第45話 決戦! フラクタス①
吹っ飛ばされたフラクタスは空中で回転し受け身を取ると、怯むことなく三叉槍を振り回し突っ込んできた。
一振毎に水の刃が放たれる。
響はそれを白光で斬り裂く。飛沫となって辺りに散るが、
「身体が……ッ!」
──まさか斬り裂いても能力が発動するなんて……となると、ほぼ回避は不可能だ。速度減少がデフォルトだと思った方がいいな。
恐らくフラクタスの水禍の能力は水の一滴ですら発動する。
飛沫を浴びた響も勿論それに該当する。
重りをつけているような感覚に陥るが、それでもステータス上昇の効果の方が遥かに高い。
フラクタスは神速の連続突きを繰り出す。
速度が落ちた状態で全て躱すのは至難の業だ。
致命傷になりうる一撃のみ確実に回避し、その他の突きを白光で弾くがそれにも限界がある。
肩や頬に鋭い傷が徐々に増えていく。
──やっぱり強い……俺もかなり強くなったけど多分まだアイツの方が上だ。速度のデバフが厄介だ……それでもやりようはある。
負けじと打ち返し、高速の斬り合いに発展する。
常人の目では捉えられないほどの速度での高度な斬り合いは、一瞬の判断ミスが命取りになる。
速度のデバフがある響にとってこの戦い方は不利でしかないのだ。
上下左右あらゆる角度から斬り込み、何度も火花を散らしていく。
「ふはははは! この程度か人間ッ!」
「くッ……このトカゲ野郎が」
戦況はフラクタスが優勢。
それもそのはずだ。斬り合いながらも三叉槍からは常に水刃や水球が放たれているのだ。
そもそもの手数が圧倒的に違う。
それでも尚この斬り合いに応じるのには理由があった。
──水の出るタイミングは大体掴めてきた。埋め込まれた宝石が少し光って約0,2秒後。それさえ分かればサンダーボルトも打ち込めるはず。
水禍による水の放出のタイミングを計るため、その為だけに大きなリスクに身を投じていた。
上から振り下ろされた三叉槍の宝石が僅かに輝いた。
水刃が放たれるが響は身体を左に逃がし、フラクタスの横っ腹に手を添え、
「サンダーボルトッ!!」
「ぐああッ!!」
一瞬の隙をついたサンダーボルトは鱗のない横っ腹を焼き、更に大きな隙を作る。
「ふっ!!」
白光を振り抜き背中から腹部を斬り裂く。
噴射された血液は飛び散り、その傷の深さを物語っていた。
──手応えはあった! でも鱗の部分の傷は浅い。普通のドラゴニュートと比較にならないくらい堅いな。
斬るには斬れたが、それでもやはりフラクタスの龍鱗は桁違いの防御力を誇っていた。
「人間風情が我に傷をつけるなど……」
フラクタスは三叉槍を天に掲げると、今までの比ではないくらい大量の水が渦をまくよう巨大な球を作り上げていく
「なんだ、あれは……?」
やがて直径10メートル程になった球はボコボコと膨らみ、
「龍の裁きを受けよ──」
恐ろしい形相で響を睨みつけ、三叉槍の切っ先を向けた。
その瞬間、巨大な球からは龍の形をした水が無数に襲いかかる。
「くそッ!」
左右のステップで攪乱し躱し続けるが、地面に激突する度に飛沫が舞う。
そしてその飛沫には速度デバフがあり、どんどん沼にはまりこんでいく。
──直撃したら詰みだ! デバフは無視して斬るしかない!
迫り来る水龍を斬りつける。一体斬る事に大量の水を被り更に速度が落ちていく。
回避しようにも鉛のような体と、無数の水龍とで極めて困難だ。
時間にして約5分程、響はひたすらに水龍を切り刻み続け、遂には片膝を着いた。
「はぁ……はぁ……くそ、これじゃきりがねえ……!」
「諦めろ人間。貴様は確かに強い……だが我には及ばぬ」
フラクタスが冷めた目で響を見てそう言った。
「馬鹿言うな。俺が諦めたら誰がミアを守るんだよ」
響はまだ諦めてはいなかった。諦める訳にはいかないのだ。
覚醒しても尚、特異個体は圧倒してくる。
単純なダメージで言えば、フラクタスの方が受けている印象だ。
だがあの水龍達をどうにかしなければ、いずれはそれも逆転してしまうだろう。
「いいだろう。我の最強をもってして貴様を屠るとしよう。光栄に思うがいい」
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