第51話崩壊
突如現れた武藤慶子に
2人が驚いているが
彼女は気にする事なく
『棚橋さんの説明で
何とか分かりました』
『私も渋谷に居て
棚橋さんに連絡したら
立花さんと2人で
飲んでいるからって』
『じゃあ、
私も合流しますって
呼ばれていないけど
来ちゃいました』と
一方的に喋りだしたのだ。
立花は彼女と会うのは
一方的にキスをされて以来で
彼女と何を喋って良いのか
分からず戸惑っている。
棚橋も武藤慶子が乱入する事は
聞いておらず
心臓がドキドキしていた。
この店を予約したのは
武藤慶子だった。
そして棚橋のス-ツの中には
ワイヤレスマイクが
慶子によって仕込まれており
さっきからの2人の会話は
慶子に筒抜けであったのだ。
すぐ近くの個室で
2人の会話を聞いていた
慶子だっただが
棚橋の様子が
おかしくなってきて
勝手に暴走しようと
していると感じ
予定変更をして
合流してきたのである。
自分が場違いな事など
関係なく
『2人で飲んで
上司の悪口ですか?』
『私も混ぜてくださいよ?』と
慶子が笑顔で
2人に話し掛けるが
立花は固まったままだ。
本人を目の前に
しているので言えないが
『何でコイツを呼んだの?』と
目で棚橋に訴えかけていた。
場の空気を感じた慶子は
『私が立花さんの事を
好きだって棚橋さんに
ず-っと相談していたんです』
『だったら、立花さんと
飲んでいるから一緒に
飲めば良いだろ?って』
『だから、お邪魔虫だけど
参加させてもらっています』と
慶子が説明をする。
棚橋に余計な事を
喋られたら面倒だ。
クスリを飲みモノに
入れた時点で
棚橋は、お役御免だ。
『いつ慶子ちゃんと
連絡をしたんだ?』
立花が棚橋に聞くと
『立花さんが
トイレに行ってた時に
私が連絡したみたいです』と
慶子が説明をする。
確かにトイレに
行った時に女神から
入っていたLINEに返信を
長文で返していたので
だいぶ空けていた。
その時なのか、と
納得したが
棚橋の様子がおかしい。
武藤慶子が
個室に入ってきてから
ずーっと下を向いたままで
顔を上げようとしない。
彼女にいきなり
キスをされた事は
棚橋には言っていない。
普段の棚橋なら
慶子ちゃんが飲みの席に
参加しただけで
大騒ぎしている筈なのに
会話に参加しようと
しないだけでなく
巻き込まれないように
しているようだ。
慶子の行動も、
どこか怪しい。
慶子が自分に
好意を寄せているのは
分かっているが
自分には女神がいるから、
付き合ってと言われても
断るつもりだった。
社内の女子だから、
今後を考えて出来るだけ
穏便にしたかったが
慶子はキスをしてきたり
佐山サトシとの密会を
バラす素振りを
チラつかせたりと
少し厄介なタイプだ。
棚橋が呼んだ、と言う話も
彼の態度を見ていると
辻褄が合わない。
女神との付き合いを
さっきまで
応援していたのに
慶子ちゃんと俺を
付き合わせる
手伝いをする為に
ココに呼ぶのか?
棚橋が落ち込んだように
下を向いたまま
顔を合わせないのが
気になる。
その辺りを総合的に
判断した立花は
『合流した
慶子ちゃんには悪いけど
俺たちは
帰るつもりなんだよ』
『棚橋、そろそろ帰ろうか?』
慶子が来た事で棚橋が
イヤがっていると感じて
お開きすることを
提案したのであった。
『ひどいですね』
『そんな露骨に
私を嫌がらなくても
良いじゃないですか?』
『棚橋さんも、もう少し
飲みたいですよね?』と
一言も喋らない棚橋に
同意を求める彼女。
慶子はもう少し
時間を稼ぎたかった。
棚橋には
説明していなかったが
立花に飲ませたのは
催淫剤だった。
男が飲むとギンギンになり
女性を見ると
ムラムラしてしまう薬で
古代からマカなどを
主成分にした色々なモノが
作られていたが
慶子が用意したモノは
最新のクスリで無味無臭の
性欲増進剤だった。
蝶野が立花を
スッポン鍋屋に誘った時に
効果があったのを見ていて
通販で入手していたのである。
あと30分もしたら、
女性を見たら欲情せずには
いられなくなるほど
強力なクスリなので
本当なら立花が
ギンギンになった後に
慶子が合流して
カラオケボックスに誘い込み
女性の色気で迫り、立花を
食べようとしていたのだ。
泥酔していない状態で
既成事実を作り
立花と付き合う作戦であった。
クスリのパワーは絶大で
飲むと身体中が
敏感になってしまい
指が背中に
触れただけで感じて
ヘニャヘニャになるほどだ。
仮に家庭教師の先生が
ドラッグストアで
電動歯ブラシを買ってきて
大事な部分に
当ててしまったら
瞬間に絶頂を迎えるだろう。
『せっかく私も合流したので
もう少し飲みましょうよ?』と
慶子が2人に
留まるように提案する。
慶子の行動に
胡散臭さを感じた立花は
『やっぱり俺たちは帰るよ』と
彼女に言うが
『棚橋さん、
何とかして下さいよ』と
棚橋に助け舟を求めたが
実際には
『何とかしろよ』と棚橋に
プレッシャーを
かけていたのだ。
『どうする棚橋?』
さっきから
何も喋らない棚橋に
立花が確認すると
下を向いていた棚橋が
顔を上げた。
『慶子ちゃん
俺には、もう無理だ』
『告訴するなら、してくれ』
『警察でも何でも行くよ』と
言い出したのである。
『警察?』
棚橋から出た言葉に
立花が反応するのと
同じタイミングで
『何を
言っているんですか?』と
慶子が慌てだした。
『やっぱり立花を裏切れない』
思い詰めた棚橋が語る言葉を
『棚橋さん、酔ってますよ』
『急いで、
外に出ましょう?』と
遮ろうとする慶子だが
棚橋はやめずに
『立花ゴメン』
『今日の飲み会も、
お前をワナにはめる為に
仕組まれた事なんだ』と
バラしたのだ。
『棚橋さんダメですって』
慶子が棚橋のクチを
塞ごうとした時に
『うるせぇ、黙ってろ』と
立花が慶子を一喝する。
焼き鳥屋の個室だったが
その声は店内の
奥にも響いただろう。
普段、無口でロボと
呼ばれていた男の
怒声の迫力に
慶子は固まってしまった。
そして棚橋は
ポツリ、ポツリと全てを
語りだしたのだ。
棚橋が全てを話すのを
立花も慶子も
黙って聞いていた。
すると立花が
『棚橋、その話は
きっとウソだぞ』
『お前は
無理矢理やってないし』
『こいつに
騙されているだけだよ』と
冷静に言ってきたのである。
そう言われた慶子は
『私は無理矢理、
棚橋さんにホテルに
連れ込まれたんです』と
猛然と抗議をしてきた。
『棚橋、そのラブホテルって
渋谷って言ってたよな?』
『今から、そのホテルに
行って、その日の
防犯カメラの映像を
見せて貰おうぜ?』と
真相を確認する行動を
言い出したのだ。
立花の提案を聞いて
慶子は焦り始めた。
ホテルの防犯カメラは
予想をしておらず
棚橋を誘う為に
彼の腕に自分から
絡みついて甘える演技を
していたので
その時の画像を
見られてしまったら
無理矢理に連れ込まれたと
言っているのは
慶子の狂言だと
バレてしまうからだ。
『武藤さんも行こうぜ?』
『ホテルの受付で
2人の姿が動画で
どうなっていたか見れば』
『合意で入ったか?
無理矢理か?』
『どっちがウソを
ついているのか?
分かるだろ』
そこまで言われた
慶子の顔面は
完全に真っ青になっていた。
『コイツの顔を見てみろよ』
『棚橋、
お前はこの女のワナに
ハメられたんだよ』
事態が飲み込めず
キョトンしている棚橋に
立花が説明を始めた。
『この女、この前は
俺を飲みに誘ってきて
自分は
エッチだからって言って』
『俺を散々口説いてきて、
断ったら
食堂でいきなり
キスをしてきたんだ』
『もう、やめて〜』
立花の言葉を遮るように
慶子が
叫んだのであった。
取り乱した慶子は
『今回の件は棚橋さんが
勝手にした事で
私は頼んでいないです』
『クスリだって
勝手に用意して』と
必死に弁解をしていたが
『クスリは
入れていないよ』と
棚橋が慶子に渡された
クスリを差し出して
彼女の動きは
完全に止まってしまった。
立花に飲ませたと
思っていたクスリは
飲まされて
いなかったのであった。
それを見た慶子は
全てが失敗に終わったと
理解する。
立花を裏切れない棚橋は
思いとどまり酒に
混入しなかったのであった。
慶子に指示された事を
無視する
その時点で警察でも
何処でも行こうと
腹をくくっていた。
クスリで発情した
立花を誘って
関係を持てば
何とかなると思っていた
慶子の目論見は
水泡に帰したのであった。
『クスリまで
用意してたのかよ?』
『武藤さん、
もう全部バレたんだよ』
『警察には
突き出さないでやるから』
『携帯から
棚橋の恥ずかしい写真を
全部消してくれ』
そう言って慶子に
スマホ内の棚橋が
全裸で写っている写真を
削除させたのだ。
放心状態の慶子は
言われた通り
機械的にスマホの写真を
消していき
『全部、消しました』と
チカラ無く報告したが
彼女の事を
信用していない立花は
『本当に消したか、
確認させてくれ』と
言って
彼女からスマホを
取りあげようとした。
すると
『ダメ〜』と言って
彼女は携帯を
渡さないように
阻止をしたので
『ほら、見ろ?』
『全部、消して
ないからだろ?』と言って
慶子からスマホを
奪い取り写真を
確認したのである。
そこには
写真一覧の全てに
立花が写っている
モノばかりだった。
休みにコインランドリーに
行った日の写真
会社で隠し撮りを
したような写真
新宿で佐山サトシと
食事に行った写真は
立花に見せていない
モノもあり
中には変装した女神と
歩いている写真までも
あった。
武藤慶子の写真ホルダーは
立花の写真で埋め尽くされて
いたのであった。
立花を好きだと言うには
常軌を逸した量の
隠し撮りをした写真である。
その写真を見た立花は
バツが悪くな
慶子にスマホを返した。
写真を見て彼女の気持ちを
知った立花だが
『悪いけど
俺には彼女がいるから』
『諦めてくれ』と言うと
慶子は
『彼女が17歳なのに
付き合っているって
警察に言ったら』
『会社もクビになりますけど
それでも良いんですか?』と
悔しさを滲ませながら
立花に聞いてきたのである。
すると立花は
『お前のしている事は
告白じゃなくて
脅迫なんだよ』
『チカラで服従させて
気持ちは無い』
『そんな事をする奴を
愛する奴なんて
世の中にはいないよ』
『二度と俺に関わるな』と
言って
棚橋と2人で
彼女を残し店を後にした。
店の外に出た後、
棚橋は安心したのか
『立花ゴメンよ』と
泣きながら
何度も謝っている。
立花は泣いて
抱きついてきた
棚橋の肩を
ポンポンと叩いて
慰めたのであった。
この出来事があった
翌週以降
武藤慶子は
体調不良を理由に
会社に
来なくなったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます