第42話 執念の一撃


駆け出すと同時に傷持ちのドラゴニュートにサンダーボルトを放つ。

ダメージが目的ではなく、相手の動きを制限する事が目的だ。

ただでさえ強い敵に挟み撃ちをされたらひとたまりもない。


傷無しはそちらを見る事もなく響から視線は離さずに、三叉槍を大きく回転させその切っ先を響に向けた。


「おらぁッ」


白光で叩き付けるように弾き、三叉槍を踏みつけ跳躍。

そのタイミングで傷持ちが魔法陣を展開し、直径30センチ程の火球を放つ。

しかしそれを気にする素振りもなく、白光を振り上げた。


「……させない……!」


被弾する直前、ミアの放った水球がそれを相殺。

響はミアを信頼し、次の攻撃に移ったのだ。


傷無しにサンダーボルトを放ち、直後に全力で振り下ろす。

どちらかだけでも直撃すればいいと言う算段だ。


傷無しはサンダーボルトを被弾覚悟で、三叉槍を突き出し白光の刃を遮る。

火花が散ると同時に、サンダーボルトの雷撃が傷無しの肩を焼く。


しかし、怯むことなく大きく口を開けた。

喉元には輝く赤い光が収束し徐々に大きくなってく。


──ブレスか! あれはくらったらマズイ! けど……攻めるなら今だッ!


目目連の情報にあったブレスなら、今は追撃のチャンス。


響は白光を手放し素早くしゃがみこみ、


「零距離ならどうだッ!!!!」


喉もとに向け掌底と同時にサンダーボルトを放つ。


「グオオッ」


堪らず傷無しは呻き、衝撃により強制的に上を向かされる。

ブレスは上に向かって放たれ、天井を破壊。

熱光線に近いそれは触れた物を焼き付くし、無駄のないエネルギーは貫通力を生んだ。


天井の大岩の半ば程まで達したブレスにより、大岩は轟音と共に砕け散り真下にいる二人に襲いかかる。


響は素早く白光を拾い咄嗟にバックステップでその場を回避。

傷無しは回避が間に合わずに、崩れた岩の下敷きになった。


「やったか……? ──ッ!」


ドラゴニュートというモンスターを甘く見すぎていた。リザードマンと違い体を覆うのは非常に堅固な龍鱗。

岩程度でどうにかなる代物じゃない。


崩れた岩の隙間から放たれたのは炎の槍。

響は一瞬反応がおくれ回避が間に合わない。


炎槍が直撃。

凄まじい爆発と炎が襲いかかり響を吹き飛ばした。


「ぐああッ!!」


咄嗟に両腕をクロスさせガードしたおかげで致命傷は免れたが、それでも少なくないダメージを受けた。


服は焼け焦げ皮膚は爛れ、痛みと熱さでおかしくなりそうだった。

更に壁に叩きつけられた事で肺が衝撃により上手く機能しない。


「……がはッ!」


そして怯んだ響に傷持ちが三叉槍を振り上げ跳躍。


「……響ッ」


傷持ちと響の間に氷壁をはり追撃を妨害。

そして壁を破壊しようと三叉槍を振り下ろした瞬間、氷壁からは極大の棘が出現。


勢いを殺しきれず、且つ空中という回避が極めて難しい状況の中、無理矢理身体をひねった。


「……あれを……よけるの……?」


だがそれも完全ではない。

棘は鱗のない横っ腹を僅かに抉り、傷をつけた。


響は痛みを堪え傷持ちが着地する寸前、回避不可能なタイミングでサンダーボルトを放つ。

それと同時に駆け出した。


──今だ。今しかない! この期を逃したらもう駄目だ!

「らあああぁぁぁ──ッ!!!!」


サンダーボルトを纏わせた白光の一閃。

三叉槍で迎撃しようとしたが、肝心の腕が凍りつき地面と繋がっていた。

勿論、ミアの仕業だ。


確かな手応え。刃が肉を裂き血飛沫が舞う。

サンダーボルトを纏っていることもあり、防御不可の体内を雷が疾走。


「グオオオオオッ」


あまりの激痛に悶え暴れる傷持ち。

力任せに振られた長い尾が響の顔面を捉えた。


「ぐッ……まだまだァッ!!!!」


首がもげるかと思うくらいの衝撃。それでも響は白光を振るう腕を止めなかった。


一振、胸から腹部にかけて一筋の赤。

ほぼ同時に左腕に尾による叩き付け。

鈍い音が響き肩が外れた。しかし、それでもまだ止まることはなかった。


──もっとだ。こんなんじゃコイツは死なねぇ! もっと速く、もっと深く!

「くたばれえええぇぇぇッ!!」


被弾覚悟の連撃はドラゴニュートの身体をどんどん切り刻んでいく。

何発もの攻撃をくらい響も相当なダメージを負っている。


互いに瀕死な状況。

トドメを刺そうと喉元に白光を突き立てようとしたその時、右腕を叩きつけた尾の一撃は骨を砕いた。


「ぐあああッ!」


力が入らずにキン、と高い音を鳴らし白光が地に落ちる。

両腕の負傷。これ以上無いほどに最悪な状況だ。


頼みのミアは岩から脱出した傷無しを抑えるため奮闘していて手が回らない。


ふと、目の前の傷持ちのドラゴニュートと目が合うと、勝ち誇ったような表情をしているように見えた。


「まだだ……この程度で終わるかよッ!!!!」


響は肩の外れた左腕を無理矢理に動かし、ドラゴニュートの首を鷲掴みにする。半端ではない痛みがはしるが気にしている場合ではない。


「──サンダァァボルトォォォォォォァァァッ!!」


血を吐きながら叫ぶ全身全霊の一撃。

執念の雷は喉を焼き、流れる血液を介して体全体を焼き切った。




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