96話 そして本戦へ②
それから担当員が来ると、黒いカードを渡された。明日の本戦出場の参加証らしい。
担当員は、今日はダンジョンに行かないようにと念を押して、その他に不明点はないかと聞かれたが、特になかったのでそれをそのまま伝えると、担当員は名刺を残して部屋を出ていった。
もうこの場に留まる必要もないだろうと、ミアに連絡をとると、スタジアムの入口付近にいるらしく急いでそこへと向かった。
しかし、この時響は失念していた。響の予選トップ通過は大々的に発表されており、このスタジアムにはモニターで観戦していた多くの人がいる事を。
そして変装などもせずにスタジアムの外に出てしまえば──
「あ、佐藤さん!! トップ通過おめでとうございます! あの……握手して貰ってもいいですか!?」
建物を出て数歩歩いただけで、一般の男性からすぐに声をかけられた。それもかなりの大声で。
「えっと……は、はい」
物凄く嫌な予感を覚えながら、仕方なく握手をすると男は何度も頭を下げて飛び跳ねながら走り去っていった。
もしかしたら響のファンだったのかもしれない。
──この流れはよくない……早くミアと合流して帰らないと大変な事になりそうだ……!
と、思った時にはもう遅い。
「佐藤さん……って主人公だ! おい皆、主人公がいるぞ!」
「え!? 本当だ!! トップ通過おめでとう!」
「本戦も優勝してくれよ! 応援してるぜ」
「おのれエレナたんの仇!! 拙者がエレナたんの無念を晴らしてみせる!」
若干一名変なのが混ざっているが、とにかく大勢の人が響を囲み賞賛の声を上げた。
タイムリーで知名度が爆上がりしている中、注目度の高い大会でトップの成績で予選通過をしたとなれば、こうなるのも頷ける。
「え、えぇ……」
──まずい。これだとミアが探せない! というより帰れなくないか!?
ペコペコ頭を下げ苦笑いしながらしれっとその場を離れようとするも、同じように周囲の人達も動くので結果として抜け出す事は出来なかった。
ふと、そんな大勢の人々の間から遠くにミアがいるのが見えた。
ポツンと木の下で響を待っており、この人だかりに気付いてはいるものの、あまり関心はなさそうだ。
──ええい! こうなったら強行突破だ!
「あれ、主人公が消えた!?」
「嘘、だって今そこに居たよね!?」
響は一瞬の隙をついて、大きく跳躍し力技で集団からの脱出を計った。
「皆さーん! 本戦も頑張りますんで、応援宜しくお願いしますねー! それじゃ!」
はるか上空でそう伝えると、響はゆるやかな放物線を描きやがてミアのいる地点へと着地した。
「……なんで、上から……? わっ……!」
驚きもせずキョトンとしているミアを抱えて、
「ごめん、とりあえずここを離れよう!」
そういうと少し顔の赤くなったミアを抱えたまま、猛スピードでスタジアムを後にした。
─────
───
─
「はぁ……やっと家に着いた」
あれからミアを抱えたまま駅まで走り抜け、その後は視線を浴びることはあったがなんとか無事に帰宅する事が出来た。
「響……人気者。あと……おめ……!」
ふふん、と誇らしげなミアは親指を立ててグッジョブ。どうやら響が活躍したのと、賞賛されているのが嬉しいらしい。
「うん、ありがとう! まさか俺がトップ通過だとは思わなかったよ」
「ミアは……信じてた……」
ぼふっと抱きつき甘えるミア。
そっとミアの頭を撫でる。
互いを見つめ合いなんとも言えない甘ったるい空気が流れる。
「ミア、あのさ……」
そんな中真剣な顔つきで口を開いたのは響だった。
こちらを見つめる吸い込まれるような大きな瞳、潤んだ小さな唇、色白で華奢な体つき。そのどれもが愛おしく思えた。
「明日の本戦が終わったら、話があるんだけど……」
今すぐ伝えたい気持ちをグッと堪えた。
完璧なフラグの立て方ではあるが、本人は至って真面目な顔をしている。
しかしそれでも優勝と言わないところがなんとも響らしい。
「ん……わかった……待ってる」
「うん、頑張るよ」
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