90話 憤怒のジャック・オー・ランタン①


扉を開けた先に待っていたのは、


「またかぼちゃ……でも、こいつは結構強そうだ」


再びかぼちゃ頭だった。

しかし、先程のブサカワモンスターであるランタンとは違い、明らかに高い戦闘能力を持っているのがわかる。


巨大なかぼちゃ頭の上には金色に輝く王冠、身体を覆い隠すほどの黒いマントにはなにやら勲章のようなものがついている。

その下から覗く手脚は異様に細く、巨大な頭部をどのように支えているのか不思議な程だ。


それに3メートル程もある黒く光る大鎌は、まるで死神のそれだ。


【憤怒のジャック・オー・ランタンLv71】

弱点 氷属性 (火属性) 一定部位破壊後、頭部


特性 ランタンの親玉。氷魔法使用後は、属性変化により氷属性が弱点になる。火魔法使用後もまた然り。ナイトメアは精神汚染系スキルで、精神力が低ければ低い程汚染度が上がる。巨大な鎌でのチャージスキル、魂狩りは即死確率50パーセントと非常に危険だがその分隙は大きい。重力魔法とのコンボに要注意。腕輪と冠、勲章破壊後は防御力が50パーセント減少し、更に頭部が弱点となる。


一定時間内に全てのランタンを討伐した事によりジャック・オー・ランタンから憤怒のジャック・オー・ランタンへと変化し危険度が増している。


スキル 魂狩りLv7 氷魔法Lv7 火魔法Lv5 重力魔法Lv5 ナイトメアLv5


表示されたボスの情報は、中々にぶっ飛んだ内容だった。

氷、火、重力と三属性の魔法を使い、精神汚染に確率での即死攻撃。

弱点も部位破壊をしなければならず、氷も火も使えない響にとって部位破壊は最優先事項だ。


間違いなくAランク以上のボスだ。

それも、ランタンを全滅させてしまったせいで更に強化されている。


ここまで楽にこれたツケが回ってきたのだろうか。


──おいおいこれはちょっとやりすぎなんじゃ……? サクッと倒す所じゃないぞ!?


背中に冷や汗を感じジャックの様子を見ていると、別の表示が浮かび上がってきた。


【目目連の熟練度が一定に達しました。可視化範囲が増加します】


【憤怒のジャック・オー・ランタンLv71】

HP 6666/6666 MP 1666


力 406

防御力 500

知能 530

速度 400

精神力 385


目目連のスキルレベルが上がり、今まで見れなかったモンスターのステータス値が表示された。

探索者のステータス値と同等と考えていいのか、それともモンスターはモンスターの値でまた違うのか。


それは分からないが、ステータス値を覗く母数を増やしていけばそれも解決出来るはずだ。


──良かった……!レベル4と5でなんの変化もなかったから焦ってたけど、まだ成長の余地はあるんだな!


そう、目目連はレベル4に上がった時も、5に上がった時にも目に見える変化はなかった。

その時はスキルの限界だと思っていたが、どうやらそんな事はなかったみたいだ。


ジャックのステータス値は防御力と知能がずば抜けており、その割に特に低いものもなくバランスがいい。

総合値で言えば響よりもやや高い。

ジャイアントキリングが発動するには十分な敵だろう。


・なんか強そうなの出てきた!?

・ボスさんに全振りしすぎやろこのダンジョンww今までのなんだったんだよwww

・チビデブかぼちゃ弱かったし見掛け倒しパターンかも(願望)


「見掛け倒しなら良かったんですけどね……」


ジャイアントキリングが発動し同等のステータス値になったとはいえ、響が不利なのは変わらない。

不慣れな武器で、更に強いとはいえない代物だ。

せめて長剣の類であったなら、また話しは変わってくるだろうが現在手にしている武器は短剣が二本のみ。


最初の鉄の短剣と、先程手に入れた疾風剣という速度にプラス25の補正が入る短剣だ。

強力かと言われればそうではないが、ステータス補正があるだけまだ優秀な方だろう。


「時間もないんで始めるとするか!」

──双剣の扱いならあの時の翼さんを参考にすればいい。こんな時に役に立つとは思わなかったな。


すっと二本の短剣を構え、懐かしい探索者研修での事を思い返した。

あの時全て一撃で倒していた翼だが、それが強烈な印象を残し響は細かい部分までよく覚えていた。


「……」


響が構えるとジャックも大鎌を構え、無言でこちらを睨みつけている。

ふと、視界の端にランダムボックスがある事に気づき、一瞬視線を逸らした。


それがまずかった。


その一瞬をジャックは見逃さず、大鎌の先端を響に向けた。


「──ぐッ!!」


まるで脳みそを掻き回されているような感覚が襲う。

その刹那、響を中心に魔法陣が展開され全身を押し潰す重力が発生する。


堪らず地べたを這いつくばる響。

この魔法陣から離れなければと理解していても、せいぜいほんの少しズレるのが限界だ。

とてもじゃないが、転がったり立ち上がったり出来るほどヌルい魔法じゃない。


ジャックはそれを見て嬉しそうに大鎌を限界まで引き、力を溜めているのかピタリと止まった。


──ヤバい。これはヤバい! どうすればいい。あれは絶対にくらったらマズイ!


・主人公……?

・え、これやばくね?

・まさかのここで終わりパターンか。期待してたんだけどな

・勝手に終わらせんな! まだ負けと決まったわけじゃないだろ!


「動け! 動けよッ! こんな所で……くそ! 動けってば!!」


必死の抵抗も虚しく、押し潰されている身体は言うことを聞かない。


一秒。

ジャックは視線を逸らさずに、這いつくばる響を見下ろしている。


二秒。

脳内にけたたましく警報が鳴り響く。


三秒。

ジャックはしっかりと狙いを定め、遂に大鎌を振り下ろした。


「あ──」


凄まじい衝撃と轟音が響き、土煙が舞った。

ジャックは大鎌についた赤い液体を見て、満足そうにソレを払った。



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