58話 知らない内にバズってた件①


ぐっすりと眠りについた響が目を覚ましたのは翌日の昼過ぎだった。


「……寝すぎた」


寝癖のついたボサボサの髪と、まだ脳が覚醒しきっていないのか虚ろな目。

今にも2度寝してしまいそうな勢いだが、今日は予定が多いのでのんびりもしていられない。


パパっとシャワーを浴び眠気を吹っ飛ばす。


「そういえば、ミアから連絡来ないな」


ライムを確認しても、未だ連絡はない。

予定通りなら今日戻ってくるのだが、もしかしたら昔の仲間と思い出作りでもしているのかと思い、追撃はしないでおいた。


それからカップ麺を頬張り朝食を済ませ、昨日熊谷から貰った名刺を見て熊谷の番号に掛けた。


「もしもし、佐藤ですけど。あ、はい。昨日の話ですけど、俺はいつでも……え? 本部ですか……はぁ、分かりました。そしたら2時頃本部に行きますね。はい、はい……失礼します」


通話を終えると途端にため息をついた。

どうやら焔ではなく、組合本部に行かなければならないらしい。


と言うのも今回のディザスターゲートの他に、先日の連結ダンジョンの事もあるからだ。

本来は両方行かなければならないところを、熊谷が気を利かせてくれたのだ。


ため息よりも感謝するのが普通だが、それでもやはり面倒なものは面倒なのだ。


さっさと組合関連を済ませたかったので着替えて本部へと向かった。


それから本部に着いたのは2時10分前。

少し早いが、気にするほどでもないだろう。


本部のビルの前には数十という数の人間が群がっていた。

カメラやマイクを持っていることからマスコミである事がわかる。

やれ会長を出せだの、説明しろだの、中には探索者自体を罵倒している人間もいる。


疲れた顔で対応する職員が数人いるが、マスコミの態度からして上の人間ではなさそうだ。


「マスコミ? ディザスターゲートの件か……?」


響はマスコミの間をするりと抜けて受付に向かった。特に話しかけらる事もなかったので、詳細は掴めていないのだろう。


「佐藤響です。焔の熊谷さんにディザスターゲートの件で報告に来たんですけど……」

「えっ……あ、は、はい!」


受付嬢はそれを聞くとソワソワし始めた。

キーボードをカタカタ打ちながら、時折こちらに視線を投げている。


──なんだ? 俺の顔になんかついてんのか?


自分の動画がバズっている事など知らない響は、受付嬢の視線の正体に気付けなかった。


「お、お待たせしました! 15階の応接室、2番の部屋で熊谷がお待ちです」

「ありがとうございます」


礼を言ってエレベーターへ向かおうとした矢先、


「あ、あの!!す、すごくかっこよかったです……」

「はい?」


照れながら言う受付嬢だが、響はまるでなんの事か分かっていない。

1部のサイトでは特定班が存分にその力を発揮し、佐藤響であると言う事がバレてしまっている。


だがこの受付嬢のように、直接名乗りまじかで顔を見なければ普通は気が付かない。


──どこかであったっけ? 見覚えはないけど……


「応援してます! これからも頑張って下さいね……!」

「はぁ……ありがとうございます」


訳も分からぬまま礼を言うのは何だか変な感じだ。


だが応援すると言っていたので、もしかしたらいつか同じ攻略隊にいたのかもしれない。

まともにたたかえるようになったのが最近なので、それはそれで納得できないけど、と的はずれな想像をしてその後特に話す事無くエレベーターへと向かった。


15階につき2番の応接室の扉をコンコン、とノックするとすぐに返事がきた。


「どうぞ」


扉を開けて中に入ると、随分質素な部屋だった。

テーブルとパイプ椅子がいくつか、それと大きめのモニターがあるだけだった。


そして熊谷の他にもう1人女性が座っている。

恐らくこちらの女性は連結ダンジョンの担当者なのだろう。


「やあ、わざわざ済まないね響君。こちらは管理課のソフィアだ」

「いえ、大丈夫ですよ。はじめまして、佐藤です」


熊谷は立ち上がり右手を出すと、響も同じように返した。

探索者らしい大きくてゴツゴツした手だ。握手しただけでも強者と分かる。


紹介された女性も立ち上がり、丁寧に頭を下げ名刺を差し出した。


「はじめまして佐藤くん。探索者組合管理課課長を務めてます、ソフィアと申します。本日はどうぞよろしくお願いしますね」

「は、はい。お願いします」


歳は響よりも10は上だろうか。

薄い桃色の髪を腰の辺りまで伸ばし、人懐っこいタレ目。

妖艶な雰囲気の彼女に響は少しドギマギしていた。


まず初めに思ったのが、目のやり場に困る。


スーツはスーツなのだが、シャツは大きく開かれかなり主張の激しい胸が今にもこぼれそうだ。

下を見ればスカートは極めて短く、細く色白な太ももがいやでも目に入る。


これは世の男共が放っては置かないだろう。


「早速で悪いが、まずこの動画を見て欲しい。最近ネットで話題になっているから、知っているかもしれないが……」

「動画……?」


熊谷がリモコンを操作すると、モニターにある動画が流れ始めた。


画像は少し荒いが公園でゴブリンやコボルト相手に誰かが奮闘している。

ドキンと心臓か鳴った。ほんの数秒しか見ていないが、それでも熊谷が何を言いたいか、この奮闘している人間が誰であるかはすぐに分かった。


「あれ、これってもしかしなくても──」

「うふふ、貴方よ? 響君」


いつの間にか後ろに回っていたソフィアが響の肩に手を置き、耳元で囁いた。



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