60話 知らない内にバズってた件③


ダンジョンボードを眺めていると周りの探索者がチラチラと響に視線を寄越しては、ヒソヒソと話している。


──なんかめんどくさいな。帰ってからゆっくり見ればいいや。


一躍有名にはなったが、それはまだ界隈が限定されている。公式な発表がされていない以上、皆話しかける勇気はないのだ。


それに、この中には過去に響を罵倒していた人物もいる。それがいまやディザスターゲートを抑えるまでに成長したとなれば、いたたまれなくもなるだろう。


外に出るとマスコミ達の視線が一斉に集中した。


「うわっ」

──こいつらの事忘れてた!でも、マスコミに俺の事はまだバレてない…… 普通にしてれば大丈夫なはず……


打ち明けたのはつい先程。

組合がどこまで公開するかは定かではないが、最低限の個人情報くらいは守ってくれるだろう。

それに情報公開するなら許可を取りに来るはずだ。


意を決した響は何食わぬ顔でマスコミ集団の横を通り過ぎた。


「よし……!」


振り返っても誰もこちらを気にしていない。思わず小さくガッツポーズ。

その時だった。

マスコミ集団を掻き分け、見覚えのある水色の髪がぐんぐんと近付いてくる。


嬉しそうな、誇らしそうな表情をしている。

響はものすごい嫌な予感がした。


「まて佐藤響。聞いたぞ、ディザスターゲートを1人で片付けたらしいな。私は今日休暇でな、どうだろう。一緒に茶でもしない……おい、何だその顔は」


嬉しそうな顔のエレナだが、響は反対にこの世の終わりみたいな顔をしていた。

そして、このエレナ・スカーレットのせいなのか、おかげなのかはわからないがこの日、響の名前は国内に留まらず世界中に轟く事になる。


パシャ!パシャパシャ!


ものすごい勢いでフラッシュがたかれ、マスコミ集団が押し寄せてきた。


「貴方がディザスターゲートを閉じたんですか!?」

「F級覚醒者というのは本当ですか!?」

「一言! 一言でいい!」


エレナは額に汗を浮かべ気まずそうな顔で、


「佐藤響、聞いてくれ。悪気はなかったん──」

「そんなの後! 行きますよッ」

「なっ!? て、てててててを離せっ!」


咄嗟にエレナの手を取り駆け出した。

エレナは急に手を取られたせいか、茹でダコのように顔が赤くなりテンパっている。が、逃げる事に必死な響はそれに気付いていない。


どうやらエレナは異性の免疫がかなり低いらしかった。


それから少しの間走るとマスコミ集団は簡単に撒くことができた。


「はぁ……はぁ、ここまで来れば大丈夫だろ」


念の為、人目につかない路地裏に入り息を整える。


「い、いつまで手を握っているのだ馬鹿者っ」

「えっ? あ、す……すみません。嫌でしたよね気を付けます」


響は、はっとしてすぐに手を離した。


「べ、別に嫌だとは言っていないだろう!」

「えぇ……」


どうにもやりにくい相手だ。

響はエレナの意外すぎる一面を知れて嬉しい気持ちと、かなり面倒臭い性格してるなという呆れが混じり何とも言えない気分になった。


「わ、私は仕事があるんだ! そろそろ失礼する!!」


そう言って逃げるように走り去ったエレナだが、それが誤魔化しである事は残念だがバレている。


「さっき自分で休みって言ってたじゃんか……なんていうか……おもしれぇ女。いやこれ俺が言うと結構キモイな。帰ろ」


一度は言ってみたかったセリフをつい口に出すも、どうやらキャラと合わなかったみたいだ。

響は虚しくなりそのままトボトボと帰宅した。


家に着きダンジョンを調べようと思いスマホを開くと、ディザスターゲートのニュースがどのサイトでも取り上げられていた。

先程撮られてしまった写真が乗ってないのは幸いだが、それにしても仕事が早い。


「うわ、記事にすんの早くね」


ブツブツ文句を言いながらも、つい気になって元動画を検索してみると……


「ふぁっ!? 再生回数1億!? まだ1日しかたってないんだぞ!?」


なんとたった1日で1億再生の大バズり。

怖いもの見たさでコメント欄を開くと、特定班の優秀さがいやでもわかった。


”F級探索者 佐藤響 ギルド無所属 神奈川在住 コイツで確定”

”さっき焔のギルマスに呼ばれたって受付で言ってたから間違いない”

”この方はF級の星だ!! 夢と希望を与えてくれる。俺はA級だけど ニチャア”

”佐藤さん、これからも頑張ってください。陰ながら応援しています”

”本当にカッコイイよな。馬鹿にするわけじゃないけど、F級なのに一般人を守るために1人で立ち向かうとか、やべえよまじで”

”ファンになりました。これからファンクラブサイト立ち上げます!!!”



「あ、おわた」


1人呟き、コメ欄をひたすらスクロールする響だった。


────


──



「ソフィア、お前はどう思う?」


応接室にて、熊谷とソフィアは重たい空気を醸し出していた。


「正直、わからないわ。ただ、最近各地でディザスターゲートの発生率が増えてるのと関係があるのは間違いないと思うの……」


PCでデータを表示して大きくため息をついた。

日本各地のディザスターゲートに関するい2年分のデータだった。


前年度と比較すると発生率は約3倍。元々の母数が少ないので、データを見なければあまり実感はわかないだろう。


「そうだな。だがどうもきな臭い。どのディザスターゲートも突然現れている。その前兆……普通のゲートの情報が入らないのは不自然だ。まるでゲートその物を隠されているような、そんな気がするんだ」


「ゲートを隠す……? そんなことが出来る訳……いえ、決めつけは良くないわね。私も各地で情報を集めるわ。瞬、貴方も何かあったら教えてちょうだい」


瞬、というのは熊谷の下の名前だ。

どうやら下の名前で呼ぶくらいには親しい間柄みたいだ。


「ああ、そろそろ焔としても本腰を入れて捜査した方が良さそうだ」


熊谷はなんとなく、これが人為的な出来事だと感じていた。


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