』と
開口一番に怒鳴りつけた。
突然の濱口の乱入に
ビックリしていた
女神とマネージャーさんに
『今日の撮影は中止だよ』と
続けて言葉を浴びせた。
その言葉を聞いた女神は
小さな声で
『どうも、すいません』と
謝る。
それを聞いて
『謝るんじゃなく、
まだやらせて下さい
じゃねぇのか?』と
濱口が言うが
女神は
『すいません』と
謝るだけだった。
反応の薄い女神に対して
濱口は
『彼女、お借りしますよ』と
マネージャーに言って
女神の元に近づき
彼女の手を取り
『ちょっと、コッチに来て』と
楽屋の外に
連れ出したのである。
呆気に取られている
マネージャーは
何も言えず彼女を見送った。
濱口は会議室に
女神を連れてくると
立ったまま向かい合って
『今日は、どうしたんだよ?』
『この前の記者会見の時には
あんなに
輝いていたじゃんか?』と
その時の光が消えている
彼女に
大きな声で迫ったが
女神は言い返して来ない。
『俺は女神ちゃんに
期待していたんだぞ』
『今日も、また一緒に仕事が
出来るって喜んできたのに』
『何で表情が
死んでいるんだよ?』と
更に強く言うが
彼女は
『本当に、すいません』と
頭を下げて謝るだけだった。
変わらず元気の無い彼女に
『頑張る気が無いなら、
降りろ』と強く言うと
『何とか
頑張っているんですけど、
全然出来ないんです』と
涙目で女神が
言い返してきたのである。
『みんな仕事だから
辛い事があっても
必死でやり切っている』
『他のタレントは
失恋した翌日でも
笑って撮影してたよ』
そう濱口が言った言葉に
女神がピクッと反応した。
その反応を見た濱口が
『何だよ、失恋して
元気が無いのかよ?』
『プロ失格だな?』と言うと
『失恋って決まってません』と
怒って言い返してくる。
図星じゃないか
濱口は、そう思い
『他の女を作った
男の事なんて、
忘れてしまえよ』
そう言って
女神の神経を逆撫で
するような事を言うと
『そんな人じゃ、
ないもん』と言って
立ったまま
泣き出してしまった。
しまった、やり過ぎた。
以前に失恋して撮影を
ゴネたタレントに
同じように言って
ワザと怒らせて、
『その男が
悔しがるような演技を
してみろ』と言って
成功した経験があったので
女神にも同じ事をして、
復活をさせようとしたが
失敗してしまった。
今までの不安を
我慢していた分
決壊したダムのように
『え〜ん、え〜ん』
泣く女神を見て
『まいったな』と
頭をかいて
困っていた濱口は
泣いている女神に近づき
彼女のアゴを持ち上げて
キスをした。
パッと、目を見開いた女神は
キスをされているが
何が起きているか分からず
濱口に唇を奪われたまま、
固まっている。
あたしキスをされている?
彼女の頭が理解するまでに
3秒かかった。
それと同時に濱口を両手で
突き飛ばす。
『何するんですか?』
震えた声で女神が聞くと
『ほら、泣きやんだ』と
濱口が笑っている。
『30分後に撮影を
再開するから
よろしくね?』
そう言って濱口は
楽屋を後にした。
スタジオに向かう廊下で
『やり過ぎたかな?』と
独り言を言う濱口
会議室に一人残された女神は
『キスされちゃった』と
小さな声で呟く。
どうしよう?
立花さん以外の人に
キスをされた。
立花さんに言わないと
でも、言ったら
完全に終わってしまう。
言えない。
会議室で一人、
この状況に混乱する
女神であった。
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