第69話ライバル2人
『ピンポ-ン』
ベッドに行こうとした
2人を邪魔するように
チャイムが鳴った。
『誰だ?』
立花も心当たりが
ないようで
不審がっている。
ダメ-ジが大きいのは
蝶野正子である。
立花のアパートで、
後一歩のところで
邪魔が入るのは
2度目であった。
『ピンポ-ン』
ドアの向こうの人物は
帰るつもりが
ないようなので
立花がドアの前まで近づき
『どちら様ですか?』と
尋ねると
『夜分にすいません、
藤波です』と名乗ってきた。
藤波係長?
立花と蝶野は顔を
見合わせているが
2人ともビックリした
顔である。
服は着ているし、
問題は無いと考えた
立花がドアを開けると
『家まで押し掛けて、
すまないね』と
藤波係長が玄関前に
立っていた。
藤波係長は喋りながらだが
目線は玄関の靴にいき、
女性のヒ-ルを見つけて
立花の後ろの部屋に
視線を送ると
部下である蝶野正子が
そこに居るではないか
『何で蝶野がいる?』と
ビックリした藤波係長が
質問すると
カバンから国家資格の
本を取り出して
『立花さんに
分からないトコロを
聞きたくて、
お邪魔してました』と
やましい事など無いと
理路整然に説明を
してくる。
『そうなのか?』
立花に確認すると
『応用情報技術者と
システム監査技術者を
取りたいらしくて』
『最近、アドバイスを
始めたところです』と
もっともらしい説明を
聞いた藤波係長は
『そうか』と
納得するしかない。
『それこそ、
藤波係長こそ何で俺の家を
知っているんですか?』と
聞かれて
『それはだな』と
動揺しながらも
『家に帰ったら、
立花のシャツが
私のカバンに紛れていて』
『会社じゃ、
渡せないから社員経歴書を
見て、調べて来たんだ』と
オドオドしながらも
理由があって
訪問した事を説明したが
『何で、藤波係長のカバンに
立花さんのシャツが
入っているんですか?』
『あ〜〜』
『同じ部屋に
泊まったからですよね?』と
蝶野が騒ぎ出した。
すると藤波係長が
『喋ったのか?』と
同部屋宿泊は
秘密と言う協定を
立花が破ったと思い
確認すると
『何も喋っていません』と
立花が答えて
藤波係長が自滅した事を
証明する。
立花に聞いた時と
藤波係長に聞いた時で
2人のリアクションに
大きな違いがあった。
立花には単刀直入に
藤波係長と
エッチしたか?を聞いて
何も無いと答えてきた。
立花を最近よく
見ているので分かるが
ウソではないだろう。
問題は藤波係長だ
食堂で質問した時に
『大丈夫
だったんですか?』と
聞いた時も動揺していた。
同部屋で泊まった立花が
寝ている間に
イタズラをしたんだ!と
彼女は予想する。
自分に経験があるから
分かる事であった。
一方、藤波係長も
昼間社内で立花に
馴れ馴れしく話している
蝶野を見て
軽くイラついていたが、
家にまで押し掛けて
上がり込んでいる彼女に
怒りすら覚えている。
険悪な雰囲気を
感じ取った立花が
『係長、わざわざ届けて頂き
ありがとうございました』と
シャツを受け取り、
幕引きを考えていると
『立花は、もうご飯は
食べたのか?』と
問いかけてきた。
『もう牛丼弁当を
食べました』と
蝶野が答えると
『毎日、そんな
外食ばかりだと
カラダを壊すぞ』と
蝶野の言葉を
否定するように
諭してくる。
『群馬県に行く時に
話しをしていた
毎晩、外食弁当が
本当なら心配で』
『私で良かったら
何か栄養のある物を
作ろうと思っていたが』
『蝶野が栄養バランスを
考えた料理を
作ってくれるなら
大丈夫だな?』と
言った言葉で
蝶野は顔が
真っ青になっている。
蝶野はご飯も炊けない。
『係長、
ありがとうございます』
『でも、冷蔵庫に
何も入っていませんし
係長に食事を
作って貰うのは悪いです』
『ですから大丈夫です』と
立花が辞退を申し出ると
『私が作りたいだけだから
迷惑とか
思わないで貰いたい』と
切羽詰まった雰囲気で
立花に
頼んできたのであった。
同じ空間に蝶野がいる。
蝶野に対しての
戦線布告でもある。
すぐに蝶野が反応して
『それって職権濫用
じゃないですか?』
『頼まれてもいないのに、
退社後の時間に部下の家に』
『親切の押し売りに
来るのって
どうなんですか?』と
蝶野が捲し立てた。
正論だ
藤波係長は蝶野の言葉が
正論過ぎて
何も言い返せないでいる。
1人の男を巡って、
上司と部下の女同士が争う
正に修羅場だった。
立花も自分の家だが
逃げ出したかった。
『コンキン、コンキン』
iPhoneの木琴の着信音が
自由が丘の
アパートに鳴り響く
立花のスマホに着信が入る
『あ、彼女からだ』
立花は助け舟に
乗る事にした。
さっきテレビを見た
感想を送った時に
『今日は24時まで
寝ないから
空いた時間に
電話しても大丈夫』と
女神にLINEを
送っていたのだ。
『すいません、
電話なんで』と言って
立花は外に出てしまった。
『仕事は終わったのか?』
立花の嬉しそうな声が
薄い玄関ドアから
漏れて聞こえてきた。
彼女のいる男の家に
勝手に押し掛けて
言い争っている自分は
滑稽だと蝶野は思った。
それは藤波係長も
同じだった。
立花の笑い声が
聞こえてくる度に
自分の存在価値を問う
2人である。
3分ほどの
短い時間だったが
蝶野と藤波係長に
現実を分からせるのには
充分な時間であった。
『どうも、すいません』
電話を終えた立花が
戻ってくると
『突然、夜に押し掛けて来て
申し訳なかった』
『これで失礼するよ』と
藤波係長が帰る事を
申し出た。
それに追随するように
蝶野も
『私も大丈夫です』
『遅くまで、
すいませんでした』と
立花の家から
帰る事を告げる。
『そうか、気をつけてな?』
そう言って2人を
送り出す立花は
余計な事言うのを、
よそうと思っている。
立花のアパートの敷地を
出た藤波係長は
『少し飲んで行くか?』と
蝶野を誘うが
『結構です』と
蝶野は断り
早歩きで藤波係長を置いて
1人で駅へと向かう。
もうすぐ別れると
思っていたが彼女とは
まだ繋がっている。
係長さえ来なかったら
絶対にエッチまで
いけた。
最後まで、いけなかったが
成果もあった。
キスが出来たのは大きい。
エッチまでしたら、
立花の中で
自分の地位は変わる?
日曜日の約束もあるし、
もう一度アタック出来る。
気持ちを切り替えて
駅へと急ぐ蝶野に対して
群馬県のホテルで
同部屋で泊まったのに
何も起きなかった。
アパートに行って、
ご飯を作れば
見直してくれるのでは?
そんな淡い期待は
蝶野がいて
実現出来なかった上に
目の前で彼女との、
やり取りを
見せつけられて
敗北感を味わった。
帰りに日本酒を
買って帰ろうと
心に誓う藤波係長であった。
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