第10話女神様が行方不明 1

アパートに戻りコンビニで

買ったサンドイッチをつまむ2人


テレビでは朝の情報番組が

流れており、報道やスポーツ、

そして芸能ニュースが放送されていた。


そのニュースの一つが

韓国発の女性アイドルグループが

東京ド-ム公演をしたもので


彼女は食べるのを止めて

食い入るようにテレビを見ている。


『やっぱりライバルは気になる?』

何気ないつもりで

立花が言った言葉で、

彼女が現在のアイドル業界を

熱く語り出した。


自分達の先輩グループに

『神楽坂36』『談合坂36』がいて

3番目として『権太坂36』が

存在している。


今のところ、

36グループがトップ集団だが、

コロナウィルスが収まってきてから


韓国グループが次々と

日本デビューを果たしてきており


元々、活躍していたABC41を

筆頭に一大勢力である41グループ


歴史が古いイブニング小娘の

事務所の複数のアイドルグループ


アニメとコラボしている

アイドルグループも多く登場してきており


さながら昔の

戦国時代のような状態で

群雄割拠が続いているとの事だった。


36グループでも神楽坂36は

別格で出演番組や雑誌の

取り上げ量、

宣伝費用は権太坂36の2倍以上。


グループのスタートとして、

神楽坂36の補欠グループとして

談合坂36が出来て


さらに予備軍として

権太坂36が出来た経緯があった。


レコード会社での扱いも低く、

神楽坂のアルバムで

不採用となった楽曲が


次の権太坂36の新曲に

使われる予定らしく、

ヒエラルキーの底辺な事は

彼女達も分かっているらしい。


アイドルグループに

小さい頃から憧れて、

やっと入れた芸能界だが


17才の彼女を取り巻く現実は

厳しいものだった。


だが一通り喋りきった後には

スッキリしたようで


『でも頑張っていきますよ』と

腕を上げて、

チカラこぶを作るポーズをする彼女


その姿を見ながら

『何とかしてあげたい』と思う

立花だった。


少し、ゆっくりとしすぎた

朝食が終わり、

身支度の準備に入る2人


『着替えをするよね?』

『俺、外に出て待っているから』

そう立花が言うと


『向こう側を見てくれていれば

大丈夫ですよ』と

彼女がサラッと言うが


『そんな訳には、いかないよ』と

言って、立花が外に出て行く。


その姿を見た彼女は

『かわいい』と微笑む。


外に出た立花は、

昨夜の風呂上がりの下着姿の

彼女を思い出し


すぐに自分の手のひらを眺めて、

記憶に残っていない絵色女神の

胸の感触を思い出そうとする。


決して思い出せないのだが、

さっきまで一緒にいた

彼女の笑顔を思い出し、


そちらの思い出で喜びを

はんすうさせていた。


『着替えを近くでするなんて、

俺をどう思っているんだ』

口調は怒っているが顔は

ニヤけている。


『ありがとうございます、

終わりました』

彼女が外で待っている立花を

呼びこむ。


さっきまでとは違うデザインの

Tシャツに7分丈のパンツ姿を

見た立花は


達成したいと思っていた

ミッションを思い出した。


『女神ちゃんに

お願いがあるんだけど』と

立花が恥ずかしそうに頼み事を

言うと


『何ですか、改まって』

『何でも言ってください』と

笑顔で彼女が答える。


『いや〜、女神ちゃんとの

ツ-ショット写真を

撮りたいんだけど、ダメかな?』と

頭をかきながら

恥ずかしそうに頼むと


『今ですか?』

『メイクもしてないし』


『朝だから、むくんでいます』と

困ったような表情になり


『立花さんとのツ-ショットなら』

『可愛いく見える時が

良いんだけど』と

やんわりと断ってきた。


『そうか、そうだよね』と

引き下がり


『携帯の待ち受けに

したかっただけだから』と

説明すると


『待ち受け?』と

彼女が尋ねてきたので


『会社にいる時とか、

電車の中で見たくて』と

さらに恥ずかしそうに伝えると


『やっぱりアタシも

ツ-ショット写真欲しいです』と

俄然やる気となってきたのである。


2人で並び、顔を近づける。


至近距離に緊張しながらタ

イマー撮影を何度も繰り返した。


撮り終わった写真には

彼女の検閲が入り、

彼女が納得しない写真は

全て消去となる。


お互いの携帯で

ツ-ショット写真を見ていたが


『今度可愛いく撮れた時の写真を

待ち受けにしてくださいね』と

彼女が頼み、立花も笑顔で頷く。


時間を見ると出発予定時間を

5分過ぎていた。


『急ごうか?』

立花の呼びかけに


『わかりました』と言いながら

バタバタと準備する彼女を

笑顔で見守る。


『お待たせしました』

彼女の準備が終わったのは

予定時間を10分過ぎての事だった。


旅行カバンをガラガラと

鳴らして住宅街を歩く2人の姿を

他の出勤途中の会社員が

不思議そうに見ている。


かたやス-ツ姿のサラリーマン、

かたや海外旅行に向かう女子大生


お二人の関係は?と聞きたくなる。


そんな視線を一切気にしない彼女は

『炊飯器と鍋でしょ、

ト-スターも欲しいかな?』と


今晩買いに行く家電屋の事を

嬉しそうに話している。


その姿を見て財布が

心配になった立花が

『20万円くらいATMから

下ろしておこうか?』と聞くが


『いえ、全部揃えて

10万円以下にしましょう』と

立花に宣言をする。


『先生、お願いします』

おどけた立花の発言に


『任しといてください』と

彼女も乗った。


そんな会話をしているうちに

自由が丘駅に到着。


『何かあったらLINEしますから』

そう言った彼女に


『今日は携帯を頻繁に

チェックします』と

立花が答えて


立花は東横線方面へ、

絵色女神は大井町線方面へと向かう。


駅で彼女と別れた立花は電車の中で

『これじゃ恋人同士じゃん』


そう思い、ほくそ笑んで

隣にOLに気味悪がられていたが

気付いていない。


ハイテンションのまま、

会社に到着したのは始業時間の

10分前だった。


すぐに同僚の棚橋に見つかり

『今日はいつもの立花みたいだな?』


『バ-バラはどうした?』と

話しかけられたが


ご機嫌な立花は

『昨日はナンシ-って

言ってなかったか?』


『まぁ、どっちでも無いけど』と

咎める事もなく流す。


その姿を見た棚橋が

『今日は寝不足じゃないんだな』


『バ-バラは帰ったのか?』と

茶化すと


立花は

『昨日も泊まって行ったよ』と

クチを滑らせてしまったのだ。


マズい、と立花も気づいたが、

時すでに遅しで


『昨日も泊まった?』と

大絶叫で叫び、

下のフロアの人間まで

聞こえそうな声を出したのである。


昨日の棚橋の報告を

聞いていた人間はピンと気付き、

ヒソヒソ声で


『昨日も泊まったらしいぞ』と

言ってコチラを見てくる。


2回目の暴露に立花も怒り

『声がデカいんだよ』と

棚橋の胸ぐらを掴んで抗議するが


当の棚橋は大喜びのままで

『詳しく教えろよ?』と


立花の抗議を無視して、

更なる情報を聞き出そうとしている。


『言わねぇよ』と

頑としてクチを割らない立花と、

はしゃいでいる棚橋に


『おい、そこ』

『朝礼を始めるわよ』と

女性上司の藤波係長が注意をして、

その場は一旦落ち着いた。


朝礼が終わり、

棚橋と立花が再び

じゃれあっていると藤波係長が

近づいて来て


『ちょっと良い?』と

話しかけてくる。


2人が藤波係長を見ると

『今日もヘルプを頼みたいんだけど』と

仕事の依頼をしてきたのだ。


頼んだのは当然立花にだった。


昨日の働きぶりに感動した係長が、

是非にと頼んできたのである。


だが立花は


『今日は用事があって残業が

出来ないんです』と断ると


『ナンシ-か?』と

藤波係長が聞いてきた。


それを聞いた2人は顔を見合わせて、

再び絡みあってじゃれあう。


『仲が良いのは分かったから』と

呆れ顔の藤波係長に言われて


『残業にならない程度でしたら、

対応します』と立花が答えると


『ありがとう』と言って、

早速資料を出して説明を

始めていくのであった。



場所は変わって港区にある

サニーミュージック本社ビル7階


スタジオには集合の40分前だが

絵色女神の姿があった。


1番乗りと思っていたが

同期で加入した越中美桜が

既にスタジオに入っている。


『美桜ちゃん、おはよう』

絵色女神に挨拶をされた彼女も


『女神ちゃん、おはよう』と

返してきた。


今朝見た韓国のアイドルグループの

ド-ム公演の話を絵色女神がすると


『見た見た、凄かったよね』と

美桜も興奮気味に感想を伝えてくる。


そんな話をしている最中だが、

絵色女神には、彼女に

聞きたい本題があった。


それは新規メンバーの

合格発表があった2週間後に

絵色女神と越中美桜が2人で、

たまたま話していた時の

会話の時の事だった。


『女神ちゃんって彼氏いる?』

何かの話しの流れで

越中美桜が絵色女神に

質問をしてきたのである。


『アタシいないよ』

『美桜ちゃんは?』


そう聞かれた彼女は

『ウチ、2年付き合っている彼氏を

熊本に残してきてるんだよね』と

言っていたのである。


絵色女神は、その話を聞いて

ビックリしていた。


アタシより1コ下だから、

中学生の時から付き合っていたんだ


それと同時に付き合いが

どこまで進んでいるか?

知りたかった。


これが男同士なら

『もうヤッタのかよ?』と

立花の同僚のように

無神経に聞けるのだが


お年頃の女の子の場合は

興味はあるが、

聞く事が出来なかったのである。


絵色女神が今日聞きたいのは

男の心理であった。


他愛のない話をした後に

声のト-ンを落とした絵色女神が


『美桜ちゃん、ちょっと

聞きたい事があるんだけど』と

切羽詰まった雰囲気で質問をしてくる。


彼女の、ただならぬ雰囲気を

察した美桜が

『やばい話?』と

悪い笑顔で聞き返してくると


『そう』

『男の人の話』と答え


周りをキョロキョロ見渡した後、

更に顔を近づけたのである。


『美桜ちゃんって彼氏と

付き合って長いんだよね?』

そう聞かれた美桜が


『もうすぐ3年かな?』と

答えると


『彼氏に胸を触られたのは

付き合って、どのくらい

経ってからだった?』と

恥ずかしそうに聞いてきたのだ。


『何?女神ちゃん彼氏出来た?』

美桜が自分の事のように

喜びながら、

逆に質問してきた。


『え?彼氏って訳じゃなく!』

『気になる人って言うか』

『まだ、ハッキリと...』


そう言った後にクチが

モゴモゴして言葉が続かない。


『え?何処で知り合ったの?』

『え?業界の人?』


絵色女神の質問は忘れられて、

美桜からの質問が続くが、

困った彼女は照れているだけだった。


その姿を見て

『ゴメン、ゴメン』

『質問って、胸を舐められたの

は付き合って、

どの位経った時だっけ?』と

聞き返すと


『違う、違う』

『初めて触られた時がいつ?って』

そう訂正しながら、

顔を真っ赤にさせている。


『昔の事だから

ハッキリ覚えてないけど』


『付き合ってから

3ケ月くらい経ってからかな?』と

古い記憶を辿って答えると


『3ケ月か...』

そう言って固まってしまった。


それを察した美桜が


『どうしたの?』と

彼女に聞くと


『初めて会った、

次の日は早いよね?』と

静かに聞いてくる。


『女神ちゃん、それは早いよ』

『彼氏じゃない男と

次の日にやっちゃうのは』

そう美桜が言ってる途中で


『やってない、やってない』と

全否定してきたので


『やってないの?』

『でも胸は触られたの?』と

不思議そうに聞いた後に


『キスは?』と美桜が聞くと


『まだ...』と絵色女神が

恥ずかしそうに答える。


『やっていないけど、胸は触られた?』

『それって、どういう状況?』


『相手は何者?』

頭の中の整理が出来ない話を聞いて

かえって越中美桜の興味は

大きくなった。


『ゴメン詳しくは話せないないんだ』

『忘れて』


このような状況になる事を

想像していなかった絵色女神は

美桜に質問をした事を後悔していた。


男は好きでもない女の胸でも

触りたいものなのか?


裏を返せば、

好きだから胸を触ってきたと

思いたかった。


そこだけを聞きたかったのだが、

言いたくなかった、

コチラの情報をつつかれて

逃げるのに苦労をしていると


徐々に先輩メンバーや

マネージャー連中も

スタジオ入りしてきて

美桜の追求もそこまでとなった。


権太坂の中でも単独で番組に

呼ばれたりする何人かの

メンバーには

専任マネージャーがつくが


絵色女神のような、

その他大勢には10人ほどに

1人のマネージャーとなっていた。


そのマネージャーを見つけた時に

マンションをスト-カ-に

見つかってしまった件を

報告しなくては、と思い出した彼女


『佐野さん、ちょっと良いですか?』と

女性のグループマネージャーに声を掛けて


『借りて貰っているマンションが

ファンの人に

見つかってしまったんです』


『怖くて家に帰ってないんです』と

言うと


『女神ちゃん、大丈夫?』

『襲われてない、平気?』と

心配をし、大騒ぎになっていく。


家の扉に

『女神ちゃんの家を見つけた』

そんな紙が貼ってあった。


立花の家に2日間も

泊まっていた事を隠す為に


それが今朝の事だったと報告すると、

すぐに男性スタッフも

10人ほど集まり、

マンションを見に行く事となった。


打ち合わせの集合時間9時になり、

権太坂のメンバー全員が揃ったが


スト-カ-事件で大騒ぎとなり、

開始が見通せない状況に

困惑する絵色女神だったのである。


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