第36話キング
記者会見が明日となり
絵色女神の周辺は
更に忙しくなってきた。
コンサートのリハーサル、
CM打ち合わせゲ-ム雑誌の
取材にラジオ出演
朝8時からスタ-トした、
これらの仕事を
17時までに終えて
18時には
オリファルコン本社で
明日の記者会見の打ち合わせ兼
リハーサルが行なわれる
予定だった。
絵色女神は気分転換に
越中美桜とガ-ルズト-クを
したいのだが
空いた時間や待ち時間に
雑誌の取材が組まれており、
食事の時間も無い状態で
移動中の車の中で、
食べ物を流し込んで
次の現場に向かう
過密スケジュールだった。
だが、どんなに忙しくても
立花へのLINEは欠かさず
入れており
トイレの時間は立花への
報告タイムとなっている。
立花からの
『がんばれよ』のメッセージや
『その髪型は新鮮だね』と言った
短いメッセージに
勇気づけられてヘロヘロに
なりながらも
ハ-ドワ-クをこなせている
源になっていたのだ。
時間は17時45分、
オリファルコン本社ビルに
マネージャーさんに連れられて
絵色女神が到着した。
オフィスタワーの35階に
エレベーターで上がり、
受付嬢に名乗ると
先日、サニーミュージックの
本社ビルで会った広報の
坂口が現れ、マネージャーさんと
名刺交換をする。
絵色女神と会うのは2回目なので
軽く会釈をして挨拶が終わった。
『リハーサルの前に
当社の会長が絵色さんと
お話をしたいと
申しているのですが』
『宜しいでしょうか?』と
坂口が聞いてくる
『クライアント企業の
会長さんが会いたいと
おっしゃって
下さっているなら』
『こちらから、
ご挨拶させて下さい』
そう言ってマネージャーが
席を立とうすると
坂口がマネージャーを制止して
『絵色さんだけで』と
単独での面会希望だと伝えてくる。
GODとの関係を
知らないマネージャーは
『何か失礼があったら
マズイので』と言って、
同席を求めたが
坂口は
『絵色さんだけで、
お願いします』と言って
再度マネージャーの同席を
拒んだのだ。
『大丈夫ですよ』
絵色女神は
マネージャーさんに笑顔で
そう言うと
広報担当の坂口に
連れられてオフィスの
奥へと消えていった。
オフィスには100以上の
机が並んでおり
パソコンで打ち込みを
している人がいて
活気ある雰囲気である。
オフィスの机の島を、
いくつか過ぎて
その1番奥に個室があった。
『コン、コン』
坂口がドアをノックして
『絵色さんをお連れしました』と
言いながら
ドアを開けて中に入っていく。
奥の大きな机に
1人の男性が座りながら
隣にいた秘書のような女性に
紙を見せながら指示を
出している。
学校の教室の半分ほどの
広い部屋に大きな机と
応接セット、壁には書棚があり
壁には賞状が飾ってある。
テレビで見た事のある
会社の偉い人がいる部屋だと
絵色女神は思っていた。
こちらの存在に気付いた男性は
『ありがとう』と言って
紙を渡して
秘書のような女性に
部屋から出ていくように
指示をする。
『失礼します』
そう言って
絵色女神の横を通り過ぎる女性は
モデルのような体型で顔も綺麗だ。
美人秘書?
絵色女神がそんな事を
考えていると
奥にいた男性がコチラに
近づいて来て
『ようこそ、
おいで下さいました』と
右手を出して握手を求めて
『初めまして、
オリファルコンの猪木です』と
挨拶をしてきたのだ。
身長は180cmはあるだろう、
ガッチリした肩幅もある体型で、
歳は30代後半から40代前半だと
思われる優しい感じだ
『こちらこそ、初めまして』
『絵色女神と申します』
そう言って差し出しされた
右手に握手をし返して、
深く礼をする。
『後で連絡する』
そう言って広報担当の坂口も
部屋から出した猪木会長は
『こちらへ、どうぞ』と
高そうな応接セットへ
彼女を誘導した。
フカフカのソファに
絵色女神が座ると
『初めてお会いするのに、
初めてじゃない感じがしますね』と
会長が笑いながら
話しかけてきた。
『テレビの番組やネットの記事を
見ていただけじゃなく』
『立花さんが関係しているから
他人のような気がしないのかも
しれません』と彼は説明する。
何を話していいか
分からない彼女は
『アタシも色々と噂を
聞いています』と答えると
猪木会長が前のめりになって
「それは興味深いですね』
『是非、教えてください?』と
彼女に
噂の内容説明を求めてきたのだ。
そこを突っ込まれると
思わなかった彼女は
困った表情になり、
あたふたしていると
『そんなに
動揺しないでください』
『立花さんには
内緒にしておきますから』と
猪木会長に言われたので
『立花さんがアタシの事を
会長さんに頼んでくれた
事とかです』と彼女は答える。
それを聞いた猪木会長が
『立花さんと、お付き合いして
どのくらいなんですか?』と
彼女に質問すると
更に慌てふためいて
『付き合っているとか、
そんなんじゃなく仲良くさせて
貰っているだけで』と
両手を前に出して、
全力で否定するが
『その辺りの話も聞きたくて、
他の人間を外に出したので、
ご安心下さい』と
優しく語りかけてくる。
そう言われた彼女は、
先日立花が家に来た時に
『猪木会長は俺たちが
付き合っている事を
知っている』と
言っていた事を思いだし
『アタシたちが
付き合っている事は?』と
疑問形で絵色女神が尋ねると
『もちろん知ってますよ』と
自信ありげに
猪木会長が答えた。
すると絵色女神は
指を使って数え出して
10本目を曲げたところで
『10日目です』と答えた。
それを聞いた
猪木会長は笑いながら
『私は、お付き合いされている
期間を聞いたんですよ』と
年頃の女の子にありがちな、
質問を間違えて答えてきたと
思って再度質問したが
『ですから10日です』と
彼女も笑いながら答えてくる。
ウソだろ?
猪木会長の表情が変わって、
顔がひきつっているのを
感じた彼女は
『奥さんになる約束も
しているんです』と
追加の情報で、
猪木会長の信用を
挽回しようとしたが、
その言葉は猪木会長に
更なる不信感を抱かせたのだ。
『付き合って10日で
結婚ですか?』
猪木会長は冷静な口調で
彼女に質問すると
『正確には
知り合って10日です』と
いらない情報を
付け加えてしまったのである。
猪木会長の中で、
疑念が生まれていた。
立花はこの女に
騙されているんじゃないか?
立花と猪木会長は10年来の
付き合いだが
女性絡みの話を聞いたのは
初めてだった。
『彼女は作らないのか?』
猪木会長に聞かれた立花は
昔から
『別に欲しいとは思わないです』と
世捨て人のように冷めて
言い放っていた。
それが先週、開発チ-ムの木村から
『GODさん、アイドルと
仲良しになったみたいですね?』と
聞いて信じられなかった。
深夜番組でエクシブハンターの
新技をアイドルが
使いこなしていて
GODさんに教えて貰ったと
言っている。
猪木会長はにわかに信じられず
番組から提供された動画を
確認すると
かつて立花との打ち合わせで
新しくゲ-ムを始めた人も、
強い技が使えたら
面白いだろう?と
立花が考えた裏技を
アイドルが完璧に
使いこなしていたのだ。
その技は、あえて発表はせずに
プレ-ヤ-が偶然
見つけられたら
面白いのでは?と考えて
作った技で結局は誰も
見つけられずに、今日まで
未発表だった技である。
間違いなく立花が教えた技だ。
そう猪木会長は確信した。
立花が女性と絡む話を
聞くのは知り合って10年近くで
初めての事で猪木会長も
嬉しかった出来事であった。
そんな立花が
彼女に騙されているのでは?
知り合って10日で、
こんな若くて可愛い子が
結婚をクチにするか?
自分が芸能界で
上がって行く為に
立花の人脈を利用している
だけじゃないのか?
悪く考えてしまったのだ。
『知り合って10日
でもう結婚をするなんて
随分早い話ですね?』と
猪木会長に言われて
絵色女神は困ってしまった。
おとといの日に仕事で
テンパって
泣きじゃくった時に
立花が言ってくれた件を
立花の了解ナシで
他人に話してしまった。
立花が知ったら、どう思うか?
そう考えた時に彼女は
猪木会長に
『立花さんには結婚の話を
喋った事を言わないで
貰っても良いですか?』と
頼んだのである。
そう聞いた猪木会長は
『結婚をチラつかせて、
立花を翻弄させているのか?』と
疑惑を加速させてしまった。
『絵色さんは、私が立花さんを
スカウトしている話は
聞いていますか?』と聞かれて
『はい10億円を払うって話は
聞きました』と
更に疑惑を増やす話を
彼女はしてしまう。
『そこまで知っているんですね』
そう感嘆した後に
『立花さんが我が社に
入ってくれるように
説得してくれたら』
『アナタが芸能界で更に
活躍出来るように私が全面的に
バックアップをしましょう』
そう言ってきたのである。
『バックアップ?』
彼女が不思議そうに聞き返すと
『経済界のトップの知り合いに
頼んでアナタをCMで
使って貰うようにします』
『飲料水、化粧品、
菓子業界、コンビニ』
『各社がアナタをCMに起用して、
毎日アナタの姿がテレビから
流れます』
『必然的にアナタは
トップスターです』
CMで顔が売れて、
名前も売れていけば
認知度もアップされ
芸能界で大活躍は
約束されたようなものだ。
『どうですか絵色さん?』
『立花さんが当社に
来てくれるように
説得してくれませんか?』
『結婚の話まで、出ている
アナタが頼んだら立花さんも
首を縦に振ってくれます』
そう言って彼女に迫ったのだ。
その話を聞いた彼女は
しばらく黙っていて
『今日呼んで頂いたのは、
その話をする為だったから
ですか?』と猪木会長に
冷静に質問をした。
実際は違ったが
猪木会長は
『そうです、絵色さんの頼みなら
立花さんも聞いてくれる』
『アナタは芸能界で大活躍が出来る』
『当社は立花さんを獲得出来る』
『ウィンウィンの
話じゃないですか?』と
猪木会長が力説する。
だが彼女は
『アタシには出来ません』と
下を向きながら答えたのである。
『何故ですか?』
『トップアイドルが
確定するんですよ?』
そう猪木会長は彼女に聞くが
絵色女神は下を向いたまま
黙っている。
『だったら、アナタの実家に家を
プレゼントしましょう?』
そう猪木会長が言った言葉で
彼女が顔を上げ
その話に食いついてきた。
絵色女神には夢があった。
稼いだお金で
両親に家を買ってあげる。
家族7人で2DKでの
生活は厳しかった。
妹や弟には、自分の部屋がある
生活をさせてあげたい。
友達を家に呼べる生活を
夢見ていた。
家のプレゼントは
グラつくほど彼女には
魅力的な話であった。
だが彼女は
『それでもムリです』と
搾り出すような声で
猪木会長に断言したのである。
『これからCMを作る会社と
ケンカをするのは
上手な生き方じゃありませんよ』
そう会長に言われた彼女は
『CMは降板ですか?』と
質問する。
『それは最悪の場合です』と
猪木会長が答えたが
『でも、説得するのはムリです』と
絵色女神は答えを
変えなかったのである。
『今、ここでCM降板になったら』
『せっかく昇り始めた芸能界の道が
なくなるかもしれないんですよ?』
そう猪木会長に言われるが
彼女は
『そうしたら、
またイチから登ります』と
作り笑顔で答えたのであった。
『違約金が発生したりして
芸能界を追放されたりする
可能性もありませんか?』
『それは怖くないんですか?』
彼女を揺さぶる言葉で
会長にそう聞かれた彼女は
しばらく黙っていた後に
『立花さんを失うのが
1番怖いんです』と
会長の目を見て
彼女は答えたのである。
その言葉に驚いた猪木会長が
『芸能界で活躍する為に
アイドルになったんじゃ
ないんですか?』と
猪木会長が質問すると
『最初はそうでした』
『でも今はアタシの中で
立花さんが1番なんです』
そう言って笑って
答えてきたのであった。
猪木会長は思った、立花と一緒だと。
立花をオリファルコンに
入社させる為に
色々と作戦を練ってきたが
どれも失敗してきた。
自由に生きる方が好きだ。
そんな理由で大金を積んでも
立花に入社の件を断られ続けてきた。
オリファルコン社も最初から
大企業だった訳じゃなく
徐々に登り詰めていった会社である。
創業期にエクシブハンターを
発表した頃はクソゲ-と言われて
ダウンロードも伸びずに
社員も次々と会社を去っていった。
会社が倒産寸前だった時に
文句を書いてくるユ-ザ-が
現れた。
毎度、文句を言ってくるが
的を得ている。
彼の意見を反映して
作り直してみるか?
社員が猪木会長1人になった
会社で毎晩徹夜で
エクシブハンターを改良していき
やがて半年が経過した頃
ダウンロードランキングにも
顔を出すゲ-ムへと
進化していった。
会社が順調になれば
金も自然と集まり
それに惹きつけられるように
色々な人も集まってくる。
会社が危機的な時に
逃げ出した連中が
会社が順調だと分かった途端に
金をせびりにやってきた。
人は信用出来ない、金で動く獣だ。
逆に金で動かない奴は
いないと思っている。
いるとしたら立花くらいだろう。
そう思っていたが、
ココにもう1人いた。
芸能界の
トップアイドルという名誉を
ちらつかせても、なびかず
家というプレゼントを、
ちらつかせても
自分の意見を変えない人間がいた。
この2人は同じだ。
そう感じた猪木会長は、
絵色女神が自分の出世欲の為に
立花を利用している訳じゃないと
分かり
『大変失礼致しました』と
深々と頭を下げて
彼女に詫びたのである。
付き合って10日で
結婚をする話を聞いて
もしかして立花は
利用されているのでは?
そんな疑念から
試すような会話をした
一連の自分の行動だった事を
会長が全て説明すると
彼女は
『確かに知り合って10日で
結婚の話を聞いたら
不思議に思いますよね?』と
笑って答える。
『でも、何故おいしい条件を
提示されても、かたくなに
立花さんに入社の件を
すすめるのを
イヤがったんですか?』
猪木会長に聞かれた彼女は
『それは立花さんの
意思じゃないと
思ったからです』と答えた。
『10億円を払うって言われたら
普通は誰でも
その話に乗ると思うけど』
『立花さんは乗らなかった』
『立花さんの中で違うと
思っていたから
お断りしたんだろう』
『アタシは立花さんを
応援したいのでイヤな事を
進めたくなかったんです』
そう彼女は言っていたが、
彼女自身が猪木会長に
言われていたCMの価値が
10億円以上あった事に
気づいていない。
この2人は
お金じゃ釣れないと悟った
猪木会長は1人納得して
笑っていた。
『こんな良い人が
立花さんの奥さんに
なってくれたら私も安心です』と
猪木会長に言われた彼女は
上機嫌となり
『俺の奥さんになるなら
トップアイドルになってくれって
言われただけなんですよ』と
嬉しくなって
またバラしてしまっている。
『我が社所有のマンションが
六本木にあるんですけど
使います?』
立花にも同じ事を聞いて
却下されていたが
絵色女神は立花と違って
『詳しく教えてもらえますか?』と
前のめりで聞いてきた。
猪木会長と和気あいあいな
雰囲気となり
2人が知り合った経緯や
立花が元々、
絵色女神のファンであって
彼のアパートに秘密コレクションが
ある事も喋ってしまっている。
彼女の楽しそうに話す笑顔を見て
『立花と絵色女神が幸せになる為に
全面的に協力していこう』と誓う
猪木会長であった。
『ご歓談中失礼します』
そう言って広報の坂口が
ノックをして
会長室に入ってきた。
『どうした?』
にこやかな会長が
坂口に質問すると
『予定より30分推しています』
『みなさま、
もうお待ちかねです』と
督促するように会長に進言する。
『確かに、話が盛り上がってしまい』
『時間が経つのを忘れていました』
そう言って応接の椅子から
立ち上がった。
『プロジェクトビ-ナスの
打ち合わせに行くとするか?』と
会長が坂口に言った言葉を聞いて
『一つ、お伺いしても
宜しいですか?』と
絵色女神が会長に問いかける。
『何ですか?』
そう会長に聞かれた彼女が
『プロジェクトビ-ナスって、
もしかして?』と言うと
『そうですよ』
『女神のビ-ナスから拝借しました』
『絵色女神を日本中に売り出す
発表会のコ-ドネ-ムです』と
言い放ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます