第43話 臨界点到達①
「……く……強い……!」
ミアは傷無しのドラゴニュートと交戦していた。
氷と水属性を主とするミアと、火魔法と炎のブレスを扱うドラゴニュート。
遠中距離では属性的にミアに分配が上がる。
激しい撃ち合いを繰り広げている内に、相手もそれを理解したのか次第に距離を詰めてくるようになった。
──接近戦は……まずい……なんとか、しないと……!
魔法使いの真価は遠中距離の援護射撃。
なんとか距離を保ってはいるが、ただださえ格上の相手に距離を詰められれば勝負は決まってしまう。
氷魔法で足場を悪くし少しでも機動力を奪えるように立ち回る。
チラと響の方を見ると、ボロボロになりながらもどうやらドラゴニュートを仕留めたようだ。
「ミアも……負けられ、ない……!」
魔法陣を二重に展開し、勝負を急いだ。
水の弾幕が傷無しを襲いかかり、次いで複数氷の棘が足場を奪う。
傷無しは呻きながらも火炎放射でそれを迎撃し、三叉槍を投擲。
バックステップで回避しようとしたが──
「くだらん。いつまでやっている」
「なん……で……ッ!」
背筋が凍りつく感覚。アイツが動き出したのだ。
ミアに濁流が押し寄せ呑み込まれる。
壁に叩き付けられ、眼前には傷無しの拳が迫る。
「かはっ……」
不思議と身体が鉛のように重くなり、回避が間に合わず鳩尾に拳を許した。
内蔵が圧迫され、胃液が逆流した。
そこからはもう特異個体は手を出さなかった。
いや、出す必要がなかった。
速く、重い一撃をくらいそれが決定打となった。
「あぐっ……う……ああッ……」
酷いものだった。何度も拳が身体にめり込み、強靭な脚が顔面を蹴り上げる。
骨が折れ肉は裂かれ、目から、鼻から口から流血した。
痛みなんて言う感覚はもうあまりなかった。
そして長い尾をミアの首に巻き付け、強制的に視線を合わせさせる。
「ひ……びき……ごめん……」
指一本動かす力もない。
目の前のドラゴニュートは口を開けブレスの溜めにはいっている。
──私は……ここまで……もっと、響と……居たかった、な……
全てを諦め、そっと目を閉じた。
一筋の涙が頬を伝い地面に弾けたその時、爆発にも似た轟音が響き、洞窟全体を揺らした。
────
──
─
響の感情に呼応するように、渾身のサンダーボルトはドラゴニュートの喉焼き、心臓を停止させるまでに至った。
折れた腕が痛い。外れた肩が痛い。毒をくらったのか腫れ上がった顔面が痛い。焼かれた皮膚が溶けるようだ。全身の細胞が悲鳴をあげている。
もう、佐藤響は満身創痍だった。
それでもまだ、敵は残っている。
ミアまだ、戦っている。
──やべぇ……意識が、飛びそうだ……行かなくちゃ。
「ミア……今、行くからな……」
視界はかすみ、身体の感覚はない。それでも響はミアの元へと思い這いずりながら手を伸ばした。
その時だった。
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました。レベル上限に達しました】
霞む視界を埋め尽くすレベルアップの通知。
最後の一文にはレベル上限、つまり100に達した事が表示されていた。
──こんなの……意味ねぇ、じゃん。今更強く、なったって……
【スキル 臨界点がLv10に到達。強制的にスキルが発動されます】
【臨界点により細胞の書き換えを開始します】
──なん、だ……? 身体が熱い……
臨界点のスキル効果なのか、響の身体を蒼い光が包み込む。
それと同時に体温が上昇し、安らぎにも似た熱に支配される。
【変化率35%】
不思議と身体中の痛みが消え始めた。
【変化率63%】
傷がみるみると修復していく。
【変化率93%】
「力が……なんだ、一体何が起こってる!?」
【変化率100%】
【臨界点到達。ステータス値が大幅に変化します】
その表示と共に響を中心に爆風が吹き荒れ、眩い光を放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます