第90話22才の処女 4

買い物を終えた2人は

ビジネスホテルに向かう。


とりあえずチェックインまでは

安全を見届けようと


考えていた立花もホテルに入り

受付をしている小林を

ロビーで待っていた。


本来なら予約が必要だろうが

平日なので当日でも

大丈夫だろう


そう思って電話せずに

直接ホテルに来た。


だが予想以上に

手間取っているようだ。


しばらくすると小林が

『お待たせしました』と言って


ロビーで待っていた

立花の元にやってくる。


『部屋が取れたなら俺は帰るよ』


そう言って立ち上がると

立花の腕を掴んで


『部屋まで一緒に来て下さい』


『部屋の前で危ない人が

待ち伏せしていたら

どうするんですか?』と


クチを尖らせて

文句を言ってくる。


『今、予約したばかりの部屋は

分からないだろう?』と

立花が言うと


『エレベーターに一緒に

乗り込んで、部屋に侵入した

小説を読んだ事があります』と

立花に力説する小林


ロビーを見渡す立花は

数人の男性が


ウロチョロしてる姿を見つけ

確かに、誰が狙っているか

分からないと思い


『お姫様、

部屋まで護衛します』と

言って


彼女と一緒にエレベーターに

乗る事にする。


エレベーターが到着して2人が

乗り込むと


エレベーター近くにいた男性も

慌て乗り込んできた。


小林が鍵を見て

自分の目的階のボタンを


押そうとした時に

小林の手に触って


行き先階のボタンを

押すのを制止して


『何階ですか?』と

知らない男性に

行き先階を聞く


『え〜っと、

何階だっけかな?』と

男性が即答出来ないと


小林の手を引っ張って

エレベーターの外に

出てしまった。


『え?なんで?』と

小林が不思議そうに立花に

質問すると


『エレベーターに知らない男性と

一緒に乗ったら』


『自分の行き先階は、相手より

先に押さないようにしろ』


『さっきみたいに

何階ですか?って』


『相手に聞いて、それから

自分の行き先階を押す』


『相手に行き先階を聞いて

さっきみたいに』


『相手がすぐに

答えられなかっとら

すぐにエレベーターを降りる』


立花にそう説明を受けた

小林はそこまで

考えてくれていたと分かり


目をウルウルさせて

感動しながら

『はい』と頷いている。


女性読者がいたら

是非覚えておいて欲しい


エレベーターに乗る

テクニックで


知らない男性に何階で

降りるか?確認した時に


自分が5階で降りたくて

男性が4階で

降りると言った場合は

面倒だが6階を押して欲しい。


6階で降りて階段降りて

5階に行けば


相手に自分の

目的階はバレない。


もし男性が申告した階で

降りない場合は


次にエレベーターが

停まった階で


扉が開いた瞬間に

ダッシュして逃げ出す。


自分の身は自分で守る。


変質者対策には有効なので

覚えておいて欲しい。


閑話休題


立花と小林にイヤな

緊張感が走った。


『さっきの人って

やっぱり怪しいんですか?』

小林が不安そうに聞いてくる。


『分からないけど、

用心した方が

良いだろうな?』


そう言って別のエレベーターに

乗り込む2人だった。


小林の部屋は7階だが

あえて8階を押して


階段を使って7階に戻り

ようやく部屋に入る。


部屋は10帖ほどで部屋には

ダブルベッドがあった。


『お前シングルじゃなく

ダブルを取ったのか?』

驚いた立花がそう聞くと


『シングルに2人だと

狭いじゃないですか?』と

笑いながら答えてきた。


『俺は泊まらないぞ』

立花がハッキリ言うと


『こんなに怖い思いを

しているのに

1人じゃムリです』と

泣き顔で抗議をしている。


『俺が帰った後、

朝までドアを開けなければ

安全だから』と説明するが


『間違えて開けた時に

知らない人だったら

私、襲われちゃいます』と

一歩も引かない。


『俺も男だし、お前は可愛いから

間違いが起きたら、どうする?』

脅かすつもりで小林に言うが


『私は、それでも良いですよ』と

笑顔に変わり答えてきた。


こいつ、この状況を

楽しんでいるのか?


このままじゃ

らちがあかない。


とりあえず、小林が

落ち着くまでは

部屋にいよう。


そう思った立花が

『もう少しだけ部屋には

いるから』と

折れた姿勢で話すと


『ヤッタ〜』と喜び


『ちょっとシャワーを

浴びてきますね?』と言って


さっき買ったばかりの下着を

引っ張り出そうとするので


『何で、いきなり

シャワーなんだ?』と

呆れ顔で立花が聞くと


『今日一日

ドキドキしっぱなしで

いっぱい汗かいちゃって』


『汗クサイのイヤなんですよ』と

小林がまともな説明をしてくる。


バツの悪くなった立花が


『でも、シャワーなら

俺が帰った後に、ゆっくり

入れはいいじゃんか?』と

ボヤくと


『テレビで心霊番組を

見た後って

髪の毛を洗っている時に』


『後ろに誰かいそうで

怖いじゃないですか?』


『今日なんか特に1人じゃ

怖くて絶対入れないです』


そう言った小林の話に

納得した立花も


心霊番組を見た後に

同じ思いを

した事があったからだ。


『お風呂で、恐怖体験をしても』


『今なら、立花さんが

助けてくれるじゃないですか?』


『それでもダメですか?』


そう言って首を45度

傾けて聞いてくる。


可愛い


立花の顔は赤くなった。


『分かったから

早く入って来い』

立花がそう言うと


『は〜い』と言って

小林は浴室へと

消えて行ったのである。


時間は20時30分


泊まる事は無いが

女神に連絡は

入れておきたい。


『会社の連中と

飲みに来ています』


『少し酔っているので

おやすみメ-ルが来なくても

怒らないように』

そうメッセージして

1分後に


パンチのスタンプが来た。


だが、その後に

ハ-トマ-クと一緒に


『飲み過ぎないでね』と

メッセージが入る。


とりあえず、これで女神には

説明が終わった。


後は、いかに小林を説得して

部屋から脱出するかだ。


ダブルベッドの部屋を

取っている時点で


彼女は一泊を同室で

過ごそうとしている。


藤波係長には申し訳ないが

あの時とは同じではない。


ナンパ男達が一目惚れする

レベルの美人になった小林と

同じ部屋に泊まって

手を出さない自信がない。


蝶野にバトンタッチして

泊まって貰うか?


いや、蝶野の告白を

断っておきながら


これ以上

彼女を巻き込むのは

申し訳ない。


小林が寝たら自分だけ

脱出出来ないか?


部屋の鍵を確認するが

カ-ドキーになっているので


外からロックしないと

鍵をかけられない状態に

なってしまう。


『ガチャ』


そうこうしているうちに

小林がシャワーを終えて

出てきた。


さっき買ったばかりの

ピンクのスエット上下に


濡れた髪の小林は

爆破力満点だ。


『立花さんも入ります?』


小林が当たり前のように

風呂をすすめて来たので


『もう少し、したら俺は帰るよ』と

言うと


寂しそうな顔をして

黙ってしまった。


気まずい雰囲気を感じた立花が


『小林?』と聞くが

彼女は返事をしてこない。


『鍵を閉めたら、

朝まで開けない』


『明日の朝に俺が迎えに来たら

一緒に外に出よう?』


そう立花が提案するが

彼女は無言のままだ。


『小林、聞いている?』


立花が恐る恐る聞くと


『毎日、こんな事

出来ないですよね?』と

喋りだした。


『確かに、毎日ホテルに

泊まる訳にはいかないよな?』

立花も同調すると


『昼間のナンパ男が来てから

一日中、私が

心配していた事があるんです』


小林が言った言葉を

立花が待っていると


『私、処女なんです』と


小林が男性経験が無い事を

告白をしてきたのである。


確か、そんな事を

言っていたな?と

立花もその事を思い出した。


『自分が性の対象に

見られる事なんて

一生無いと思ってました』


『だから色々な小説を読んで

ヒロインがエッチな事を

されそうになって

ドキドキしていても』


『他人事だと思って

楽しめていたんですけど』


『いざ自分が男の人に

狙われていると思ったら』


『すごく不安だし絶対に

許せない事があるんです』


小林がそう言った言葉を

立花が黙って聞いていると


『ファ-ストキスは好きな人と

絶対にしたいんです』

そう自分の願望を話してきた。


『明日以降、立花さんも

誰もいない場所で』


『ナンパ男に急に襲われて

無理矢理キスを

されるかもしれない』


『大好きな人と

ファ-ストキスをする前に

知らない人に無理矢理

キスをされたら』


『私、生きていけません』


小林の話を聞いていて

立花はイヤな予感がしてきた。


『立花さん、私の初体験の相手に

なってくれませんか?』と

小林が頼んできたのである。


『初体験?キス?』

『どっちだ?』


立花が混乱して小林に聞くと

笑顔で『両方です』と

答えている。


『無理だよ、

俺には彼女がいるから』

そう立花が説明したが


『知っています』


『だから彼氏になってくれとは

言いません』


『好きでもない人に

無理矢理奪われる前に』


『大好きな立花さんに

ファ-ストキスと

初体験の相手に

なって貰いたいんです』


彼女の話に

驚いて固まっている立花に


小林は

『22才の処女はイヤですか?』と

尋ねてきたのである。


『22才だからイヤとか

小林がイヤとかじゃなく』


『俺には彼女がいるから

お前の相手には

なってあげれない』

そう立花が説明すると


『それは分かっていますから

絶対に秘密にします』


『明日以降、立花さんに

つきまとう事もしません』


『ですから、お願いです』


『私の初体験の相手に

なってください』と

頭を下げてきた。


『初体験を俺としたら

明日からホテルに泊まらない

理由は何?』

立花がそう質問すると


『さっきのファミレスで

ナンパされても』


『イヤだって拒否出来ました』


『だから断わる気持ちの勇気は

私の中にも生まれました』


『でも不意打ちでキスされたり

襲われたりするのは

防ぎようがありません』


『もし立花さんと経験していたら』


『その時に、

良かった

ファ-ストキスじゃなくって』


『そう思えると思うんです』


小林の説明に立花も納得している。


中学生の3年間、高校生の3年間

大学生の4年間


10年で他の女性が恋愛経験を

積んでいく部分を


彼女は2日間で一気に

経験しているのだから。


その原因を作ったのは

まぎれもなく立花だ。


彼女の意思を確認せずに

メガネをコンタクトに

変えたり


サロンに連れて行き

髪の毛を変化させて


メイクも蝶野に頼んで

変身させてきた。


その変化のスピードに

彼女がついて行けずに


知らない男性に

名刺を配ってしまったのも

今は分かる。


しばらく考えていた立花が


『キスだけじゃダメか?』

そう聞くと


『この2日間で

見た目は変わりました』


『だから全部、変えたいんです』


『お願い出来ませんか?』


彼女は笑顔で

頼んできたのであった。

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