第47話蝶野正子、再び



サニーミュージック本社ビルで

10時から始まった会議は

権太坂36に携わる人が

全員集まる大規模なモノになった。


運営トップの

山田プロデューサーの司会で

会議が始まると、冒頭に

『みんな朝のワイドショーは

見たよな?』と

参加者全員の顔を見渡して

確認する。



『女神が取り上げられて、それに伴って


権太坂36が何回も紹介されている』



『佐山さんが作ってくれた新曲の


パ-ト割も出来た』



『今回の波に乗れなかったら、次に


売れるチャンスなんて無いゾ』



山田プロデューサーの言葉に


権太坂のメンバー全員が頷く。



韓国発のアイドルの台頭が激しく


地下アイドルを含めて


イマイチ売れていないアイドルグループは


バタバタと解散ラッシュになっている。



アイドル戦国時代な事は全員理解してる。



佐山の作った新曲で音楽番組の出演回数も


大幅に増えるだろう。



次に売れるのは自分だというのは


メンバー全員の共通目標だった。



『前から話で出ていたから


分かっていると思うが今回の新曲は


女神がセンターで決まっている』



『これに異論のある奴はいるか?』


山田プロデューサーが権太坂の


メンバー全員を見渡すが


全員納得している顔だった。



テレビでの取り上げられ方、


佐山サトシが指名しての楽曲提供



ついさっきの神楽坂の船木とのバトルでの


立ち振る舞い



メンバー全員が絵色女神をトップとして


認めていた。



『そこで女神に、お願いがあるんだ』


山田プロデューサーがそう言った言葉に


女神がキョトンとしている。



『お前、InstagramもTwitterも


登録者数が増えているけど』



『全く更新してないだろう?』



女神は夏休みの絵日記も苦手だった。



『すいません』


テヘペロ状態の女神が謝ると



『権太坂の他のメンバーの事を


発信して欲しいんだよ』と


プロデューサーが頼んでくる。



TwitterやInstagramで他のメンバーと


楽屋でふざけているショットや



レッスン場ではしゃいでいる姿を


アップしている例の奴だ。



『写真を含めて原稿はコッチで準備するから


女神のアカウントで情報発信を


していきたいんだ』と


趣旨を説明してきた。



『わかりました』


権太坂の先輩達を有名にするのには


女神も賛成だったので


心よく引き受けたのである。



『フォーメ-ションも作り直すぞ』


プロデューサーから新たな計画が


色々と説明をされて


女神がセンターとなる


新生権太坂36が動き始めたのであった。



場所は変わって立花の会社



立花は通勤電車の中でネットニュースを


読みまくっていた。



関心事は当然、女神の事だ。



全世界の検索1位、世界がやっと


女神の可愛いさに気づいたんだ。



ネクストブレイク芸人に早くから目を


つけていたお笑い通の気分だ。



立花は会社の自分の席でニヤついていた。



昨夜、女神の全てを見た優越感は


言葉では言い表せないだろう。



透き通るような白い肌や


滑らかなボディーライン



小さすぎず大きすぎない豊かな膨らみは


ゆっくりと触っていたので


指はしっかりと感触を覚えている。



目を強く閉じて苦しそうにしていながら


甘く漏れてくる吐息を聞いていた。



世界中が可愛いと認めた美少女が


自分の彼女という現実は


世界制覇を達成した者と同じだろう。



1人の世界に浸って至福の時を満喫していた


立花の席に女性が歩いてきた。



蝶野正子だ。



彼女のトレ-ドマ-クであるセクシーな


ス-ツではなく



リクルート学生が着てそうな


おとなしめな、どちらかと言うと


地味な感じな紺のス-ツである。



スッポンを食べに行った日に



取引先の男がいやらしい目で自分を


見てくるのがイヤだ、と


彼女が言った言葉に



『蝶野が自分の本質を見て貰いたいなら


まずはス-ツを変えないとダメだ』



『色っぽい蝶野に惹かれて集まる男は


色っぽい事しか期待しない』



『仕事が、どんなに優秀でも認めて


貰えないと思うんだ』と


酔っ払いになる前に語っていた立花である。



この後、立花もセクシース-ツに


撃沈したが、説教は酔う前だったので


しょうがないだろう。



だが立花のアパートに行っておきながら


チャイムが鳴って逃げ出した


自分の惨めさを反省した彼女は


考えを改めてセクシー路線を卒業した。



仕事の出来る先輩を尊敬する後輩で


立花の持つ取得困難な国家資格を


取る為に質問する



このスタンスなら、話しかけても


不自然じゃない



そう考えての今朝の行動だったが



昨夜の女神の裸を思い出して


一人で悦に入っている立花に


話しかけられずにいた。



『立花さん、ちょっと良いですか?』


蝶野が立花に話しかけて彼は


慌ててコッチの世界に戻ってきて



『どうした?』と動揺しながら


彼女に答えた。



『この前に話をした国家資格試験の


参考書の件で』



『どこの会社の本が良いのか?』


『立花さんの意見を聞きたくて』と


蝶野が尋ねてきたのである。



『俺が試験を受けたのは3年前だから』


『情報としては古いんだよ』


立花がそう答えると残念そうな顔をして



『そうですか』と蝶野が小さな声で


答えた。



この前は高級料理をご馳走になったし


勉強熱心な後輩の頼みだ。



『日曜日の午後なら本屋さんのハシゴに


付き合えるけど、予定はどうかな?』



その発言に蝶野は驚いて


『私は予定はないですけど』


『立花さんは彼女とデ-トじゃ


ないんですか?』と質問をする。



『大丈夫、向こうは土曜日も日曜日も


仕事だから』と答えてきた。



彼女の存在は、やはり否定はしないんだ。



『だったら、お願いしても良いですか?』


蝶野としては予想外の収穫だった。



土曜日、日曜日が休みじゃないなら


スレ違いが多くなり


やがて疎遠になっていく可能性がある。



『場所とか時間とか細かいことは後で


連絡して決めたいんですけど』



『私、立花さんのLINEを知らないので


教えて貰って良いですか?』


蝶野に、そう聞かれた立花はすぐに


立花と連絡先を交換した。



立花のLINEをゲット出来ただけで


喜んでいる自分に驚いてる蝶野がいる。



連絡先は聞かれるのが当たり前だったが


自分から聞くなんて



顔は赤くなってないか?



そう気になった蝶野はスマホをかざして


『後で連絡します』と言って


立花の机から離れて行った。



蝶野がいなくなり


仕事の準備をしようとした時に


棚橋がやって来た。



今の蝶野とのやり取りを見ていて


からかいに来たんだな



そう思って立花が構えていると



『今日の夜って空いてないか?』


『もし、予定がないなら一緒に飲みに


行きたいんだけど、どうかな?』と


棚橋が飲みに誘ってきたのである。



今の蝶野とのやり取りを突っ込まない?



そもそも、いつもの棚橋らしさである


無駄な元気がない。



棚橋に飲みに誘われたのも久しぶりだ。



誘っても毎回断る立花に疲れて


飲みに行く事すら諦めていたのだ。



明日は土曜日だし、女神も今夜は


終了時間が遅いと言っていた。



『いいよ、行こうぜ』



その立花の承諾に棚橋が驚いている。



『ムリなら、いいよ』


誘ってきといて棚橋が変な事言うので



『何だよ飲みに誘ってきたのはお前だろ』


『棚橋に誘われて毎回断るのは


悪いと思ったし』



『何か、お前に元気がなさそうだから


たまには飲みに行くのもアリかと思ってさ』



そんな立花の言葉に棚橋は目を閉じて


つらそうな表情をした。



『おい大丈夫か?』


顔を歪めた棚橋を心配して立花が聞くと


目を閉じたまま


『大丈夫だ』と答えて


その場から離れていく。



『あんな状態で飲んで平気なのかね?』


棚橋を心配する立花の独り言は


棚橋には聞こえない。



『立花、ゴメン』



自分の席に戻る棚橋は心の中で


何度も立花に謝っていたのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る