59話 知らない内にバズってた件②


まさかあの時自分が撮影されているなんて考えもしなかった。

それだけならまだしも、ネットでバズってるとなるともう言い逃れは出来ない。


F級探索者でありながらディザスターゲートを1人で対処するなんて、世間が放っておくわけがない。


「全然気付かなかった……」

「響君、単刀直入に聞こう。君は本当にF級覚醒者なのか?」


動画を止め、熊谷は真剣な眼差しで響を見た。


「俺はF級ですよ。ソフィアさんなら分かりますよね? 管理課なんですし」


本当だ。響は嘘は言っていない。

ただ幾つかの特殊なスキルのおかげでチャンスを手に入れただけで、覚醒等級は変わらずにF級だ。


一々測定で証明せずとも、隣にいるソフィアなら登録データの閲覧権限くらいは持っているはずだ。


「そうなのよね~彼、本当にF級なの。それに、Eランクをメインにダンジョンに行ってるみたいだし、信ぴょう性も充分なのよ。最近はDランクも行ってるみたいだけどね」


チラと響を見る目はデータを信じながらも、どこか疑いの色があった。


──そろそろ隠し通すのも限界があるな。動画がでまわった以上、ここで誤魔化すと逆に面倒くさくなりそうだ。


響は観念したようにため息をついて、両手をあげ降参のポーズ。


「はぁ……わかりました。隠してた事は話します。でも、覚醒等級は本当にFですから」


それから響は今までの事を順に話し出した。


2年間の苦しみや、葛藤。

目目連に出会った事。

臨界点のスキルや、それで得た恩恵。


洗いざらい全てを話した。

不思議な事に心がスっと軽くなったような気がした。


それを聞いた2人の反応は面白いくらい予想通りだった。


「レベル上限の解除なんてそんな事が、有り得るのか……?」

「管理課で2年務めてるけど、過去にもそんなデータはないわ……」

「気持ちはわかりますけど、全部事実ですよ」


1つだけ2人に言っていない事がある。それはモンスター以外にも他人のステータスを見れる事。

別に言ったところで問題にはならないかもしれないが、覗き見していると思われてもいい気分はしない。


「ふぅ……予想外すぎる話だが、まあ……うん、なんとか理解はしたよ。それならF級でありながらあれだけの強さを持つ事も納得出来る」


熊谷は突っ込みたい気持ちを抑えつけ、何とか話を呑み込んだ様子。


「ねぇ響君。貴方、組合に所属するつもりはない? 情報も隠蔽できるし、貴方にあった攻略隊を作る事も出来るわ。他にも、契約金もそれなりに用意するし私や組合に出来るバックアップは全面的にするつもりだけど……どうかしら?」


ソフィアは熊谷とは違い、先の先を見ていた。

頭のいい女であり、だからこその課長なのだろう。


今の話だけでも、響の可能性を理解している。

レベル上限がないということは、極端な話無限に強くなる事も可能なのだ。


私設ギルドに加入されるよりも、国営である探索者組合に入れたいと思うのは当然だ。

俗に言うスカウトというやつだ。


──組合か。正直、魅力的な提案だよな。契約金だってきっと安くはないだろうし……よし、決めた。


響は少しの間沈黙し、スカウトについて真剣に考えた。

自分の攻略隊、契約金、そして情報の隠蔽。どれも響にとってはプラスになる事ばかりだ。


「ソフィアさん、魅力的なお話ありがとうございます」


その言葉に一番驚いていたのは熊谷だった。

目を見開き声には出さないものの、先を越されたと内心悔しがっている。


ソフィアに関しては当然、とでも言いたげに頷いている。


「じゃあ──」

「でも、すみません。組合に入る気はありません。あっ、他のギルドにも勿論入りませんよ! 今はもっと他にやるべき事がありますんで」


ソフィアはあからさまに落胆し、反論しようと腰を浮かせたが、そのまま静かに座り直した。

その隣で熊谷は、一瞬ニヤケたがすぐに同じように落胆した。


焔に入るとでも思っていたのだろうか。


「……そう。残念だわ。でも、何かあったら力になるわ。いつでも連絡ちょうだいね。響君なら……ふふ、プライベートでもいいわよ?」


胸を強調しじっと響を見つめるソフィア。

ミアがいなかったら響もホイホイついていったかもしれない。


「あはは……」

「さて、時間を取らせて悪かったな。響君、ディザスターゲートの件……改めて礼を言う。被害がなかったのは君のおかげだ。本当にありがとう。随分大きな借りが出来たな! この借りはいずれ返させてもらうぞ!」


熊谷はガハハハハと大きく笑った。


「はい、もしもの時はお願いします! それじゃあ俺は行きますね」

「ああ、またな響君!」

「連絡待ってるわよ〜」


ペコリと頭を下げて、部屋を出るとどっと疲れがでてきた。


「結局話しちゃったけど……これで良かったよな。あぁ疲れた。少しボードでも見てみようかな」


疲れたと言いながらダンジョンボードを見に行くという矛盾。

もしかすると、この男ダンジョン中毒者なのかもしれない。


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