第11話 女神様が行方不明 2
マネージャーや男性スタッフが
右往左往していて時間になっても
打ち合わせは始まらない。
ヒソヒソ話で
『女神ちゃんがスト-カ-に
ロックオンされたらしいよ』と
会話している声が
絵色女神の耳にも聞こえてくる。
当人はここまで大騒ぎに
なるとは思っていなかった。
すぐ横にいた越中美桜は
『女神ちゃん平気だったの?』と
心配しながら、
スト-カ-騒ぎの件は
さっきまでの話の
翌日胸タッチ男の件では?と
疑いの眼差しをしており
絵色女神にも、
それは伝わってきており
ここで美桜にさっきまでの事を
バラされたら、
イッカンの終わりだと思い
『美桜ちゃん、後でちゃんと
説明するね?』と
ハラをくくったのであった。
ザワついている中、
レコード会社のディレクターが
『打ち合わせを始めます』と
会議を強行スタートする。
新曲のセンターとサブ、
パート担当、コ-ラスの
割り振りをメンバーごとに
説明している時に
マネージャーさんに
絵色女神だけ呼ばれて
中抜けとなった。
『打ち合わせは良いんですか?』
マネージャーと廊下を
歩きながら絵色女神が聞くと
『女神ちゃんは
今回コ-ラスだから、
それほど重要じゃないのよ』
『打ち合わせより
ファンが家に来ている方が
問題よ』と言って
先を急いでいる。
別のフロアに着くと
会議室のような場所に通され、
事務所の関係者や
スタッフが何人か集まっており、
彼女に椅子に座るように促す。
権太坂36の
プロデューサ-である山田恵一が
『事情は聞いた』
『貼り紙が玄関ドアに
貼られていた事以外に、
何か異変はなかったか?』と
質問をしてきた。
そこからは何時に気付いたか?
昨日は何時に家に着いたか?
どのルートで家に帰ったか?と
彼女に怒涛の質問責めが
続いていく。
ボロが出ないように
咄嗟に色々と考えて、
その場を取り繕う。
決して立花の家に
泊まっていた事は
バレてはいけない。
女性アイドルにとっての
絶対的な不文律
『彼氏、恋人は厳禁』
権太坂36も例外ではなく、
メンバー加入の際に
誓約書にサインをしていた。
バレたらグループを
辞めさせられる。
おそらく立花にも迷惑が
かかるだろう。
絶対にバレない為に
彼女は上手く、
太刀振舞っていた。
結果、事務所の関係者は
彼女の話を全面的に信用し、
話し合いを続けている。
大人たちの話し合いの流れで
ピンチは免れた
彼女はそう思った。
昨日の帰り道を
尾行されたのでは?
発信機や盗聴器を
付けられているのでは?
ファンが家を突き止めた方法を
色々と考えている中で
『女神ちゃん、
スマホを見せてくれる?』
あるスタッフが
信じられない事を言ってきた。
『何故スマホを見せないと
いけないんですか?』
驚きを隠しながら
彼女が質問すると
『最近、ウィルス入りの
アプリが流行っていて』
『そのウィルスがGPS情報を
発信しているらしいんだ』
『スマホに変なアプリが
入っていないか?』
『専門家に見てもらう為に
スマホを預けないと
ダメなんだよ』
その説明を聞いて
彼女は凍った。
この2日間、彼女のスマホは
立花と連絡し合った
LINEでいっぱいだ。
自分が寝ている時に
優しく話しかけられた
動画はお守りとなった。
極めつけは待ち受け画面で、
今朝撮ったばかりの
立花と顔を近づけた
ツ-ショットだった。
スマホを見られたら
全てが終わる。
幼い彼女の知識でも、
その事は充分に予想出来た。
『女性にスマホを
見せてと言うのは、
コッチもツラいんだけど
判ってよ?』と
男性スタッフが言って、
逃げられない状況を
作ってくる。
スマホを渡した瞬間に
立花とのツ-ショットを
見られてしまう。
困っている彼女に
別のスタッフが
『スマホに見られたら
マズいのがある?』と
確信をつく質問をしてきた。
そうです、なんて
クチが裂けても言えない
『見られちゃマズい写真とか
あったら削除してからでも良いよ』
『水着姿とかがあって
流出したら、マズいから
今のうちに消しておいてよ』
そう言われて咄嗟に
『下着姿とかもあるんです』と
彼女が言うと
男性スタッフ同士が
顔を見合わせた後
『隣の部屋に行って、
早く消してきちゃって』と
促してきた。
一刻も早く1人に
なりたかった彼女は
『わかりました』と
言って席を立ち、
隣の小さな会議室に移動する。
心臓がドキドキしている。
1人になった彼女が
改めてスマホを見ると、
立花とのヤリ取り以外は
マズいデ-タ-は無かった。
むしろ、立花との
デ-タ-だけが大事だった。
確認している時間が
長かったようで
『女神ちゃん、終わった?』と、
スタッフが呼びに来てしまった。
『もう少しです』
返事をしてみたが、
何も終わっていない。
スマホを見られたら全てが
終わってしまう。
そう感じていた彼女は写真や
動画を削除し始めた。
LINEは一つずつ
消すしかないか。
そう思っていた時に
『女神ちゃん、
急いで戻って来て!』
男性スタッフがノックもせずに
部屋に入って来た。
『キャッ 』
ビックリした彼女は
間違ってLINEのアプリを
削除してしまったのだ。
あたふたしている彼女を
男性スタッフが呼び、
元いた部屋へと呼び戻される。
『これからマンションに
行くから、一緒に来てくれ』
『部屋の中に入らないと、
いけないだろうから
立ち会って貰いたいんだ』
別の男性スタッフに、
そう言われて本社ビルから
幡ヶ谷にある
会社が借りてくれている
マンションへと
向かう事となった。
LINEのアプリが削除された事を
知らずに。
かたや仕事に励んでいる
立花はテキパキと仕事をこなして
午前中の分は
予定より早く終わろうとしていた。
昨日と同じ失敗を
しないように、
1時間ごとにスマホは
確認している。
午前中は新曲の
打ち合わせと言っていたから、
連絡が出来ないのだろう。
そう軽く考えて
仕事をこなしていき、
自分の会社に昼ご飯を
食べに戻って来た。
立花の会社には
社員食堂があるので、
時間がある時には
安く済ませる為に皆んな、
そこで食べている。
立花もAランチを食べながら
スマホをいじりだした。
たまには俺から連絡を
入れてみるか
今日は残業が無いので
予定通り、家電を買いに
行ける事を報告しよう。
そう思ってLINEのアプリを
起動させる。
彼女に連絡を入れようとすると
『メンバーがいません』と、
なってしまった。
アプリがおかしくなったのか?
そう考えて、改めて
LINEを起動させるが、
やはり『メンバーがいません』と
なってしまう。
いやいや、メンバーがいませんって
スマホが静電気でバグったんだ
そう考えて電源を
落として再起動させるが、
結果は同じだった。
行方不明?
すぐにスマホで原因を
検索してみる。
『相手の方が退会してしまったと
思われます』と出ている。
ブロックされているんじゃなくて
退会?
もう連絡できないの?
俺の前から消えた?
放心状態の立花を
棚橋が見つけて、
同じテ-ブルに座った。
『絶好調な立花さんは
ランチタイムに
メ-ルチェックですか?』と
いつものように茶化すが、
朝のような返しが戻ってこない。
不思議に思った棚橋が
『立花どうした?』と聞くと
『女神様が消えた』と
魂が抜けた人のように呟く
『女神様?』
『昨日も泊まったって言う女か?』
そう確認すると立花が
静かに頷く
今日、電気屋に家電を
買いに行く約束をしており、
残業が無い事を報告しようと
LINEをしたら相手が
退会していた。
チカラ無く立花が説明すると
『不法就労で
強制送還されたんじゃねぇの?』と、
まだ相手が外国人と
決めつけて話すが
立花からは返しが戻ってこない。
『相手のLINEに
連絡がつかなくなるなんて、
しょっちゅうだろ?』と
棚橋が言った言葉に
『そういう時って、
どうするの?』と
立花が急に食いつき
棚橋に質問すると
『どうにもならない、
行方不明のままだ』と答えて、
立花は撃沈する。
『逃げられたら、それまで』
『男と女なんて、
そんなもんだよ』と
棚橋が遠くを
見るような目で語ってきた。
『でも約束したの、
ついさっきだぜ』
『それで音信不通になるか?』
納得がいかない立花は
Aランチに手をつける事もなく
嘆いている。
『女なんて、いくらでもいる』
『次行こうぜ?』
『どうせブスだったんだろ』
棚橋がそう言って慰めていると、
立花が自分の携帯を
目の前にかざした。
『何だよ?』
何も言わずスマホを
出してきた立花に聞くと
『見てみろ?』
そう言ってスマホを更に
前に差し出した。
友人の別れた彼女なんて
興味はない
どうせブスだろ?
そう思いながら
立花のスマホを見ると
立花と顔を
寄せあっている女性
よく見る
『どひゃ〜、
めちゃ可愛いじゃんか?』
食堂中に聞こえる絶叫で
騒いでいるが、
立花は制止しない。
『なんだ、この可愛いさは?』
『学年で1番、
いや学校でも1番だろ』
『この女が2晩連続で
泊まったのか?』
そう言って、やたら興奮気味で
一方的に喋っているが
立花の耳には入ってこない。
あの子が俺に何も言わず
消えるか?
今朝だって、
今夜の家電デ-トを
あんなに楽しみに
していたじゃないか?
こちらから連絡が
出来なくなった今、
残っている可能性は
『今夜の家電購入デ-トだ』
18時にラジオ番組の収録が
終わると言っていた。
自分も間に合うように
仕事を片付けて、
定時に帰るしかない。
頭の中で整理が出来た立花は、
目の前のランチを急いで食べて
『何処で知り合ったんだ?』と言う
棚橋の声を無視して食堂を後にした。
それからはスマホに連絡が
入らないか、
気にしながら
午後の仕事を片付け
朝の宣言通りに
定刻に退社したのであった。
自由が丘駅に向かうまでの間、
ヤフーニュースで
権太坂36に
事故が無かったか?を
調べたり
絵色女神の
インスタグラムを見て、
更新されていないか?と
色々と調べてみたが
彼女に関する情報は
何も出てこなかった。
不安だけが増幅していくが、
やがて自由が丘駅に着き、
走って改札を抜けて
自宅アパートまで走って向かう。
時間はまだ18時になったばかり、
彼女の話ではラジオ番組の
収録の終了時間なので
まだ自由が丘には
来ていない筈だが、
もしかしたら
昨日のように
アパートに居るのでは?
そんな、かすかな期待を胸に、
走り続けてアパートに到着をした。
急いで鍵を開けて中に入るが
誰もいない。
連絡が入っていないか?
何度も確認したスマホの
待ち受けは
この部屋で今朝撮った
2人のツ-ショット写真だ。
約束した場所は電気屋だ、
ここじゃない。
そう考えて、
今度は電気屋へと向かう。
ス-ツ姿のサラリーマンが
全力ダッシュで走っているので、
電気屋に着いた頃には、
汗だくで息を切らしている。
急いで店舗の中に入って、
キョロキョロと人探しを
しているが
絵色女神はいない。
2階のフロアも
店の端から端まで
歩き回ったが、
彼女の姿はなかったのである。
まだラジオ局から
到着出来る時間じゃない
自分に、そう言い聞かせて
店舗の入り口へと向かう。
この店の出入り口は
一ヶ所だけだ、
ここで待っていれば会える筈だ。
そう考えて、
そこから彼女を待ち続けていた。
再会出来たら何て言おうかな。
突然連絡出来なくなって
ビックリしたよ!
いい加減しろよ、
急に消えるなんて!
色々とシュミレーションを
頭の中でしているが、
若い女性が来店すると
すぐに目で追ってしまい、
時間だけが経過していった。
やがて店内放送で
『蛍の光』が流れてきて
閉店時間が近づいて来た事を
暗示し始めている。
ドラマなのでは、
閉店時間ギリギリに
ヒロインが現れて
主人公と抱き合うが
現実は非常で、
彼女は現れることなく
電気屋は閉店を迎えた。
終わったな
この2日間は楽しかった。
好きになったアイドルが
自分の家に来た。
彼女には感謝しかない
そもそも何の契約も制約も
決めていなかったじゃないか。
そう自分に
言い聞かせているが、
大粒の涙が溢れていく。
トボトボと歩き、
アパートに着いた時間は
20時30分となっていた。
真っ暗な部屋に入り、
ベッドで横になった。
背広からスマホを
取り出し大好きな
エクシブハンターを
起動させる。
『元々、俺にはコレしか
なかったんだから』
そう言った時に気づいた。
絵色女神と
知り合ったキッカケは
ネットゲ-ムじゃないか。
『いつもブロックしていた
メ-ルボックスを
解除していた時に』
そう言って
エクシブハンターの
メ-ルボックスを
解除する操作をした。
すると1分後にメ-ルが届く。
差し出し人はビ-ナス
その名前を見て、
急いでメ-ルを開封する。
『ごめんなさい、
間違ってLINEのIDを
消しちゃいました』
『これが新しいIDです』
これで絵色女神と繋がった。
メ-ルを見て立花は
疲れがドッと出て、
身体が溶けていく感じがする。
呆けている場合じゃない、
すぐに彼女の新しいIDを
登録して連絡を取った。
『立花さん、ごめんなさい』
『全然、連絡出来なくなって
大変だったの』と
彼女が泣きながら
電話をしてくる。
そして朝イチに
マネージャーに
報告してからのスマホを
調べるまでの流れを
説明し始めたのであった。
本社を出てからは
事務所スタッフを
引き連れて
幡ヶ谷のマンションに向かい
盗聴ハンターの専門業者を
呼んで彼女のマンションの
部屋を大捜索する。
盗聴機や発信機が出す
特殊な電波を部屋の中で
探し始めると、
すぐに部屋にあった
ぬいぐるみが反応を示した。
『これは?』
業者が彼女に聞くと
『この前、ファンの方に
貰った物です』と説明する。
『この。ぬいぐるみを
解体しても良いでしょうか?』と
聞いてきて
彼女が無言で頷くと、
すぐに専門業者が
カッタ-でぬいぐるみの
腹に刃を入れた。
中からスポンジが溢れてきて、
その中からカランと音を立てて
床に転がる機械。
発信機だった。
プレゼントにエアタグや
発信機を潜り込ませる
スト-カ-対策で
事務所サイドが
アイドルに送られてくる
手紙やプレゼントは
全て電波チェックや
金属探知機で調査するのだが
彼女はテレビ局から出る時に
出待ちをしていたファンから、
直接手渡しでプレゼントを
受け取ってしまっていたのだった。
ベテランの先輩達は
手渡しされたプレゼントも
事務所でのチェックに回すが
新人である絵色女神は、
そのチェックを忘れて
直接家に持ち込んで
しまったのである。
家がバレた原因は分かった。
他に怪しい物が無いか?
その後、マンション内を
徹底的に調べたが
結果はシロだった。
後は引越し業者を手配して、
会社が探してくれた
ウィ-クリ-マンションへと
荷物を運び込み、
20時過ぎに、
やっと1人になれた、との事だ。
『スマホの調査はどうしたの?』
立花が質問すると
『聞いてくださいよ』
『その専門業者の人が、
アタシのスマホの設定欄にある』
『インストールしている
アプリ一覧を確認して』
『大丈夫ですね、って』
『20秒で終わったんですよ』
『動画も写真も全部消して』
『LINEも、いつのまにか
消えていたのに』
『20秒で終わるなら、
消さなかったのに』と
ご立腹で畳み掛けるように喋る。
『うん、うん』と
彼女の話しに相槌を
打っていた立花だが
『消しちゃった動画や写真なら
復活出来るよ』と言うと
『本当ですか?』と
泣き声で確認してくる。
『PCデポって言う
パソコン屋さんだと、
消しちゃったデ-タ-を
復旧してくれるよ』と言うと
『絶対に行きます』と
熱く答えてきた。
『朝撮った写真なら
今から送るよ』
立花に、そう言われた彼女は
『本当に嬉しい』と
感激している。
電話番号や
メ-ルアドレスも知っていれば、
復旧も早かったと思い
お互いの連絡の取れる
連絡先を全て交換したのであった。
『今日、電気屋さんに
行きたかったな』
絵色女神がポツリと呟いた。
『電気屋になら、
いつでも行けるでしょ?』
『あの店だったら、
何処に何があるか
完璧に把握したから』
『いつでも案内してあげるよ』
立花がそう言うと
『もしかして今日、
電気屋さんで待っていて
くれたんですか?』と
申し訳なさそうな声で
彼女が聞いてくる。
『そりゃあ、連絡も
取れないから』
『約束していた電気屋に
行くしかないじゃん』
笑いながら説明する立花に
『本当にごめんなさい』と
彼女が謝ってきた。
『今日の事は
不可抗力だったから、
しょうがないと思うよ』
『でも、もし』
『居なくなる時は、
さよならを言ってから』
『俺の前から、
居なくなって欲しい』
そう立花が言うと
『絶対に居なくなりません』と
彼女が強く断言をする。
経験上、絶対は無い事を
立花は知っていたが
『俺、泣いちゃうから
消えないでね』と、おどけて
連絡のやり取りを
再開出来た喜びに
浸っていたのであった。
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