第18話裸になる女神様 2

『今日で会うのは最後にしよう』

立花がそう呟いた瞬間に


『イヤです、絶対にイヤだ』

絵色女神が取り乱したように

髪の毛を振って拒否反応を示す。


『エクシブハンターは、

電話でも引き続き

教えるから安心してよ』


立花にそう言われた彼女は

『ゲ-ムじゃないです』


『もう立花さんに

会えなくなるのがイヤなんです』

半泣きに近い状態で

立花に強く訴えてきた。


『まるで別れを告げられた

彼女みたいだね?』


『俺達の関係って

何だったんだろう?』

立花が、そう呟くと


『そんな事を女の子に

聞かないでください』


『立花さんにちゃんと説明して

欲しいです』と

泣き出した彼女が説明を求めてくる。


そう言われた立花は

考え込んで呟き始めた。


『女神ちゃんの夢である

アイドルで成功するために

ゲ-ムを教えて応援する』


『確か、最初は

そんな気持ちだったと思う』


『でも、女神ちゃんの

ひたむきな姿に影響を受けて、

自分も変わらなきゃと思い始めた』


『それって、女神ちゃんと

一緒にいる時に

恥ずかしくない人間に

なりたいと思っていたのかも

しれない』


『家電を買いに行く

約束をした日に、

女神ちゃんのLINEのIDが

消えた日があったでしょ?』


『あの日、電気屋で

待っていれば

女神ちゃんが現れると思って

閉店まで待っていたんだ』


『でも、女神ちゃんは

来なかった』


『言わなかったけど、

俺、家まで泣いて帰ったんだ』


その話を初めて聞いた彼女は

声をあげて泣き出した。


『俺の中で絵色女神が段々、

大きくなってきています』


『初めて会ってから

1週間も経っていないのに

不思議だよね?』


そう言われた彼女は

『時間なんて関係ありません』


『アタシも今日一日、

立花さんの事ばかり

考えていました』


そう言われた立花は

苦笑を浮かべ


『でも俺は、

そんな純粋な気持ちの

女神ちゃんを襲ってしまった

最低な男なんだよ』


そう呟いた。


『襲った?』

絵色女神が聞き返す。


『え?』

立花も聞き返す。


『アタシ

襲われていないですよね?』


『アタシが

胸を触って欲しいって言って』


『立花さんが、その通りに

してくれただけですよ』


彼女の、その説明に

立花の頭に疑問符が乱立した。


確かに

『触りたくないですか?』と

聞かれて


誤魔化したら、

人生終わったみたいに落ち込まれて

しょうがなくタッチした。


『イヤなら、止めようか?って

立花さんは言ってくれたけど』


『アタシが離そうとした

立花さんの手を

引き戻したんです』


『だから

立花さんが襲ったんじゃなく、

アタシが襲ったんです』


その説明を聞いて立花が

混乱し始める。


俺は絵色女神に

手を出さないと誓った。


だが彼女からモ-ションを

かけてくる事なんて

微塵も予想していなかった。


だから今回のケ-スだったら

セ-フじゃないか?


そんな事すら考え始めている。


人間は自分に

都合の良い方向に考え易い


正直、立花自身が1番、

絵色女神を

手放したくないと

思っていたのだから。


彼女も立花が

迷い始めていたのが

表情で分かった。


『悪いのは立花さんじゃなく

アタシなんです』


彼女が更に攻勢を仕掛ける。


迷っている立花の頭の中で

セ-フだったんじゃないか?と言う

黒天使派の意見が多くなってきた。


『ちょっと待った』


立花の心の中の白天使が

異議を申し立てる。


『お前、立っていなかったか?』


そうだった。


彼は自分がギンギンだった事を

思い出す。


ドラゴンボールのセルだったら

完全体だ。


その事を思い出した立花が

自分のこめかみを

両手で押さえて狂乱しだした。


事情が分からない彼女が

『立花さん、どうしました』と

心配そうに横に駆けつける。


言えない


涙目で自分の事を

心配してくれている彼女に


『事務的に触るつもりでしたが、

我を忘れて興奮していて

完全体になってました』なんて


そんな不埒な自分なのに

彼女は心配して


『お水を持ってきましょうか?』と

更に配慮する姿を見て、

立花は決意した。


『女神ちゃんゴメン』


『俺は最初は事務的に

触るつもりだったけど、

本当は我を忘れて

興奮していました』


『そんな男は軽蔑するよね』と

カミングアウトしたのであった。


すると絵色女神が

『良かった』と

優しく笑っている。


『立花さんが

興奮してくれたって事は、

アタシは大人の女として

合格って事ですよね?』と

笑顔で聞いてきたのである。


引かないの?


軽蔑しないの?


俺を気遣ってくれている?


ビックリしている立花に

『そういう見えない事は

クチに出してくれないと

分からないから』


『これからは

ちゃんと教えて下さい』と

普通に喋ってきた。


狼になりかけた俺の事を、

彼女は不問に

してくれようとしているのか?


だが問題点はたくさん残っている。


『ファンやマスコミに

バレるかもよ?』

立花が、そう彼女に問いかけると


『それは最初から、

そうだったじゃないですか?』


『スト-カ-事件で

会社にバレそうになった時も

そうでしたよ』


『そんなリスクを乗り越えてでも、

今は立花さんのアパートにいます』


そう言って、

何も問題はないと反論をする。


彼女は立花が言った

『会うのは今日で終わり』発言を

撤回させるために

頭をフル回転させていた。


『これからも、

ここに来て良いですか?』


勝負は今だ、と感じた

彼女が立花に迫る。


『でも、今日の事があったから』

『俺は女神ちゃんを

大人の女性として意識しちゃうよ』


完全には

吹っ切れていない立花が、

そう言うと


『私はむしろ、その方が嬉しいです』


『これからも、

ここに来たいんです』と

正に女神のような表情で

答えてきたのである。


だが、ここから

絵色女神は脱線していく。


そもそもが寝ぼけていた立花が

自分の胸を触ったのは、

自分の事が

好きだったからでは?と思い


越中美桜に相談をしていたが、

手を出されていないと言う事が

相手にされていないと

論点がズレて


寝ているベッドに潜り込んで、

立花に手を出してもらい

確認する事で


大人の女と見られているか?が

重要になっていって

しまっていたのであった。


肝心な立花が自分の事を、

どう思っているか?は

通り越して


立花が自分を相手に

欲情して興奮してくれた事が

もの凄く嬉しくなって


今度は絵色女神が

暴走を始めたのである。


『なら、これからもウチに来る?』

立花のその言葉で

関係復活状態となった感じた、

絵色女神は大喜びする。


立花から出た、

前言撤回する発言で

元のさやに戻ったと思った

彼女が

『はい、これからもお邪魔します』と

答えて、

事件は終了を迎えたかのように

見えた。


訪問許可が復活した事の喜びと、

立花に女性として見られた事で

浮かれてしまい


『アタシも来月には誕生日が来て、

未成年じゃなくなりますから』


『ちゃんとエッチが出来ますよ』と

絵色女神が爆弾発言を

してきたのである。


『俺たちエッチをするの?』

その発言に驚いた立花が

驚嘆しており


嵐が止んだと思った

自由が丘のアパートに、

また火種が発生したのであった。


『アタシが未成年だから

手を出さない』


『だったら

未成年じゃなくなったら』


『普通にエッチが

したいんじゃないんですか?』と

彼女が確認をしてきたので


立花は自分の考えを

伝える事にした。


『俺はエッチする相手は、

結婚する相手とするもんだ、と

思っている』


『女神ちゃんが1

8歳になったからって

すぐにエッチの相手に

なるとは考えていないよ』


そう自論を伝えると


『18歳になったら

解禁なんだから、

良いじゃないですか?』と


どっちが男で、どっちが女か

分からない話の展開と

なってきている。


普通は男が嫌がる女性に

迫っていき、

あわよくば的な展開だが


この2人の場合は

男が消極的で女性が

前のめりになっている。


『女神ちゃんは

エッチがしたいの?』


立花も訳が

分からなくなってきており、

そんな事を聞くと


『エッチが

したいと言うのじゃなく』


『立花さんが

したいのを我慢しているなら』


『アタシで

良かったら、と思って』と

恥ずかしそうに説明する。


その話を聞いた立花は

彼女の優しさが嬉しくて


『俺の昔話をしても良いかな?』と

彼女に聞くと、

彼女は黙って頷いた。





立花も最初から

人付き合いを避けていた訳じゃ

なかった。


むしろ社交的で、

友人は多い方だったと思う。


長野県の高校を卒業して

東京の大学に進学する為に上京した。


入学した直後に入ったサ-クルで

同い年の彼女が出来た。


2人はすぐに深い中になって

付き合い始める。


彼は1人暮らしをしていたので、

授業のない時は彼の

アパートに入りびたりだった。


事件が起きたのは

彼が夏合宿で2週間ほど

東京を離れて東北から

帰って来てからの事で

彼女が別れて欲しいと

言いだしたのだ。


若いカップルには、

よくある事で

1週間も経つと

ヨリを戻す事が多い


毎日ではなかったが

定期的に連絡も入れていた。


連絡が少なく

多少文句は言われたが


自分に非はない、

たかをくくっていた立花だが

彼女は、それ以降

彼の元に現れる事なく

大学を辞めてしまった。


ちゃんと別れた理由を知りたい。


謝って済むなら土下座でもする。


だが彼女に連絡を取りたいが

音信不通で連絡が取れない。


自分の行動の全てを悔やんだ。


彼女の大学の女友達にも、

片っ端から情報を

聞きまくったが

何一つ情報は

入って来なかった。


それから2ケ月が経った頃


失恋の傷が癒え始めた立花が

大学の食堂でランチをしていた時に


自分の後ろの席に

座っていた女性グループの

喋っていた会話が

偶然耳に入ってくる。


『高田伸子って1年がいたじゃん?』


それは別れた立花の

元彼女の名前だ。


『あの子みたいになったら

女も、おしまいだよね』


『遊ぶならスマ-トに遊ばなきゃ』

そんな話が聞こえてきてしまい、

その女性グループに詰め寄り


彼女達の知っている情報を

聞き出した。


彼女達も噂で

聞いただけだと

前置きしながら、話し始める。


夏休み期間中、

大学のサ-クルで

集まった飲み会で、

彼女がわざと負けるように

仕組んで罰ゲームで

彼女に大量に一気飲みを

させていた。


意識朦朧とした彼女を

担いで、1人のアパートに

連れていき


全員で朝まで

彼女をもて遊んだのだ。


サ-クルのメンバーにも

彼女が居なくなった時に

聞いたが全員、

知らないと言う

連中ばっかりだった。


すぐにサ-クルの事務所に行き、

知っていそうな連中に

聞きまくると、

その噂が事実だと分かる。


加担した全員を聞き出して、

手の拳の皮がムケるまで

全員を殴った。


警察沙汰にならず

大学に知られなかったのが

不思議なくらいだ。


彼女は被害者じゃないか。


彼女に会いたい。


彼女と1番仲の良かった

女友達に彼女の連絡先を

聞いたが、

頑なに拒否された。


事情は全て知っている。


しつこく粘って、

根負けした女友達に

実家の連絡先を聞き出せた。


そこからは急いで

彼女の実家のある栃木県に

向かうとすぐに実家は分かり

家を訪ねると、

やっと彼女に会えた。


突然の彼の訪問に

驚いていたが、

家の近く河原の土手に

彼を誘導する。


丸3ケ月振りの再会だが、

お互い何も言葉を発しない。


川のせせらぎだけが

聞こえていた時に


『本当に、ごめんなさい』と言って

彼女が泣き出した。


立花は泣いている彼女を

抱きしめているが、

彼女に何も言わなかった。


言葉を出す事で彼女の

苦痛が増えると

思っていたからだ。


しばらく経って泣きやんだ頃

『こっちで暮らすの?』と

立花が聞くと


しばらくの沈黙の後


お腹をさすりながら


『1人じゃ無理だから』と

答えた。


妊娠?


頭の中が真っ白になる。


彼女は悲しそうな表情のまま

作り笑いをして


『日にちを何度も計算したけど』

『立花君じゃないんだよ』


そう言って嗚咽して、

むせび泣いてしまった。


友人だと思っていた

サ-クルの奴らは、

犯罪者だった。


好きだった彼女は

目の前から消えていった。


信じてたモノは何も

残らなかった。



『信じていたから裏切られる』

『だったら誰も

信じなければ良い』


『それから俺は

他人との接触を

避けるようになっていったんだ』


『性欲だけで動く男を軽蔑して』

『女性との接触も

極力避けて生きてきた』


『もし、次に付き合う

女性がいたら

結婚する人にしたい』


『だから軽率に女性に

エッチな気持ちを

持っちゃいけない』


そう聞いていた絵色女神は

自分が今日した事が、

立花の気持ちを無視して


自分勝手に土足で

踏み込んでいたと思った。


『ごめんなさい』

『立花さんの気持ちも考えずに

酷い事をしてしまいました』

そう泣きながら謝りだす。


『全然謝る事じゃないよ』

立花は泣いている

彼女の頭を撫でながら、

語りかける。


『そんな事があったのに

アタシ、

立花さんを挑発してしまって』

そう言って更に自分を攻める彼女


『女神ちゃん、

この話には続きがあるんだ』

立花がそう言うと彼女は

顔を上げた。


『女性に全く興味を

持っていなかった俺なんだけど』


『ある日テレビで映っていた

アイドルに釘付けになったんだ』


『テレビで一瞬だけしか

映らなかったんだけど』


『可愛いくてビックリしてさ、

すぐに

ファンになっちゃったんだよ』


立花が話し始めた内容を聞いて、

彼女は複雑な気持ちになっている。


ツラい思いをして

人間不信になった立花を

夢中にさせたのは誰?


アタシが知っている人なの?


『誰だか見たい?』

立花が笑いながら聞くと


『見たいです』と怒りながら、

彼女が答える。


『ちょっと待ってて』

そう言って立花が

押入れの奥から

段ボール箱を出してきた。


『見て良いよ』


立花に、そう言われたが

彼女はすぐに段ボール箱を

開けられなかった。


本当に可愛いの?


可愛いくなかったら

許さないから


変なライバル心を燃やして、

彼女が段ボール箱を開けると


そこには権太坂36で

彼女が写っている雑誌や

写真集、CDの山だった。


『権太坂の

誰のファンなんですか?』と

彼女が聞いてくる。


立花は彼女の耳元で

『絵色女神って子』と囁いた。


『うそ?』 


思わず、そう言ってしまったが


確認すると確かに

自分が加入してからの

権太坂の写真ばかりだ。


『立花さん、アタシの事を

知らないって

言ってませんでした?』


泣き顔が驚いた顔に

変わっている。


『ファンだったって

恥ずかしくて

言い出せなかったんだ』


『だから最初にメ-ルを見た時は

信じられなかったよ』と

笑いながら答える。


立花が自分の

ファンだった事も信じられないが


立花を女性不信から

救い出したのが

自分だった事も信じられない。


『本当はバラすつもりは

無かったんだけど』


『女神ちゃんがあまりにも

自分を責めるから、

つい喋っちゃったよ』

そう照れながら答える。


『アタシでも

役に立てたんですか?』


彼女が立花の目を見ながら

聞いてきた。


『この一週間、

絵色女神さんのおかげで

頑張れました』


『絵色女神さんが

今の俺の支えです』

立花がそう言った瞬間


彼女は立花に抱きついた。


『女神ちゃん』

立花が、そう語りかけるが

彼女は答えない。


『これも北海道のハグ?』

立花が質問すると


『これは違います』と

彼女が答える。


『じゃあ、これは何なの?』

立花がそう聞くが


『アタシにも分かりません』と

抱きついたまま彼女は

そう答えたのだった。

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